シリコンバレーの日本人起業家コミュニティ「テックハウス」が切り開く未来/ 後藤卓哉 × 大東樹生 × 平田叡佑 × ACV 林智彦【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

シリコンバレーにある若手の日本人向けのシェアハウス「テックハウス」。ここには、AI、Web3、メタバースなどの最先端分野でサービスを開発する、20代・30代の日本人起業家たちが集まっています。

テックハウスは、シリコンバレーで起業に挑戦する日本人にとって心強い存在です。言語や文化の違いに戸惑い、現地のコミュニティに溶け込むのに苦労する日本人起業家たちですが、テックハウスでは仲間と情報交換をしたり、先輩起業家からアドバイスをもらったりしながら、シリコンバレーでの起業に必要な知識やスキルを身につけていきます。

今回は、テックハウスに滞在する3人の日本人起業家にインタビュー。彼らがテックハウスでどのような活動をしているのか、シリコンバレーで起業する魅力と課題について語ってもらいました。

お話いただいたみなさま

Datz / Itsuki Daito(大東樹生)/Co-founder & CEO of Bye

日本最初のファッションYouTuberとして15歳から活動したのち、高校卒業と同時にグローバルで大きな事業をつくるため渡米。YC卒業生のコミュニティファンド、Orange FundやForever21元代表を含む日米の投資家から出資を受け、いくつかのピボットを経たのち、中古品取り扱い店舗の店頭買取•値付けプロセスを1/10のコストで自動化するAI Agent、Byeを展開。

平田叡佑/Founder of Ellipse Labs

東京大学工学部機械工学科卒。 卒業後、株式会社エル・ティー・エスにてRPA(Robotic Process Automation)コンサルタントとして勤務。 2021年にサンフランシスコに拠点を移し、起業家シェアハウスTech Houseの運営を引き継ぐ。 現在は学習アシスタントAIのTiimo.aiなどAI Agent領域を専門にプロダクト開発中。

後藤卓哉/AssetHub

2022年にシリーズBで35億円の調達をしたGaudiyのCo-founder。大学教授との論文共著などR&DやSony Music, Bandai Namcoなど大手エンタメ企業との協業を推進。2023年よりAssetHubを創業し元Metaの起業家などシリコンバレーのトップエンジニアとグローバルチームでプロダクトの開発中。

テックハウスとは

テックハウスは、シリコンバレーで活動する若手の日本人起業家向けのシェアハウスです。Anyplaceの内藤聡さんとRamen Heroの長谷川浩之さんらによって約10年前に創業され、一時期途切れましたが、2〜3年前に復活し、現在に至ります。主に20代から30代の、AIやWeb3、メタバースなどの最先端技術に挑戦する起業家が集まっており、常時6人から多い時は8人から10人ほどが滞在しているとのことです。

現在のテックハウスはコロナ禍の最中に始まったもので、参加しているメンバーが主体的に活動しているのが特徴です。その状況を次のように語ってくれました。

ーーどういう方が多いんですか?

平田:プレシードからシード段階の起業家が最も多く、一回以上資金調達を終え、皆Day1からUSマーケットをターゲットにサービス開発しています。日本でのスタートアップ経験がある人はあまりおらず、事業やアイデアが全くない状態からシリコンバレーに移ってきた人がほとんどです。

事業のステージによって変わりますが、日々WeWorkなどのオフィスでサービス開発やグローバル採用、イベントなどでのネットワーキング、そして日米同時の資金調達を行っている方々が多いです。

ーーコミュニティを運営する上で、どのような活動をされてるんですか?

