KDDIと手を組んだELYZA、曽根岡CEOが語る「30%業務効率化」と「日本らしい世界戦」の方法

ELYZA 代表取締役 曽根岡侑也氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

3月18日、KDDIおよび KDDI Digital Divergence Holdingsと資本業務提携を締結した、東京大学松尾研究室発のAI企業がELYZAです。同社はKDDIグループの支援を受けながら、次の段階に事業ステージを進め、将来的なIPOも視野に新たな取り組みを開始します。

MUEGNLABO Magazine編集部では、1月に公表された明治安田生命への生成AI導入の話題も含め、今後ELYZAが手掛ける国産LLMがどのような形で社会実装されていくのか、そしてその効果はどのようなインパクトを与えるのか、代表取締役の曽根岡侑也氏にお話を伺ってきました。

明治安田生命のコンタクトセンターで約30%の業務効率化へ

ELYZAは1月、明治安田生命保険相互会社のコミュニケーションセンターにおける生成AI導入の事例を公表しています。ELYZAが明治安田生命のコンタクトセンター業務で支援したのは、電話対応後の「アフターコールワーク」と呼ばれる、対応記録の作成業務です。いわゆるお客様対応で受けた電話の内容を「整理」する業務です。これまで年間約55万件もの人手で行われていた作業を、明治安田生命独自のデータを使って学習させたAIが自動化することで、作業にかかる時間を約30%削減できる見込みだそうです。ELYZAが手掛けたのは、日本語に特化した生成AIに明治安田生命の過去の応対メモを学習させることで、通話のテキストデータから応対メモを自動作成するサービスを実現しています。一方、導入にあたっては次のようなコメントをいただいております。

明治安田生命様のデータで学習し、より業務にフィット感がある出力を実現できました。また、情報の機密性もありセキュアな環境をつくる必要がありましたが、独自にLLMをチューニングして提供する形態がマッチしました。(曽根岡氏)

以上のように機密情報を扱う企業の導入ハードルが高いことも指摘されていました。この辺りのファインチューニング(各業務ごとに AI モデルを対応させること)はやはり、生成AIの大元となるLLM(大規模言語モデル)に加え、開発対応する事業者が国内事業者であることも重要なポイントになりそうです。

国産LLMはなぜ必要か

国産LLM「ELYZA LLM」のウェブインターフェース

今回、KDDIグループと手を取り合うことになったELYZAですが、そもそもこのLLMの領域はChatGPT(Open AI)やGemini(Google)、Claude(Anthropic)など、グローバルモデルが大きく先行し、日本語の対応においても結果を出している状況があります。その状況下で国産にこだわる必要性はどこにあるのでしょうか。

日本語特化モデルは、出力の速さと効率という点でメリットがあります。今のグローバルのモデル(海外の LLM)で「LLM」は1〜2回の処理で出力されます。一方、日本語の出力になると処理の効率が悪くなり、「大規模言語モデル」を出すためには10回以上処理してようやく出力するのです。でも、日本語だったら1〜2回でで出力できたほうがいいじゃないですか。こういう部分でも計算を余計に使うことになります。(曽根岡氏)

また、日本の法律や生活に根差した文化的な知識も重要なポイントです。例えば著作権については現在、生成AI全般でセンシティブな問題となっていますが、これは各国で整備されている法制度が異なります。この知識をAIに持たせることで、例えば、そのルールに違反する場合、モデルがその間違いを指摘することも可能になります。グローバルモデルでは対応が難しいきめ細かな業務にも活用できるようになるというわけです。

今回、KDDIではスタートアップであるELYZAと連携することで「スピード感を持った」展開に期待を寄せています。曽根岡さんによると、その一因となるのが独自のデータセットを生み出す「データファクトリー」の存在にあるそうです。LLM開発になくてはならないのが、多種多様なデータですが、現在、ELYZAではこの仕組みを使い「自前でデータを作り、AIに学習させるフィードバックループ」を確立しているそうです。曽根岡さんはその強みを「スピードという意味では、適切かつクオリティの高いデータをどんどん作っていける体制が一番大きなエンジンになる」と語っていました。

「日本らしい」世界での戦い方

ELYZA 代表取締役 曽根岡侑也氏

ELYZAの出身でもある、東京大学松尾研究室のインタビューで「半年とか1年で世界はどんどん変わる」と指摘されていました。あれから1年、明治安田生命の事例にあるような生成AIによる効率化は、見えないところでどんどん進んでいると考えるのが自然です。今後、社会実装はどのように進むのでしょうか。

そのヒントのひとつが「領域特化型」です。曽根岡さんは一例として「法律事務所がLLMプレイヤーと組み、日本で本当に使えるサービスを開発すれば非常に価値が高い」と述べ、こうした専門性の高い領域の事業者がLLMを導入することで、より高度なサービスの実現が期待できるとの見方を示しました。また海外勢との戦い方についても、アジアや新興国といった日本語と同じ「非英語圏」を数多く対象とすることで、独自の戦い方が可能になると次のようにコメントをくれました。

日本が勝てるかという点ですが、個人的に活路があると思っているのがアジア圏のマイナー言語への対応です。我々のアプローチは英語しか喋れない人に日本語も喋れるようにしたものです。これは要は英語から日本語にトランスファーさせることをしたのですが、これも第1弾としては成功したので、次ベトナム語とかインドネシア語とか対応できると思います。

こうしたマイナーな言語は(グローバルモデルのLLMから)冷遇される傾向にあるので、例えばここを我々として全部押さえにいき、日本らしい戦い方、海外でいいものを取り入れ、日本化して、さらにまた外に出していくことをやっていきたいと思っています。(曽根岡氏)

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