【海外VCの視点】日本人が知らない「日本企業の強み」とアフリカ市場での可能性

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバル・ブレイン(GB)にて主にアフリカ地域のスタートアップへの投資を担当している反田です。

先日、アフリカでスタートアップ投資を行うVC「Ventures Platform」のパートナーが来日し、GBのオフィスを訪れました。今回はその訪問の様子と、「日本企業とアフリカスタートアップのシナジー」について彼らとディスカッションした内容をお伝えします。

アフリカスタートアップの最前線を知る2人

Ventures Platformは、ナイジェリアに拠点を置くアフリカで最も有名なVCの1つです。100社以上のアフリカスタートアップへ投資し、アクティブなポートフォリオは75社以上に及びます。

来日したのは、Kola AinaさんとDotun Olowoporokuさんの2名。KolaさんはVentures Platformの創設者であり、Stripeが買収したPaystackへの投資実績もあるキャピタリストです。ラゴスを中心にエンジェル投資家のコミュニティで理事長を務め、ボランティアとしてナイジェリア大統領にスタートアップ振興のための助言を行っています。

Dotunさんは、GBとVentures PlatformがナイジェリアスタートアップのMecho社に協調投資を行った際の担当キャピタリストです。アフリカでは数少ないアカデミア出身(Ph.Dホルダー)のキャピタリストでもあります。

GBのオフィスを訪れた2人は、まずはじめにGBの代表取締役である百合本との面会を実施。お互いのVCの特徴や強みについて説明し合ったのち、質疑応答を行いました。双方の間には戦略面やビジョンに関して多くの共通点があり、今後も深く連携して知見を共有していくことで合意しました。

現地VCが語る、アフリカ市場のいま

今回Ventures Platformとは、アフリカ市場と日本企業の連携に関するディスカッションも行いましたので、その内容を対談形式でお伝えします。(太字の質問はすべてUniverse編集部)

──2023年のアフリカ市場を振り返った所感を教えてください

Kola:2020~2022年のアフリカ市場は、コロナ禍直後のホットマネーで急激な成長が見られました。しかし2023年には再調整が行われ、元の水準に回帰。バリュエーションも高かった時期から落ち着いた状態へと変化しました。

ナイジェリアに限ってみても、2023年全体のバリュエーションはかなり低下しました。投資件数は増加したものの、1社あたりのバリュエーションは下がったと言えます。一部の企業は資金調達に苦労し、エクステンションラウンドも多く行われました。

しかし、アフリカの成長が停滞したわけではありません。ナイジェリア中央銀行によって旧ナイラ(*ナイジェリアの通貨単位)紙幣が一時期廃止されたことは大きな混乱をもたらしましたが、同時に国の政策そのものが変化したためにFintechが加速しました(現在、旧紙幣の廃止は延長され使用が認められています)。また過去4〜5年間はナイジェリアに資金が集まっていましたが、エジプトやケニアにも資金が流れ始めているというトレンドもあります。

さまざまなトレンドがありましたが、総じて言うと「市場がリセットされて正常に戻った1年だった」と言えるでしょう。

Kola Aina:Ventures Platform共同創業者。主な投資先は、Mono、PiggyVest、Reliance HMO、Paystackなど。過去にはナイジェリア大統領のもとで技術・創造性諮問グループ議長、雇用創出・青年雇用委員会共同議長も務めた。

反田:私も同じく、バリュエーションが標準化され始めたという印象を持っています。2021~2022年のアフリカスタートアップにはグローバルでの投資が加熱していましたが、GBとして投資経験がある東南アジアの類似企業と比較してもバリュエーションにかなりのプレミアムが付いており、リスクが高く投資を見送った企業も多くありました。これほどまでに市場が過熱した要因の1つには、米国を中心とした海外資本の流入が挙げられます。

Kola:はい。外部からの参入により市場が歪むこともあるというのは、アフリカの多くの企業にとって学びであったと言えます。

反田:個人的には、いまこの環境下で成長しているスタートアップこそ、マーケットのペインにしっかり刺さっており、経営陣のエグゼキューション力が高く投資すべき企業だと思います。

