メディアではなくサービスとしてーー 勃興するバイラルメディアたちの中で Whats はどう舵を切るのか

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Some Rights Reserved by Will Lion

「バイラルメディア」と呼ばれるサイトが増えてきている。英語圏では「Buzzfeed」や「Upworthy」といったサイトが驚異的な成長を見せており、日本においても同様のサイトをよく見かけるようになったのは。昨年の後半くらいからだろう。その1つである「dropout」は本誌でもその取り組みを紹介している

「バイラルメディア」とは何か

英語で「Buzzfeed」や「Upworthy」のことを「Viral Media」と紹介されているのは見かけないが、これらのサイトが掲載するコンテンツの拡散性の高さから日本語では「バイラルメディア」と呼ばれるようになったのだろう。

コンテンツのバイラル性以外の部分で、特徴を書き出すなら以下のようなものが挙げられる。

  • モバイルファーストなサイトデザイン
  • シェアを促すボタン配置
  • 既存コンテンツのキュレーションがメイン

他にもタイトルや媒体コンセプトなどについても考えられるが、これらに関しては既存のウェブメディアとの差異がないため、列挙は省くことにする。

これまで筆者はメディアの仕事に携わるものとして、この新たなジャンルの動向を興味深く見てきた。今回、日本発のバイラルメディアの1つである「Whats」を運営するスタートアウツ社の板本拓也氏に話を伺う機会があり、その実情について話を伺った。

バイラルメディア「Whats」

whats

「Whats」は昨年12月の半ばにローンチした。「人々がいまだ気づいていないが、価値あるコンテンツを届ける」ということをサイトのコンセプトとしている。笑えるもの、驚くもの、癒されるものなど、キュレーターが見つけてきたソーシャルメディアと相性が良いであろうコンテンツを中心に1日に4、5本ずつ掲載している。

掲載するコンテンツの比率は、最近では映像:画像=3:2程度となっているそうだ。立ち上げ初期は映像ばかりを掲載していて、映像が9割近くだったが、再生する必要がない分ハードルが低いこともあってか、画像コンテンツのほうが見られやすいという。ヒットしたときバズを生みやすいの映像コンテンツだそうだが、その原因は検証中とのこと。

ローンチから4ヶ月ほどが経過し、月間PVは1000万を超えているという。まだ数字を詳細にオープンにはできないとのことだったが、ギズモードやライフハッカーなど、ウェブメディアの中ではよく知られている媒体の数字をひとつの目安にしているそうだ。

バイラルメディアの流入経路

流入は8割ほどがソーシャルメディアから。検索流入もある程度あるとのこと。SMO(=Social Media Optimization)による被リンクの構築によるSEO、といった話もあるので、バイラルメディアという形式は検索流入を生み出す可能性がないわけでもないようだ。

板本氏「Whatsはタイトルの付け方を徐々にSEOをも意識したものへと変え始めています。サイトの構造化にも今後着手していく予定です。」

今後は検索流入も得られるように対応していくとのことなので、現在の流入比率は変動していくことも考えられる。

Whatsはバイラルさせることをメインにサイトを運営してきた結果、ある程度のアクセス数の規模を実現した。今後、検索流入への対応もしていくということであれば、数カ月後にはまた違った姿になっていることも予想される。

KPIをどう考えているか

筆者が気になっていたのはバイラルメディアがどの数字をKPIとしているかだ。どの数字を重要視しているかについて、板本氏はこう語る。

板本氏「PV数はあまり重視していません。UU数を重視したいと思っています。そして、ユーザあたりのページ閲覧数を上げていきたい。」

読者数を増やし、読者あたりの閲覧ページ数を上げたい、というのはサイト運営者ならば多くの人間が考えることだ。nanapiの古川健介氏が「Onlab Growth Hackers Conference 2013」で語っていたこともこうしたKPIだった。

板本氏「今後は、コンテンツがただ閲覧されるだけではなく「Whats」という名前を認知してもらうためのアプローチをしていきます。」

バズったコンテンツのみではどうしてもサイトのリピーターにはなりにくい。毎回掲載するコンテンツがバズを生み、前回も訪問したユーザを再度呼びこむというのは困難だ。それであれば、一度訪問したユーザをリピーターに変えるためのなんらかのアプローチが必要になる。

既存メディアとの差異は

検索流入の強化にも着手し、サイトのブランド化やユーザあたりのページ閲覧数の向上。これらが行われるようになるということは既存のウェブメディアとバイラルメディアの違いは、どういった部分になってくるのだろうか?

・コンテンツを作る力

まず考えられるのはコンテンツだ。ウェブメディアはコンテンツを自ら生産することが中心であるのに対し、現状バイラルメディアと呼ばれるものは既存のコンテンツを紹介する形となっている。

コンテンツを作る力、編集力という点で既存メディアとバイラルメディアには違いが生じると考えられる。だが、編集力が向上していくとしたらどうだろうか?そうすれば、内部でコンテンツを生み出すことも、質の良いキュレーションをすることも可能になるはずだ。

メディアの形式を発射装置、コンテンツを弾丸に例えれば、両者はコンテンツを届けるための発射装置づくりから始めたか、発射する弾丸作りから始めたかの違いではないだろうか。バイラルメディアは多くの人にコンテンツを届けるためにはどうしたらいいのかのノウハウを貯めつつある。発射の準備が整い始めた彼らは、コンテンツ作りに着手するのではないだろうか。

・インターフェイスの違い

次に、インターフェイスの違いだ。ウェブをベースにしているか、モバイルをベースにしているか。ユーザの流れはモバイル・タブレットへと向かっている。バイラルメディアからスタートした彼らは、モバイルをメインに設計し、モバイルユーザの行動にどう対応していけばいいのかというナレッジがたまりやすいはずだ。

バイラルメディアが、ある程度成長した後に、ブランドを確立し、コンテンツ力を上げ、既存のウェブメディアの領域に入ってくるとしたら、どちらのデバイスを軸に設計してきたか、ということが差になる可能性がある。

バイラルメディアはマネタイズできるか

ウェブメディアは、ウェブブラウザに最適化して広告枠などを設置しているため、なかなかモバイルメインへのシフトが進めにくい面もある。とすると、バイラルメディアがマネタイズをどう行っていくのかが重要なポイントになりそうだ。

海外では4月には「Upworthy」が広告モデル「Upworthy Collaborations」を公開したことを本誌でもピックアップしている。

Whatsはマネタイズについてどのように考えているのだろうか。

板本氏「広告バナーと、画像・映像でのタイアップ記事によるマネタイズを考えています。これらは5月から実験をしてみる予定です。」

このマネタイズへの実験が上手くいくようなら、バイラルメディアにも先が見えてくる。それにしても、彼らの実験的な姿勢、リーン・スタートアップ的な物事の進め方からはメディアを作っているというより、サービスを作っているという印象を受ける。

メディアではなくサービスとして

板本氏「私は元々メディアの人間ではないので、Whatsを始めるのもビジネス目線から入っています。自分の中では、メディアを作っているというよりは、サービスにしたいと考えてやっています。」

新しいウェブサービスではデータを取得して解析し、仮説を立てて検証して、次々と改善を重ねていくことが普通のことになりつつある。この感覚はこれから先メディアにとっても非常に重要だ。

サービスとしての感覚を持ち、メディアの常識にとらわれない彼らなら、新たなメディアの形を作り上げることができるかもしれない。もうしばらくバイラルメディアの行く末に注目したいと思う。

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