VCスタートアップ健保が運用開始、初年度加入者数は1万人に——健康増進サービスのオンライン化にも注力

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Image credit: VC Startup Kenpo

昨年6月にその構想が明らかになった、スタートアップのための健康保険組合「VC スタートアップ健康保険組合(VC スタートアップ健保)」が1日から正式運用を開始した。初年度は41社の VC と、その投資先スタートアップ180社が加入する。興味深いことに、これらのスタートアップのうち、約2割はディープテック系だ。現在324社が待ちの状態で、2024年度中の加入が可能になる見込みだ。

現在、JVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)には200社以上の VC や CVC が加盟するが、VC 41社と言えば、その約5分の1に相当する。JVCA 加盟社の中には、日本に法人格が無かったり、大企業傘下の CVC(親会社やグループの独自健康保険に加入していることが多い)だったりするケースを除き、エリジブルな VC や CVC の多くが VC スタートアップ健保に加入したことになる。

保険料率は、協会健康保険(政府管掌のもの)より1%低い8.98%と設定され、初年度の加入者数は従業員とその家族を合わせて約1万人が見込まれている。吉澤氏は「スタートアップでも大企業並みの健康管理体制を実現し、課題解決を目指したい」と意気込みを示す。

VC スタートアップ健保の最大の特徴は、これまで紙中心だった申請手続きを徹底的に電子化する点にある。独自に開発した Web サービスを軸に、手続きのオンライン化を推進していく。マイナンバーポータルなどの国の基盤と連携しているため、SmartHR をはじめとする労務管理ソフトウェアとも情報連携し、社員の入退社にも事務処理もかなり効率化されるようだ。

「VC スタートアップ健保」の設立母体である VC スタートアップ労働衛生推進協会 代表理事の吉澤美弥子氏、理事の金谷義久氏

申請の電子化は、最初の一歩に過ぎません。次なるステップは、健康増進サービス全体のオンライン化を目指していきます。スタートアップの従業員の平均年齢は業界よりも10歳ほど低く、生活習慣病対策に加え、メンタルヘルスケアなど新しいニーズがあります。初年度は限定的ですが、2年目以降に徐々にサービスを拡充していく計画です。(吉澤氏)

新組合の加入要件は、日本のベンチャーキャピタル(VC)との資本関係があることと定められた。スタートアップの定義が法的に定まっていないため、スタートアップ各社横断の組合を作ることが難しく、VC という括りを介した方式となった。吉澤氏は「法的な定義ができれば、将来的には VC に囚われずにスタートアップ全てを包含できるよう改善していきたい」と言及した。

この組合を支援・協賛する VC は、中長期的に投資先の従業員の健康増進による生産性向上などのメリットが期待できるが、当初は、組合実現の可能性は未知数のため一定の覚悟が必要だった。「大きく3つあったハードルを越え(吉澤氏)」、現在では支援・協賛する VC の数も増えた。保険会社数社が協賛金を拠出し、健康経営の観点から加入スタートアップを支援する体制を構築した。

スタートアップはその性格上、創業からしばらく赤字が続くことが多いですが、世の中にある健康保険組合のほとんどは、黒字経営を前提に作られています。スタートアップが赤字でも入れる健康保険がなかった課題を解決するため、今回の組合を立ち上げました。VC と連携することで、従来の制度の垣根を越えられました。(吉澤氏)

電子化の推進と VC との連携により、VC スタートアップ健保では、従来の健康保険制度ではカバーできなかったスタートアップ特有の健康課題に真っ向から向き合っていく。スタートアップの健康経営を意識した就業規則のテンプレート提供など、従来の健保組合の域に留まらない、さまざまなサービスを提供していく計画だ。

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