「smash.」とは何者か:スマホで”作品”が生めないって誰が決めたーSHOWROOM 前田裕二氏 Vol.1

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写真左から:KDDIパーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス戦略部長、繁田光平氏、SHOWROOM代表取締役社長、前田裕二氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」などのエンターテインメント事業を展開するSHOWROOMは22日、KDDIと協力してスマートフォン視聴に特化したプロクオリティのバーティカルシアターアプリ「smash.」の配信を開始しました。オリジナルコンテンツの「Hey! Say! JUMP」が提供する縦型フォーマットのミュージックビデオだけでなく、作品を直接つまんでシェアできる「PICK」機能を使ったインタラクティブな体験にも挑戦するなど、5G時代を代表するプラットフォームを目指しています。

この新たな「縦型コンテンツ」の新しい可能性追求すべくタッグを組んだのがKDDIとSHOWROOMです。両社は今年3月に業務資本提携を締結。KDDI Open Innovation Fund 3号から出資を含めた関係値を作ることで今回の共創事業は加速していきます。

大企業とスタートアップという共創関係はどのように築かれたのか、また、両社はサービスを通じてどのような世界観を作ろうとしているのか、キーマンとなるSHOWROOM創業者で代表取締役の前田裕二さん、そしてKDDI側でプロジェクトの推進を担った繁田光平さんのお二人にサービス公開までの裏側をお聞きします。インタビューの初回は前田さんからです(本文中の太字は質問はMUGENLABO Magazine編集部、回答は前田氏・敬称略)

5Gを体感する新メディア「smash.」

smash.

22日にバーティカルシアターアプリ「smash.」の提供が始まりました。第一弾のオリジナルコンテンツとして「Hey! Say! JUMP」のミュージックビデオに加えて作品も配信開始しています。まず、このsmash.というプラットフォームについて、どのような狙いがあるか、お話いただけますか

前田:僕ら最近「作品」っていう言葉をよく使ってるんです。

みなさんにちょっと想像していただきたいんですが、日々、スマートフォンでよく使っているサービスが様々あると思うんです。例えばYouTubeだったりLINEだったり、Instagram、Twitter。こういったプラットフォームで何か自分の心に突き刺さるような、自分の人生を変えるきっかけになるような作品があったかなと考えてみると、意外とすごく少ないんじゃないかなと。YouTubeから生まれた作品を挙げてくださいと言ってもちょっと難しい。なんでだろうなと。

こう考えたんです。例えば作品やアートってきっちり「額縁」に入ってるじゃないですか。額縁に入れられ、美術館に飾られると極論、真っ白なキャンバスに線を一本描いただけ、のようなシンプルな作品でも一気に「作品」としての重みを感じる。そういう視点で、「スマホの中に作品を展示するための額縁や美術館」が今まであったのかなって。作品は、作品が生まれてくるための場をきちんと作ってあげないことには、きっと生まれてこないだろうなと。プロクオリティの作品って例えば映画だったり、テレビの中にも勿論、誰かの人生を変えるようなすごい感動を与えるものって過去にも生まれてきたと思うんですけど、これをスマホ上で観たいと思ったんですね。

逆に「スマホ上で作品が生めないって誰が決めたんだろう」と僕らも思っていまして、それを全力で言いたい、反語的に、いや、生めると証明したいというのが、このsmash.の根底にある価値観なんです。

smash.のことを説明される時、前田さんはスクリーンサイズとコンテンツの変遷についてお話されています。改めて詳しく教えていただけますか

前田:これは、世の中の映像メディアの「ポジショニング」を社内で整理する時に、そして、smash.がこの4象限のうちどのポジションを取りに行くのかっていう戦略を説明する時によく使っている図です。縦軸が映像の作り手ですね。下にいくほどプロの方々で、上が素人。素人ってなんですかと言うと、みなさんも例えばInstagramで、今日のランチはどうだった、とか5秒ぐらいで動画を撮影して文字を入れてアップしたりすると思うんですが、あれが一番上に位置するいわゆる素人動画ですね。

動画市場におけるポジショニング

この「プロ or 素人」の縦軸に、もうひとつ重ねた横軸が「スクリーン」軸です。すなわち、これは映像の作り手が実際、どのスクリーンを意識してコンテンツを作っているのか、という観点です。この図ではこれがすごく重要で、歴史的にプロの方々は本図の右にあたる、16:9 の横スクリーンをめがけてテレビや映画のコンテンツをずっと作ってきた。

