データの力で「ごはんを捨てない」しくみをーー「つづく」をつくるスタートアップたち(1)ukabis【ACVポッドキャスト】

Image Credit : Quang Nguyen Vinh

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

持続可能(サステイナブル)な社会はどうすれば作れるのでしょうか。

新型コロナの発生にはじまり、ウクライナ・ロシアによる地政学的な政情不安、さらにジェネレーティブ(生成型)AIの飛躍的な進歩など、変動要素が複雑に絡み合う中、多くの企業経営者たちはこの課題に対してどのようなビジョンを示せるかが問われるようになっています。

アクセンチュアが国連グローバル・コンパクト(UNGC)と実施した「サステナビリティに関するCEO調査」では、128カ国・18業種の2,600人以上のCEOから得られた見解と課題解決に向けた必須アクションが掲載されています。この中ではビジネス戦略と紐づいたサステナビリティ戦略こそが、近年の経済的・地政学的リスクや不安定な経営環境から身を守る基盤になりうると示しています。

一方、地政学的な不安定さと気候変動危機は、持続可能な社会づくり、経営に大きな影を落としています。レポートでは実に83%のCEOたちが、現在の地政学的な不安定さがSDGsの達成を阻んでいると感じているそうです。

では、どのようなアプローチがこの課題解決に必要とされているのでしょうか。そのひとつがオープンイノベーションです。アサヒグループホールディングスはアサヒビール茨城工場において、工場排水由来のバイオメタンガスを利用して燃料電池で発電する独自のプロセスを開発しました。同社は特許を取得することなく情報を公開し、競合を含む多くの企業が関心を寄せているそうです。

スタートアップとの取り組みもまた重要な鍵を握ります。

アクセンチュア・ベンチャーズではこれまでにサステナビリティをテーマにしたポッドキャストを配信してきました。そこで本稿ではこれらの対談から、持続可能な社会を目指すスタートアップの取り組みをショーケースとしてご紹介いたします。

  • データの力で「ごはんを捨てない」しくみを:ukabis
  • ペットとの暮らしを持続可能にする方法:Petokoto
  • 地域資源を再利用、沖縄発“パイナップル糸”製造:FoodReborn

ポッドキャスト全編はこちらから

https://open.spotify.com/episode/7F7rXkYxQGQxpv3LdzV1OF?si=6eXYT6GVSamtZeCmXHaUhQ

お茶碗一杯の食べ物を捨てる国

日本のフード(食品)ロスは度々「国民一人が毎日お茶碗一杯分の食べ物を捨てている」と表現されます。農林水産省が公表した「食品ロス量」は、令和2年度の食品ロスの発生量を事業系と家庭系に分けて推計したものです。食品ロス量は推計開始以来、最少になりましたが、まだ522万トン(※)に達しています。これは世界の食料支援量(2020年で年間約420万トン)を超える量です。※農林水産省及び環境省「令和2年度推計」

フードロスをなくす取り組みは家庭と事業で大きく分かれており、家庭では食べきりができる量を用意すること、事業関連では在庫管理や需要予測が重要になると言われています。

今回、ポッドキャストに出演してくれたスマートフードチェーン推進機構のukabisはまさにこの事業系フードロスをテクノロジーの力で解決しようという取り組みになります。

事業系フードロスにまつわる落とし穴

フードロスを完全になくす究極の方法、それは需給バランスを均等にすることです。つまり、1つのキャベツを生産して、ひとつのキャベツを食べれば廃棄は生まれません。しかし現実の食糧生産と家庭での消費には長く複雑なサプライチェーンが存在しており、ここに潜む数多くの課題が前述の大きなフードロスにつながっているわけです。

ポイントはやはりサプライチェーンの最適化にあります。この課題にプラットフォーム的な視点で取り組むのがスマートフードチェーン推進機構です。農研機構や民間企業、大学等が連携し、育種から生産、加工、流通、輸出までのスマートフードチェーンの事業化につながる研究開発を推進する一般社団法人になります。スマートフードチェーンの折笠俊輔さんは対談の中、現在の流通システムの問題点を次のように語っていました。

「なぜデジタル化が進まないかというと、大きな理由は平均年齢が68歳で高齢化が進んでいることと、規模が小さいことです。さらに生産者だけがデジタル化しても、その先の出荷先市場やサプライチェーンの中で誰かだけがデジタル化しても繋がらないため、誰も投資しようとしなかったという課題もあったんです」(折笠さん)。

