【投資家・起業家対談】「フリーミアムは本質的価値ではなくフリクションポイントにお金を支払う」ーーグロービス・キャピタル・パートナーズ高宮氏×nanapi古川氏(4/4)

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投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。これまでの掲載:1回目2回目3回目最終回

(文中敬称略、聞き手は筆者)

nanapiの道のり

2007/12 ロケットスタート設立
2009/06 代表取締役古川健介、取締役CTO和田修一の2名で本格始動
2009/09 ライフレシピ共有サイト「nanapi」をリリース
2010/11 グロービス・キャピタル・パートナーズから3.3億円の資金調達
2012/04 株式会社nanapiに商号変更
2013/07 KOIF、グロービス・キャピタル・パートナーズから2.7億円の資金調達
2013/12 東京都渋谷区道玄坂に移転

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コンテンツの発見方法と検索の次

TB:興味深いお話続いていて勉強になるんですが、例えば私が知り得ないコンテンツ、欲しい鞄とか、そういうものがある日突然提示されるような世界ってくるんですか?

古川:いつかはくると思いますよ。ただ、そこはコンテンツの力というよりは、(下記図の)真ん中のデータからではないかなと。コンテンツの力だけでやろうとしている人たちはずっと辛い思いをするかもしれません。

高宮:ネットビジネスの本質ってデータベースビジネス、とも言えるじゃないですか。コンテンツのデータベースと、ユーザの行動履歴やプロフィール、デモグラと言ったデータベースを掛けあわせることで、ユーザーとコンテンツのマッチング精度を上げるということができますというようなことだと思うんですよね。メディアでもビッグデータ的なビジネスって出てきてしかるべきなんですよね。

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古川:元々はコンテンツデータベースを押さえようと考えてましたが、ユーザー履歴やコンテンツに辿り着くところのデータを扱うような企業にならないと、ブロガーが記事を量産しているのとそんなに変わりなくなってしまいますよね。

ヤフーのEC戦略もそれを確実に理解してて、それこそ「アマゾンでも楽天でも出店してくれ」と発言しているのも、検索の部分や商品を探す部分を押さえてユーザーデータを集めることで、いかに商品に対してユーザーさんを導けるか、というところに焦点を当ててるのだと思っていて、非常にいい方向だなと思っています。

高宮:無料化することでコンテンツの獲得コストを押さえて大量に集めるのに成功していますよね。そして、検索の部分を押さえているので、検索連動広告でマネタイズできる楽天やアマゾンを追い上げないといけない立場としては、非常に良い戦略だと思います。一方で、ユーザ目線で見た時のコンテンツディスカバリー、つまり本当に欲しい商品をどのように提示するかは興味がありますね。

古川:アマゾンはデバイスから検索まで全部押さえてきてますからね。GoogleやAppleはOSレベルから押さえてきている。「あいつらずりーよ!」っていつも思っています(笑。

TB:私もこれを書いたんですけどコンテンツデリバリーの世界観って確実にスマートフォンになって変化してますよね。

古川:Gunosyが最近、新年挨拶広告という商材を出したのですが、あれはインパクトがありました。あれを見た側は「新聞のようにコンテンツを届けているんだ」と感じたんだと思うんですよね。僕もそう思いました。そういう啓蒙を経営者に対してするのは素晴らしいなと。しかも結構いい値段がする(笑。

コンテンツを届けるところは、nanapiではやっていませんでした。なので、コンテンツを届ける方をこれから作っていく必要があります。ありがたいことに、優秀なメンバーが揃っているので、あとは挑戦していくだけかなあ、と。

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メディアビジネスの課金ポイント

TB:スマホシフトが起こって、メディアビジネスって変化するのでしょうか。

古川:どこかのブランドに集客が固定化されると苦しいですよね。PCは完全にヤフーが押さえていて、他が覆すのは結局無理でしたから。でも、今スマホになってゼロリセットになっているので、その辺の変化はあるかもしれません。ただこれも今、LINEが非常に強いので、LINEの一人勝ちが起これば、これから数年はLINEの時代かなあ、と。

高宮:課金のポイントがズレるというのはあるかもしれませんね。これまで料理レシピを調べる時って紙の本を買っていたのですが、クックパッドでウェブになって人気順でソートにお金を払うようになったわけです。

フリーミアムのモデルって、サービスの提供する本質的な価値じゃなくて、フリクションポイント(ユーザにとっての不便さ、ストレス)に支払ってるとも言えるんです。例えば無料でマンガ読み放題のサービスは、一日1時間だけとか、10巻までだけとかを無料として、それを超える所で事業者はわざとフリクションポイントを演出しているんです。

ユーザーは結果的にマンガを購入していることに代わりはないんですが、課金ポイントが違う。

古川:重要なのは、ユーザーが求める価値はそんなに変わってないけど、課金ポイントがズレてるってことですよね。

高宮:ユーザが心理的に支払いやすいポイントって、世の中のうつろいで変化していくんだと思います。

古川:クックパッドの例でいうと、検索にお金がかかるって「本の目次にお金がかかる」と言われているようなもんですものね。紙の本だったら「えーっ」って思う箇所です。

よく「スマホ時代のメディアはどうなるか」とかそういう議論がありますが、人が求めるものの本質は変わらないんです。

たとえば、コンシューマーゲームのソフトに5000円出していたのが、スマホになるとアイテムに100円課金するほうがいい、となった。課金ポイントはずれていますが、本質的に楽しいゲームがしたいことに変わりはない。

高宮:そうそう。ただ、今はメディアとコンテンツだけだとそろそろ課金ポイントをずらす方法がなくなってきて、配信を含めた縦に押さえる必要が出てきている、というのが現状でしょうね。変わらない本質と変わっていく提供過程という感じでしょうか。

TB:私もメディアをやるひとりとして大変勉強になりました。長時間ありがとうございました。ここでお時間です。

これまでの掲載:1回目2回目3回目最終回

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