平田:具体的なところで言うと、週に1回みんなで一緒にご飯に行ったりとかって結構大事で、ご飯を食べる中で情報交換されるのは実際あります。それぞれ事業が忙しいので、正式なミーティングをセットアップするよりはご飯食べながら「そういえば今、採用困ってるけどどうしたらいい?」みたいなやり取りがたくさんあります。意識的にご飯の場というのは設けるようにして、起業家同士が困った時サポートできる状態にしています。

また、このコミュニティには参加している全ての人がここに住んでいるわけではなく、ある程度のチームを持っている起業家は、別にオフィスを持ってこのテックハウスを情報拠点のような形で使っているというお話でした。

テックハウスの役割

シリコンバレーで起業するということは、日本から見ると非常にハードルの高いことです。事業として成立するのか、現地での生活は成り立つのかなど、わからないことだらけです。そこで、テックハウスが果たす役割は非常に大きいと言えます。

まずはやはり事業です。アイデアの成立可能性を現地の目線から検証できるのは「そこに」共有の場所があるからこそです。ファンと一緒に店舗を運営する、そんなコンセプトのサービスーーを運営する大東さんは、現地での粘り強い仮説検証を繰り返し、事業の手応えを感じるまでに至ったそうです。

またシリコンバレーは、世界中のテック企業が集まるイノベーションの中心地です。そこで働くエンジニアやクリエイター、起業家には、常に最先端の技術やサービスを生み出そうとする熱量があります。スピード感も非常に速く、アイデアがあれば実行に移すまでのサイクルが非常に短いのが特長です。後藤さんは日米の違いを次のように説明してくれています。

ーーシリコンバレーに実際にきてみていかがでしたか?

後藤:仮説通りだなというのが一番大きいですね。一番の違いはその速さだと思ってて。

日本だと1年先行しているUSの事例を持ってくることがあると思うんですけど、こっちだと、要は同じテーマでも事業にできるタイミングが1年、2年早いタイミングで出てくるんですね。例えば日本国内でニッチな事業をしようとしても、日本単体だとマーケットサイズが足りない。日本単体だと2にしかならないけど、同じ事業でもアメリカだと3とか4になるかもしれない。グローバルに広げていったら、日本でもギリギリいけるかもしれない。そういうこともあるということですね。

同じアイデアでも、日本では限られた市場規模やリソースの問題から事業化が難しいことでも、シリコンバレーでは巨大な市場を見据えてチャレンジできる環境があります。ローンチしてみて、軌道修正を繰り返しながら事業を成長させていく、そんな起業のスタイルが彼らの話から見えてきました。

日本人としての強みを意識する

シリコンバレーには世界中から優秀な人材が集まっており、そんな中で日本人がどのように個性を発揮していくかが問われます。特に日本が強みを持つ領域、例えばゲームやアニメ、ファッションなどであれば、日本人であるというバックグラウンドをアピールすることが差別化につながります。

ーー日本人起業家が強みを持ちやすいところ、また、逆に陥りやすい失敗は何かありますでしょうか?

後藤:アクセラレータに参加してるメンバーがいるんですけども、セールスには絶対日本人の方がいいよと言われてます。やっぱりこっちって本当にいろんな人がいるじゃないですか。そういう中で、どういうキャラクター付けをしていくか、というのをちゃんと出していかないと、よくわからない人みたいに思われがちで、さらにそれをフィルタリングすることを絶対的に求められる国だと思うんです。何かしらファクターを入れるのは大事ですよね。

資金調達をしたり優秀な人材を集めたりするのに、いかに自国でアピールし、理解を得るかが勝負になる。それができないとなるとなかなか太刀打ちできないんですよ。結果が一番大事で、手段を講じて勝負するとか、自分のアイデンティティにこだわってしまうようなところは、足を引っ張ってしまう。

僕はこれからの時代、かっこいい、キラキラした大企業に行くんじゃなくて、自分で世界を変えることが大事だと思っているんです。起業して結果を出すことに全力を尽くして、アイデンティティとかは捨てても自分の持ってるものを全部つぎ込むっていう覚悟が必要だと思います。そういうマインドセットがないと、グローバルな競争には勝てないですからね。

1人1人が使命を持って発信をしていくことが大事だと思います。投資だったら投資で、技術だったら技術で、とにかく結果を出していくことに集中するのが肝心だと思います。

以上、シリコンバレーの日本人起業家コミュニティ「テックハウス」についてのポッドキャストの一部をまとめました。ぜひ音声でお二人の生の声をお聞きください。

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