Alibaba(阿里巴巴)のIPOは世間を揺るがすほどのものだったが、それ以前は慣例通り、ほぼ沈黙で通した。しかし2014年全体を見れば、今年は同社にとって忙しい年であったと言えよう。Alibabaは国内外で多くの企業に対して出資・買収を繰り返し、あまりに多額の資金を費やしたため、9月までの期間を同社の「独身最後のパーティー」と揶揄した者もいたほどである。IPO後は物事は落ち着いてきたが、同社は現状に満足していなかった。
Alibabaは投資金額を公表しないことが多いことに留意してほしい。そのため多くの案件は金額が非公表である。以下はITJuzi(IT柚子)のデータベースと当社アーカイブを元にして作成したAlibabaが今年出資・買収した案件一覧である。
FirstDibs
偶然にもファースト(最初)という名前のついているFirstDibsは、Alibabaが今年最初に投資した会社だ。インテリアデザイン、雑貨、ファッションを扱うニューヨーク拠点の同社は、1月のシリーズCラウンドでAlibabaから1500万米ドルを調達した。FirstDibs事業の3分の1はアメリカ国外からのものであり、Alibabaは中国で急成長している高級品市場に対応させる意向である。
TutorGroup
語学学習に特化している多国籍オンライン教育企業のTutorGroupはAlibaba、Temasek Holdings、Qiming Venture Partners(啓明創投)から2月に1億米ドルを調達した。同社は1万時間分の授業コンテンツを提供し、40ヶ国以上でプラットフォーム(TutorABC、TutorABCJr、TutorMing)展開している。同社は調達した資金をアジアでのブランド構築に活用する。
Yinman(茵曼)
Yinmanは自社ブランド品を販売するハイエンドオンライン衣料メーカーである。同社は2月にIDG CapitalとAlibabaから資金を調達した(金額は非公表)。
ChinaVision(文化中国伝播)
3月にAlibabaは香港のChinaVisionの過半数の株式を獲得するために8億400万米ドルという大金をはたいた。
ChinaVisionは人気の中国語テレビ番組や映画を制作し、さらに印刷メディア、モバイルメディア、モバイルゲームなどの運営も手がける。同社の有名な作品には、「さらば復讐の狼たちよ(中国語原題:譲子弾飛、英語原題:Let the Bullets Fly)、「西遊記~はじまりのはじまり~(中国語原題:西遊・降魔篇、英語原題Journey to the West: Conquering the Demons)、カンフーハッスル(中国語原題:功夫、英語原題:Kung Fu Hustle)がある。Alibabaは他の中国ウェブ業界大手と独自コンテンツを争うため、今年に入ってテレビおよび映画ビジネスで何度か動きを見せた。
ByeCity(百程)
ByeCityは海外旅行をしたい中国人のビザ取得に特化したトラベルサービスである。同社はAlibabaとCBC Capital(寛帯資本)が主導したシリーズBラウンドで2000万米ドルを調達した。ByeCityはAlibabaの現在成長中のトラベル部門を補強する。中国の多くの地域や全土で営業する旅行関係企業の多くがすでにAlibabaの2つの主要eストアであるTaobao(淘宝)とTmall(天猫)上で店舗を構えている。
Tango
Alibabaは3月、アメリカを拠点とするメッセージングアプリTangoに2億8000万米ドルを投じる案件を主導した。しかしここでの戦略ははっきりしない。Alibabaは国外でのモバイルコマースを行うプラットフォームとしてTangoを活用したいのかもしれない。もしくは苦戦しているチャットアプリLaiwangを強化する手段にしたい可能性もある。Tangoにはトータル2億の登録ユーザと7000万の月間アクティブユーザがいる。
InTime Retail(銀泰)
従来型店舗を持つ小売企業InTime Retailは6億9200万米ドルの資金を3月末にAlibabaから獲得した。
InTimeは中国にある28のデパートと8つのショッピングモールで運営している。この案件により、AlibabaのAlipay・eウォレットユーザはスマートフォンを使って店舗内の支払いができるようになった。Alibabaの当初の持分9.9%と残余の社債は最終的に25%分のInTime株式に転換される。
Lyft
Alibabaは4月初め、Lyftの2億5000万米ドルというシリーズDラウンドに参加した。Uberの競合でカリフォルニアを拠点とする同社はアメリカ以外の国で資金を活用する計画だが、具体的な進出地域は明らかにされていない。Alibabaの戦略もここでは見えないが、精巧なロジスティクスが関係しているのかもしれない。もしくは、他にも投資しているタクシー配車アプリKuaidi Dache以外の地ならしをして、国際展開する可能性もある。
Wasu Media(華数伝媒)
