3月24日、ついにDeNAの「Showroom」とMUGENUPのコラボによる「Showroom アニメ」の初番組「こちら娘島高等学校ほーそお部」がスタートした。
ライブコミュニケーティングアニメと表現しているこの番組は、キャラクターの動きと声は声優が担当し、リアルタイムかつインタラクティブなアニメーションとなっている。初回の放送における来訪者(閲覧者)数2,000人を超え、大きな反響を読んだ。
先日、本誌で掲載した対談記事では「Showroomアニメ」の仕組みを、「アニメのリーンスタートアップ」と表現した。その仕組がどのように作られているかについては以下のメイキング映像も参考にしてもらいたい。
この新たなサービスの仕組みはどのような変化をアニメにもたらすのだろうか。
プラットフォームを提供するShowroomの安江亮太氏、ライブコミュニケーティングの技術を担当するMUGENUPの一岡亮大氏、そして出演する声優の所属する声優事務所ACROSS ENTERTAINMENTの代表取締役 藤崎 淳氏から、それぞれの考えを伺った。
安江氏「私は以前、Mobage事業に関わっていて、そこでアバターと声優をくっつけることでアバターをしゃべるようにできないか、と考えていました。
今年の1月からShowroomに関わり始めた際に、前田さんと声優業界の面白さについて話をしていたところ、前田さんから「声優おもしろいじゃないですか、やりましょう!実はMUGENUPとこういう話をしているんです」という話を聞いて。それじゃあやりましょう!ということになりました。」
その後、安江氏がShowroomに声優の方に出演してもらうべく声優事務所に営業をかける中出会ったのがACROSS ENTERTAINMENTだった。
「こちら娘島高等学校ほーそお部」に出演している声優は芸能事務所ACROSS ENTERTAINMENTに所属する声優だ。同事務所は数多くの番組で活躍している声優、山寺宏一氏が所属する芸能事務所としても知られている。
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安江氏「当然かもしれませんが、Showroomのサービスとしての実績や、他の事務所の声優が出演した事例を気にされるなど、あまり積極的ではない事務所もいらっしゃいました。そんな中、藤崎さんには真摯に話を聞いていただきました。」
藤崎氏「私の事務所には山寺宏一という役者がいて、彼は声の仕事で基盤を作り、ドラマや映画にも出演しました。彼は声優として顔と名前を認知してもらえたんです。
声優は基本的に作品の登場人物に声をあてる中の人として活動しています。そのため、裏方のような認識でいることが多い。ですが、実は声優と呼ばれる人には舞台役者としても活動している人は多く、劇団に所属しながら声優の仕事をしている人もいます。
声優として活動しつつも、顔出しにも取り組みたいと考えている役者さんもいるのですが、所属事務所側が声の仕事に特化しているので顔出しには積極的ではないところが多いと思います。」
藤崎氏はACROSS ENTERTAINMENTのことを総合プロダクションとして捉えており、あまり仕事の領域に壁を作らないようにしていた。そのため、今回のShowroomアニメの話へのレスポンスも早かった。
新人の声優をスターダムへ
「こちら娘島高等学校ほーそお部」に出演している声優は現在「預かり」というポジション。ACROSS ENTERTAINMENTでのタレントは「準預かり」「預かり」「所属」と3つのカテゴリーに分けられる
藤崎氏「みんな「所属」を目指して努力します。「預かり」と「準預かり」はわかりやすく言うと新人という扱いになります。うちの養成所から審査を受けて合格した人は「準預かり」。「預かり」は別の事務所からの移籍など、すでにキャリアを積んでいる場合、試用期間的な意味での新人ということになります。新人から段階を経て「所属」へと登っていく。」
安江氏「Showroomアニメには、すでに有名になっている声優の方が出演するというより、藤崎さんの事務所でいうところの、「準預かり」や「預かり」といった、これから有名になることを目指す声優の方が出演するイメージですね。」