とある映画監督さんとの会話の中で、僕もすごくハッとしたのが、今までプロの映像の作り手として、この「スマホ向けの映像を作る」という発想が微塵もなかった、ということです。そもそも、スマホ向け作品を作ろうにも、その作品を載せる場所がない。メディアもない。プラットフォームもない。だから特に求められることもなかったし、リクエストを受けたことがないから考えたこともなかったと。

けど、考えてみると、今、みんなが一番可処分時間を使っているスクリーンは、テレビじゃなくてスマホである、というのは目を背けようのない現実であり。一方、今まで、プロの映像の作り手の方々は(四象限の)この右のスクリーン向けに作っていましたと。

ちなみにこの横軸の「スクリーン最適」という軸には、画角や質感や企画やキャストなど本当に様々な要素があるんですが、分かりやすくするために、中でも一番影響が大きそうな要素である「時間」に絞って考えています。

横スクリーンというのは元来、基本的に家の中だったり、映画館だったり、ちょっとチルして、ゆっくりして長い時間見る前提のある場所に置かれています。だから、そこに向けて作るコンテンツも時間軸がちょっと長めに設定してある。テレビで言うと30分から1時間ぐらい。映画でも2時間や2時間半ぐらい。横スクリーン型になればコンテンツの時間は長く、スマホになれば短くなる。そういう進化でした。

プロクリエイターの技巧を「スマホ世界」に流し込む

短尺動画のトレンドは古くは分散メディアのあたりから始まって、TikTokで爆発した感がありました。一方で時間についてもやや幅があるように思います。この辺りのベストプラクティクスはどうお考えでしょうか

前田:この右下から生まれたプロの映像コンテンツ、例えばテレビ番組のアーカイブなどはどんどんネット上にコピーされて、そもそもが著作権を無視しているのでその問題もありましたけど、それ以上に、それら映像はスマホで見るにはちょっと冗長だったんですよね。そこからYouTubeには5分から10分の動画をリズミカルに、ジャンプカット編集を入れてサクサクと小気味よい、リズム感のあるコンテンツにしていった。ヒカキンさんなど、人によっては逆にテレビ化して、20-30分の尺をとっているケースも直近では増えていますが、やはり基本は、スマホはLINEなどの通知もバンバン入ってきますし、移動中などに使っているケースも多いですから、短尺のほうが使い手にとって都合が良い。

だから今は5分でも長い、さらに若年層になればもっと短くなって、TikTokの登場後は15秒尺がスタンダードになってきている。smash.は、作品性や「人の心を動かす」ということを重んじるため15秒はさすがに難しいのですが、一番短い物は1、2分、長くても5分から10分までの時間尺でコンテンツを作っていきたいと思っています。これくらいのshort尺でも、十分deepな体験ができる。short but deepをスローガンに掲げてコンテンツ創出に向き合っています。

一方でプロの作品というのはまだまだ長い印象があります

前田:確かにおっしゃる通りです。ですが最近は、アニメの23分程度の尺に合わせるかのように、ドラマでも20分ほどのコンテンツが増えてきています。僕が今、Amazon Primeでハマっているドラマも、ちょうどそのくらいの尺です。もしかすると、コンテンツが長ければ長いほど、よほど脚本がよくない限りユーザーの離脱率が上がってしまう、というデータが観察されているのかもしれませんね。ユーザーからすると短い方が気楽に見られるのに、プロの作り手は長い物で伝えたいという、作り手と受け手のギャップがあらゆるところで生じている。

なので、才能のある一流クリエイターの方々を、僕らがどんどん巻き込んでいって、この才能の向け先を、テレビや映画からスマホの世界に振り向け直していって、プロのコンテンツをスマホに大量に流し込んでいく。この取り組みが、スマホ上における大きなコンテンツ革命を生むと確信しています。

「つまむ」ジェスチャーが完全に空いていた

ところでsmash.では動画をつまんで「PICK(ピック)」する、という新しい動画シェアの概念を提案されています

前田:まさに最初、ダブルタップで動画を切り取るというアイデアがあり、それでモック版で実装が進んでいたのですが、ここは異常に僕がこだわったところで、途中で「つまむ」に切り替えました。大きな理由としては、「ダブルタップする」というジェスチャーは、もうとっくに、YouTubeはじめ他の動画メディアで習慣化していた。僕自身も、ダブルタップは10秒早送り、という「手グセ」がついています。でもスマホで「つまむ」ってジェスチャーは、やったことがないし、まだ文化として存在しなかった。

