ケップルがセカンダリ1号ファンドを100億円でクローズ、組成から2年で13社の株式を引受

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ファンドクローズを発表するケップルグループ代表の神先孝裕氏(画像の一部を加工しています)

ケップルグループ(以下、ケップル)は11日、2022年6月に組成を発表したセカンダリファンド「Kepple Liquidity Fund」1号を100億円の調達でクローズしたと発表した。スタートアップの株式を既存株主から買い取る(セカンダリ取引)ファンドは、LP 間取引を引き受けるものを除き、現時点で日本で唯一の存在となっている。組成時には当初50億円規模とされていたが、およそ2倍の規模でクローズすることとなった。

ケップル代表の神先孝裕氏は、未上場株式の流動化ニーズが高まる中で、同社がセカンダリ市場への本格参入を決めた背景について次のように説明した。

ケップルグループ代表の神先孝裕氏

国内スタートアップ投資が過去最高水準となる中で、ベンチャーキャピタルファンドや事業会社の投資回収ニーズが高まっています。しかし従来、国内にはそうしたニーズに対応するセカンダリ市場が存在していませんでした。成長企業の未上場株をイグジットに向けて支えることで、エコシステム全体を大きく後押しできると考えています。

ファンド組成からの約2年間でケップルに寄せられたスタートアップの既存株主らからの売却相談は約250件。うち、7割のスタートアップは時価総額30億円以上、約半数は50億円以上だった。そのうち、N-2(監査法人がレビューに入る上場申請期2期前の期)以降で、条件に合致した13社の株式を引き受けたという。なお、ファンド組成から約2年が経過しているが、イグジット案件はまだ出ていない。

ケップルのセカンダリファンドが引き受けた13社の約4割はディープテック系のスタートアップで、残りはコンシューマ系、B2B 系だったそうだ。具体的な名前は開示されていないが、そのうちの一社は、横浜に本社を置く超音波複合振動溶接技術を開発する LINK-US だった。同社は、2014年に設立され、2018年および2020年に産業革新機構(現在の INCJ)などから出資を受けている。

よく「ディープテック系のスタートアップは足が長い」と言われる。これは基礎技術はあるものの、それが製品化され、社会実装され利益を上げるまでに時間がかかることを意味しており、一般的な償還期限10年のベンチャーキャピタルのファンドでは、イグジットを果たすまでの時間に足りないこともある。セカンダリファンドは、こういったファンドから IPO までを繋ぐ手段にもなりうる。

一方、このセカンダリファンドの LP 探しの旅は、国内はもとより海外はシンガポールなどにまで及び、クローズを迎えるまでに2年を要したのは決して平坦な道のりではなかったことを物語っている。事業シナジーを求める傾向が強い事業会社に理解を得るのが難しく、今回が1号ファンドであったためトラックレコードが無く、金融系に理解してもらうのも難しかったことなどが背景にある。

日本の株式が上昇機運にあることも影響して、海外では非常に評価が高かったです。国内ではこの分野の先行実績がなく苦労しましたが、最終的に地方金融機関や上場企業の創業家系ファミリーオフィスなどに出資を引き受けていただきました。(神先氏)

産業革新投資機構 ファンド投資室 バイスプレジデント新藤哲太郎氏

LP の多くの名前も開示されていないが、そのうちの一つが産業革新投資機構(JIC)であることは明らかにされた。JIC ファンド投資室倍すプレジデント新藤哲太郎氏は、ケップルのセカンダリファンドについて次のように評価した。

事業会社がオープンイノベーションの一環で行った投資の売却を求めたり、上場準備で特定の大口株主の持ち株調整が必要になったりと、さまざまな株式売却ニーズが潜在的にあります。ケップルのダイレクトセカンダリファンドはそうしたニーズの受け皿となり、企業の成長を後押しできるでしょう。

国内のスタートアップへの年間投資額は近年右肩上がりで、2022年には過去最高の約8,000億円に達した。ケップルでは、セカンダリファンドの国内市場は、少なくとも2.5兆円を超える需要があると試算している。今後はさらなる案件増加を見込み、神先氏は「2号ファンドの組成も視野に入れている」と前向きだった。

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