一岡氏「Showroomアニメの制作側としてボトルネックになっていたのは演者さんでした。なかなか実力のある声優さんを見つけることができなくて。
コンテンツは制作する機会を増やしていかないとどれが良いコンテンツなのか把握することは難しい。制作サイドとしてもコンテンツを作る回数を増やさないといけない。その点、Showroomアニメはパッケージされたアニメと違ってスピード速く制作することができます。こうした新しいアニメの作り方に一緒にチャレンジできるパートナーが見つかったのはとても心強いですね。
コンテンツを作る機会が増えれば、それだけ演者である声優の方の機会も増える。ここから声優の方をスターダムにのし上げていくことをやらないといけないな、と考えています。」
声優の個性を発信する場として
安江氏「現段階で「預かり」や「準預かり」、養成所の新人声優の方々が有名声優になろうと思うと、どういったルートが考えられるのでしょうか。Showroomは頑張る人に成功までの新しいルートを用意したい、というのがコンセプトになっている一方で、現状は声優がスターになるためのルートは非常に限定されているという印象を持っています。」
藤崎氏「一番わかりやすいのはオーディションに受かり、出演した作品がヒットしてくれることですね。声優の人気は作品の人気に引っ張ってもらえますから。」
安江氏「アニメのDVDの販売本数も伸び悩み、年間のアニメの制作本数も減ってきている中で、声優の方がヒット作に出会う確率は低くなってきているんじゃないでしょうか。」
藤崎氏「そうですね。その一方で、声優を目指す人は増えているので競争はかなり激しいです。以前は、若いキャラクターの声もベテラン声優さんが演じていましたが、最近では若い新人が多いので、若いキャラクターの声は若手が演じるようになってきています
さらにアニメの放送も1クール(3ヶ月ほど)で終わってしまう作品が増え、以前よりキャラクターが視聴者の印象に残りにくくなっています。なので、声優とキャラクターのイメージが浸透しづらくなってきている。」
一岡氏「そういう意味ではShowroomアニメの初番組「こちら娘島高等学校ほーそお部」はとても良いですよね。」
安江氏「キャラクターと声優の性格がほぼ一緒ですからね。」
一岡氏「声優の方に合わせてキャラクターの設定を書きなおしました。声優の方にヒアリングして、好きなものを聞いたりして。こうしたコンテンツの作り方はありませんでした。あとはこのコンテンツをヒットさせないといけない。これはプラットフォーマーと制作側の役割ですね。ちゃんと道を作っていかないと。」
藤崎氏「声優とキャラクターの性格がほぼイコールの状態で番組が作られるのは、私の考えでは願ったり叶ったりなんですよ。今の若手は演技や歌をある程度器用にこなしてしまうので、逆に差別化が難しくなってきてると思います。
ではどのポイントで選ばれるかというと、私は「パーソナリティ」だと思っているんです。人間としての魅力や個性といった部分。それをShowroomアニメでは出すことができる。キャラクターを好きになってくれた視聴者は、演じている声優の個性を好きになってくれた、ということになるのでありがたいですよね。」
安江氏「自分に近いキャラクターにファンがつき、スターダムを登っていく声優の方が1人でも出てきてくれるといいですよね。」
藤崎氏「そうですね。Showroomアニメを通じて、より多くのユーザさんに声優のパーソナルな部分を知ってもらいたいですし、アイデアをもらいながら一緒に楽しんでもらえるといいな、と思います。コメントをもらい番組に反映させて、一緒に番組を作っていくような感じで。」
一岡氏「そういったパッケージにはできない更新性が一番の強みです。放送してリアルタイムでユーザの反応をみて、翌週の放送にはキャラクターの設定を変更させる。これはパッケージされたアニメにはできないこと。これから色々試していきたいと思います。」
各プレイヤーがコラボし、声優業界、アニメ業界に変化をもたらそうとしている。「こちら娘島高等学校ほーそお部」はこの記事が掲載される3月31日の夜21時に第2回が放送される予定だ。「Showroomアニメ」に関心がある人は、彼らのチャレンジをこちらからチェックしてほしい。
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