現在の流通システムには情報共有のリアルタイム性が不足している、という課題があります。例えばコロナのようなことが起こると、飲食店は深刻な影響を受ける一方、スーパーマーケットの売り上げは上昇することがあります。つまり、とんかつ屋さんのような飲食店向けの卸業者ではキャベツが余っているにもかかわらず、小売向けの卸業者では「キャベツがない」状況が生まれる、というわけです。こういった情報の共有がリアルタイムでうまくできていないために、キャベツの廃棄が起こったり、価格の高騰が発生したりするのです。

リアルタイムに共有できないもうひとつの理由が人への依存です。例えば、生産者が今日キャベツをこれだけ出荷したという情報は、現物に手書きの伝票で送られてきたり、FAXで送られてくることがあります。そのFAXが市場に届くと、朝からパートタイムのスタッフさんが一生懸命手打ちで入力作業を行い、競りが行われます。その後、買われたものは小売に流れますが、販売先のデータとは繋がっていないので、また打ち出した伝票が必要になり、打ち出した先で再度手打ちされるようなことがあるというのです。

このような非効率がリアルタイムの共有を妨げ、結果としてコロナ禍で余ってしまった「飲食店のキャベツ」はそのまま廃棄されることになるのです。

データの力で余剰食材をこども食堂に提供

ukabisのウェブサイトから

では折笠さんたちはどのようにしてこの問題に取り組んでいるのでしょうか。ひとつわかりやすいケーススタディがあったのでご紹介します。それがこども食堂への食材提供実証です。

スマートフードチェーンが提供するプラットフォームukabisは農家や漁業者、生産者の間で使用される生産管理システムのデータを連携させることを目指したものです。つまりこれそのものが単体で食品のトレーサビリティを提供するわけではなく、関連した事業者を「つなぐ」ことで問題解決を図ろうとしているわけです。具体的には、既に生産者向けに提供されているベンチャーやトレーサビリティシステムを作っている会社と協力して、その裏側でデータを繋ぐことを手掛けているそうです。

こども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂で、全国各地でボランティアスタッフにより運営されているものです。もちろん食材についても多くの寄付などで賄われています。

そこでukabisでは、余剰食材の情報を登録することで、食品ロスを防ぎつつ、こども食堂に食材を届ける実証を枚方市と大阪市の2か所を舞台に実施しました。

まず、枚方市での実証では、フードバンク活動も行う生活協同組合から余剰食材を提供してもらい、余剰食材の情報をukabisに登録し、こども食堂とのマッチングを実施して食材を届けたそうです。また、大阪市での実証では、企業が災害時のために備蓄している災害備蓄食材のうち賞味期限が近づいてきたものを提供してもらったそうです。

トレーサビリティの付加価値

ftraceはグローバルで利用が進むトレーサビリティプラットフォーム

食品のデータ流通におけるもうひとつの課題が、この工数を誰が負担するのか、という問題です。そこで注目したいのがブランドやイメージの付加価値に対する考え方になります。わかりやすい例が産地による食品のブランド化です。贈答品として利用された場合など高価格帯の値付けが可能になります。折笠さんはトレーサビリティによるブランド付加価値のケーススタディとしてドイツの「fTRACE」を紹介していました。

「ドイツでは『fTRACE』という仕組みがあります。ドイツのJANコードを管理する団体が運営しており、現在、世界で最も使用されている食品のトレーサビリティプラットフォームです。fTRACEではトレーサビリティ情報だけでなく、マーケティング情報もこのプラットフォームに載せることで価値を生み出すことができていると言っています」(折笠さん)。

折笠さんは、食品の安全や需給をバランスさせるためのトレーサビリティ情報だけでなく、ブログやSNSのように、生産者側が情報発信できるようにすることで、商品がどこで、どのように生産されたのかといった情報を加えることができるようになるといいます。このマーケティング的な視点での情報を一緒にしくみに乗せることで、トレーサビリティを担保するための付加価値を生み出せると語っていました。

ポッドキャストセッションではukabisの取り組みをはじめ、食品事業のDXに関する幅広い話題が提供されていました。ご興味ある方はポッドキャストをぜひお聞きいただければ。

次回につづく:ペットとの暮らしを持続可能にする方法:petokoto

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