──今後の投資に関するお話が出ましたが、Ventures Platformがいま注目している領域や企業の特徴を教えてください。

Dotun:Ventures Platformでは投資セクターを限定していませんが、いま特に検討に時間を割いているのはAIとClimate Techです。AIについては、生成AIが今後アフリカでどのような活用をされ得るのかユースケースを調査しつつ、既存ポートフォリオ企業への影響も注視しています。

ご存知のとおり気候変動は将来に関わる重要な課題ですので、Climate Tech企業は積極的に探しています。加えて、既存のポートフォリオ企業が地球への影響を減らすための取り組みも注意深く見守っています。いずれのセクターにおいても、Market-creating Innovation(市場創造型の革新)ができる企業であるかという観点が重要です。

Dotun Olowoporoku: Ventures Platformパートナー。University of the West of Englandにて環境マネジメント博士号取得。アフリカ発の老舗インパクトVC Novastarでキャピタリストとして従事した後、メガFintech企業のMoniepointにてCCOを経験。

Kola:併せてヘルステックにも注目しています。将来的に、アフリカの若年層が世界の過半数を占める見込みであり、世界の医療が逼迫しないようヘルステックを成長させることが重要です。またゲノミクスにも関心を寄せています。

アフリカが求める日本企業の「長期的な視点」

──SBIホールディングスによるアフリカVCへの出資住友商事と現地テレコム企業によるアクセラレータープログラムのローンチヤマハによるナイジェリア発スタートアップへの出資など、ここ数年日本企業のアフリカでの活動が盛んです。日本企業がアフリカのプレイヤーと協働する際に意識しておくべきポイントは何でしょうか?

Kola:来日中に多くの日本の老舗企業と会話をして気付いたのは、彼らが長期的な視点を持ち、立ち直る力と忍耐力を備えているということです。アフリカの市場がまだDay1であるという事実を考えると、アフリカが必要としているのは日和見主義的な企業ではなく、長期的な視点を持った企業です。日本企業が持つ忍耐力と立ち直る力は、アフリカのニーズに合っています。

またアフリカは地域やセクターによっては黎明期であるため、国内の規制が追い付かず、市場は日々劇的に変化していきます。そのため日本企業がアフリカで成功するためには、急激なマーケットの変化に対応できる、信頼性の高い現地のローカルパートナーを見つけることが重要です。

忍耐力と長期的な視点を持ちつつ、信頼できるアフリカのローカルなパートナーを見つけられれば、戦略的な連携を実現できるのではないでしょうか。

Dotun:ローカルパートナーの観点は重要です。アフリカは州ではなく54の独立した国から成り立ってるので、アフリカでビジネスを成功させるためにはその国々に精通したプレイヤーとのパートナーシップ構築が重要です。

──アフリカに駐在した経験もある反田さんの観点でも、日本企業が意識しておきたいことを教えてください。

反田:まだアフリカに進出していない日本企業にとってこのエリアは、広大で現地の情報も得づらい地域です。そのような企業がビジネスを考える際はとにかく「小さく、早く」マーケットに進出すべきだと思います。

また、スタートアップ投資を行うのであれば、アフリカの4大経済圏(ナイジェリア、エジプト、ケニア、南アフリカ)の中でも特に、「エジプト」と「ナイジェリア」の企業に注目していただきたいです。当然カントリーリスクの懸念はあるものの、この2国は日本企業の進出がまだ少なく先行者優位に立てます。またGDPが域内でトップ1、2位であることや、両国がアフリカのユニコーン企業のほとんどを輩出した国であるということを鑑みても、他のアフリカ諸国より流動性が期待できます。

まとめ

ディスカッションでは、Ventures Platformのおふたりから日本企業とアフリカとのシナジーについてポジティブな見解を伺えました。これまで日本は大企業を中心にアフリカと長期的な関係を築いてきましたが、その連携の流れがスタートアップの領域にまで及んできた証だと言えます。

このことは、前職も含めてアフリカでのビジネスに深く関わってきた身として大変嬉しく思います。今後もVentures Platformとは情報交換を行いながら、Mecho社に続く優れたアフリカスタートアップに協調投資を行っていきたいと考えています。

これからもGB Universeでは、日本の方にとって参考になるアフリカスタートアップ情報を発信していく予定です。ぜひご覧いただければと思います。

(GB Universeの更新情報はグローバル・ブレイン公式Xにてお届けしています。フォローして次回記事をお待ちください)

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