この「つまんだ」時間だけ動画を切り取れて、自分のマイページにコレクションしたり、SNSにURLでシェアできたりする機能が「PICK」です。Hey! Say! JUMPはじめ、ジャニーズのコンテンツでもこの機能が解禁されています。是非注目してもらって、楽しんでいただきたい部分ですね。

詳しくはsmash.アプリの中の動画を見ながら、実際にPICKしてみて欲しいのですが、作り手側がPICKを促すようなコンテンツを、隠れミッキー的に入れ込んでいく、という遊びもあります。例えば、実はHey! Say! JUMPのミュージックビデオの中にも、いかにしてお客様、ファンの皆様にピックしてもらうか、という仕掛けが幾つも施されています。映像を何度見ても楽しめるように、「まだ見つけていない隠された楽しみが何かあるんじゃないか」と思ってもらえるように、監督やメンバーが本当に徹夜する勢いで演出を真剣に考えてくれて。

いかにファンの皆様のことを幸せにしたいか、笑顔にしたいかというプロ意識を感じた瞬間でした。

ユーザーが作る世界「じゃない」方

smash.は今後、2600本のコンテンツを来年3月末までに用意するとお聞きしています。ただ、ユーザーの手のひらの可処分時間には限りがあります。どのように差別化していかれますか

前田:TikTokって本当に世界一のサービスだなと思うんですが、そこに上がってくるコンテンツは、原則、素人が中心であり、プロの演者が挙げているコンテンツも、そこに制作や編集が入り込んでいるケースは少ない。むしろそれを入れない独特の質感が、TikTokの楽しさの源泉ですからね。

mixiもFacebookも、「日記を投稿する人」や「投稿数」をいかに増やすかが初期に重要だったという話がありますけど、ユーザーがただ友達の日記に書き込むだけではなく、ちゃんと自分で独立した投稿を投げるユーザーに成長してくれるかどうか、そこのユーザー体験の設計が大事だったわけですよね。

僕らもいずれ、ユーザー投稿を段階的に受け入れる戦略を張っていますが、まずはそれ以上に、動画のクオリティ担保に奔走・注力したい。「このコンテンツに数分の時間を使ってもなんか時間の無駄だったな……」というものは極力排除して、「ああ、良い3分だったな」と思えるものを出していきたいなと思っていて。これは結構な違いになると考えています。また、「良いコンテンツ」という価値観の尺度が、人によって当然ずれることも重要な観点なので、ユーザーの視聴特性に応じて、AIに機械学習させてレコメンドもしていきます。

コンテンツのバラエティについても質問させてください。今後、「縦型ならでは」のアイデアが出てくると思いますが、現時点で教えていただけるアイデアがあれば

前田:例えば、「インタラクティブドラマ」に挑戦したいと考えています。ユーザーの選択によって、物語が変わっていくようなものですね。今、実はNetflixとかでもこういったストーリー選択式のコンテンツは存在するのですが、若干まだ違和感がある。

これは理由があって、要因仮説の一つは「リモコン」だなと。つまり、見ている側が突然、選択肢を提示されても、今ソファに寄りかかってリモコンが手元に必ずしもあるわけではないわけですから、「あれ?リモコンどこだっけ」ってなった瞬間に冷める。でもスマホだったらいつでも親指は遊んでいて、何か入力を促されたら気軽にできます。TinderのSwipe Nightもこの方式のハイクオリティドラマをTinder内で展開して話題になりましたが、もしかしたらこの選択式という方式、「インタラクティブドラマ」という発想は、スマホ動画でこそ、うまく機能していくのかもしれません。

ただし、これもまだ本当にどう転ぶかわからない。

今は全てが「仮説」なので、早く実際にサービスをローンチして、市場に問うのが楽しみでなりません。そして、お客様に育ててもらいながら、サービスを丁寧にブラッシュアップしていって、日本だけでなくアジア、そして世界中を席巻するメディアとへと爆速で成長させていく目線です。日本発のバーティカルシネマ「smash.」、目指すは、世界です。

ありがとうございました。(次回につづく)

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