atama plus「苦悩の2年」の理由ーー“定額制通い放題”「AI 個別学習塾」オンライン・FC展開も本格開始へ

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atama plus代表取締役CEO 稲田大輔さん

ニュースサマリー:AI教材「atama+」の開発・提供を行う atama plus は11日、AIを活用した個別最適な学習塾「進学個別 atama+ 塾」のフランチャイズ展開を6月より全国で順次開始すると発表した。

教育業界は GIGA スクール構想によるデジタル化や AI 技術の発展を背景に大きな転換期を迎えているが、一方で講師不足や運営ノウハウ不足が課題となっている。atama plus は、AI 教材「atama+」を既存の学習塾約4,000教室以上に提供してきた知見を活かし、2022年からは直営の学習塾を長野県に3教室開校。運営モデルを実証してきた結果、少ない人員で生徒の学習実績を大きく伸ばすことに成功した。

atama+の特徴は、AI教材を活用した独自の教育プロセスにある。通常の学習塾にある教師の存在を「ティーチング(教科の学習指導)」と「コーチング(相談)」に分割し、学習指導をAIに、学生の成長相談を人にそれぞれ分担させる。これにより基礎学習は個別最適化を実現し、習得までの時間を大きく短縮させた。また、相談を受ける人については教科指導の知識が不要となることから、塾運営に関わる人員の選択肢に幅が生まれる。

これまでは既存の塾にこのAI教材を導入する形で事業を拡大してきたが、今回発表されたフランチャイズ展開は、atama plus 独自の塾ブランドとしての展開になる。料金はフランチャイズ毎に設定される予定だが、定額制・通い放題という点は共通となる。

フランチャイズの立ち上げパートナーとして、超個別指導塾まつがくの林部一成氏、Teach for Japan や Learning for All の創業者である松田悠介氏、起業家の神田優氏が参画。林部氏は、atama+導入後に大学合格実績が飛躍的に向上したことを踏まえ、2025年春までに全29教室を「atama+ 塾」に切り替える計画だ。松田氏は、地方の人材不足解消とテクノロジーによる教育格差の是正に尽力する考えを示した。

また、これとは別に同社は4月、学校法人駿河台学園と資本業務提携し、「atama+ オンライン塾」の展開も開始している。

2年間の苦悩ーー成長の鈍化を生むジレンマ

話題のポイント:2021年に外資含めた51億円の大型調達を果たしたAI先生「atama+」、久しぶりに代表の稲田大輔さんにお話を伺ってきました。テーマは「atama plus の苦悩」です。

2021年に発表した大型調達。急成長ぶりがわかる:AI先生「atama plus」51億円調達の衝撃、世界戦に向けグローバル機関投資家が出資

2017年に華々しいデビューを飾った同社は、前述した独自の AI 教材と教育メソッドで一気に学習塾への導入を拡大させていきました。コロナ禍も手伝って21年には国内で5万教室あるとされる学習塾の内、2,500教室への導入に成功します。一方でこの導入の裏には大きな悩みもあったそうです。

それがあまりにも既存の教育とは異なる atama plus 独自の教育メソッドです。個人的には「公文式」に似た方法と認識していますが、atama plus ではさらに先生は完全に「教科を教える」ことから離れます。つまり、このカルチャーを理解している教室でなければ導入が難しいのです。

結果、現在4,000教室に広がっていますが、2021年までの4年間に2,500教室に導入されたことを考えるとやや踊り場を迎えていることがわかります。稲田さんたちももちろんこの状況は理解していて、そのための施策として考えたのが事業者としての塾向けではなく「一般消費者(学生)」に直接届ける方法でした。

しかし、ここには大きな壁がありました。そうです、既存に導入してくれている塾とのハレーションです。片方で atama+を導入してもらい、片方でその競合として展開を開始する。これほど悩ましいジレンマはありません。

このジレンマの解消に「銀の弾丸」はなかったそうです。地道に一般消費者向けのモデルをテストし、既存の導入塾などとコミュニケーションを重ね、結果的に今回開始するフランチャイズ展開に大きな問題は起こらないと判断できたということでした。ただ、その間にかかった時間は2年にも渡ります。

「(既存塾に atama+を導入するパターンだけでは)間に入る人によっては反発も生まれたりするので、自分たちとして届けたい教育になりきらないケースもありました。それで、できれば一般消費者側にいきたいという思いがあり、実際、この2年ぐらいはそちらをやっていました。(フランチャイズは)既存のお客さんの中で、僕らの推奨する授業のやり方に賛同してくれる人はフランチャイズに切り替わります。そうじゃなくて、やっぱり自分たちの授業を中心としつつ、ちょっとだけ使いたいというお客さんは、今までのやり方を継続します。オフラインで塾を自前で運営するモデルとオンラインのモデルがどちらも兆しが見え始めたので、会社として(三事業の展開を)決めました」(稲田さん)。

フランチャイズの「進学個別 atama+ 塾」とは

フランチャイズ展開する独自ブランド「進学個別 atama+ 塾」

この話に先立ち、atama plus は4月、駿台と提携して個人向けのオンラインプログラム「atama+ オンライン塾」を公表しています。今回発表されたフランチャイズとの違いは「学習する場所」で、どこかに集まってやるのか、それとも自宅や好きな場所で学習するのかの違いです。これで atama plus としては三つの事業が立ち上がったことになります。

  • 既存塾へのatama+導入(教育方法は各塾によって異なる、atama+を活用)
  • atama+ オンライン塾(atama+メソッドで場所は自由)
  • 進学個別 atama+ 塾(atama+メソッドで場所は固定、フランチャイズ)

一つ目が事業者向けビジネスで、二つ目が個人向け、三つ目が個人向けのフランチャイズ展開です。オンライン個人を駿台と提携して実施したのは、大学受験などの教材ノウハウはやはり、既存の予備校の方に一日の長があり「どこでもだれでもatama+」を実現するためにはこの方法が最もスムーズだったという背景があるようです。

ちなみに4月、これと合わせて駿台とは資本の関係も結んでいます。稲田さんに伺ったところ詳細は非公開ながら、同社のキャッシュに問題はなく増資による資金需要も薄いことから、今回は既存株主からの株式譲渡という形で駿台の資本参加を実施したというお話でした。なお、同社が公表している通り、経営陣が株式の過半数を保有している状況です。

さて、このフランチャイズ展開、とても未来があるように思えます。

筆者もちょうど小学生になったばかりの子供がいまして、少し前に「行き渋り」を経験したんですね。その際、フリースクールなどさまざまな選択肢を調べ、検討しました(結果的に今は元気よく通っています)。その際、やはり頭に浮かんだのはこの「atama+」でした。これがオンラインで使えるのであれば、教育の「学習」と「環境」を分けることができる。話が逸れるので深掘りはしませんが、素人目にも教育のバラエティが広がるイメージが沸きました。

教員の人材不足や、フリースクールをはじめとする環境の多様化など、教育を取り巻く状況は劇的に変化しつつあります。その中で atama plus が AI を活用し、どこまで社会を変えることに成功するか。長年変わらなかった教育に対するテック・スタートアップの挑戦という視点でも、とても興味深いフェーズにはいってきたと思います。

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