ここでの10億5000万米ドルの投資は、ほとんどがJack Ma氏その他数名の投資家からなされたものであって、Alibabaは関わっていない。しかしWasuは、両社がセットトップボックスをリリースするのに提携してからというもの、Alibabaのコンテンツパートナーとなっている。もう1つのメディアプレイであるWasuは、Alibabaがオンラインビデオ市場競争においてさらにオリジナルのコンテンツを入手できるようにした。4月初めのこの投資によって両社の提携は強固になった。Wasuのコンテンツはネットでもいくつかのスマートテレビモデルでも見られる。
Youku(優酷)
Alibabaは、Jack Ma(馬雲)氏が設立したYunfeng Capital(雲鋒基金)の支援を受けてYouku Tudou(優酷土豆、NYSE:YOKU)に12億2000万米ドルの設備投資を行い、ビデオ業界で猛威をふるい続けた。Youkuは中国の動画共有サイト最大手である。
両社は連携して互いのユーザデータを共有し、ターゲット顧客の向上に努める。AlibabaとYoukuはTaobaoやTmallに出店している個人ショップがYoukuの動画で宣伝を行えるサービスの開発に取り組んでいる。
Kuaidi Dache(快的打車)
Alibabaは今年、中国ナンバー2のタクシー配車アプリに2度投資した。4月のシリーズBラウンドと10月のシリーズCラウンドだ。中国のレンタカーエージェンシーであるeHi(一嗨租車)はシリーズCラウンドで2500万米ドルを出資した。どちらのラウンドも非公開だったが、もし両ラウンドがKuaidiの最大のライバルでTencent(騰訊)が支援するDidi Dache(嘀嘀打車)のレベルに近いものなら、巨額な投資であったと予測できる。
Vmovier
このマイクロフィルムシェアサイトは4月、Alibabaから非公開のシリーズAラウンドの投資を受けた。Vmovier(V電影)は中国、海外両方からのショートフィルムを提供している。また舞台裏映像や業界ニュースも配信している。
CFly(酷飛)
CFlyは5月に非公開額でAlibabaに買収された。同サイトは航空券の問い合わせと予約に対応しており、現在も独自で運営している。
AlibabaがIPO申請
Alibabaは5月7日、正式に新規株式公開を証券取引委員会に申請した。そして9月19日にニューヨーク証券取引所に上場した。
China Smart Logistics(中国智能物流骨干網)
中国の主要な配送・物流関連数社との提携に向けたAlibabaの一連の動きは長期にわたって見受けられたが、昨年5月頃、AlibabaはChina Smart Logisticsの創設を発表した。New York Timesによると、1年後、Alibabaはそのジョイントベンチャーに2億6900万米ドルの資金提供を行い、株式の48%を取得している。
Forbesによると、Alibabaには主要な物流パートナーが14社以上あり、Alibaba関連の小包を毎年数十億配送している。国有のChina Post(中国郵政)もその1つだ。Alibabaは今後数年で24時間国内全域配送の実現を目指している。
昨年12月、Alibabaは3億6400万米ドルを中国の家電メーカーHaier(海尔)に投資し、広範な倉庫・物流ネットワークを利用できるようになった。
SingPost
Alibabaが5月下旬、2億5000万米ドルをシンガポールの郵便事業体に投資した際には多くの人が驚いた。AlibabaとSingPostは、両社が将来ジョイントベンチャーを設立できることを内容とする提携もした。Alibabaの狙いは東南アジアに物流チェーンを広げることである。
Alibabaはかつて、Taobaoのローカライズ版をローンチしたことがある。これは、中国のマーチャントとシンガポールの顧客との間の言語や発送面での障壁を取り除くものであった。
Meituan(美団)
Alibabaは5月、Sequoia CapitalとともにMeituanのシリーズCラウンドに3億米ドルを出資した。Meituanは中国最大級の割引サイトであり、ITJuziによれば、12月にさらに7億米ドルの追加出資を受けることを目論んでいると噂されている。これがもし本当なら、同サイトは今年だけで合計10億米ドルを集めることになる。
なおAlibabaは別の最大割引サイトJuhuasuan(衆画算)も運営している。
Guangzhou Evergrande(広州恒大足球倶楽部)
Alibabaは広州拠点のサッカーチームに対し1億9200万米ドルを出資し、50%の株式を取得した。あとの半分は中国の不動産会社Evergrandeが所有しているため、その名がチーム名となっている。
このチームは中国国内のサッカー界で最も成功しているチームの1つだ。Jack Ma氏とEvergrandeのHui Ka Yan(許家印)氏は取引条件について酒の席で話し合い、その後の15分間の電話ですぐに決定した。
KXTX(卡行天下)
KXTXは道路輸送に特化したサプライチェーン管理会社で物流会社でもある。11の都市で物流センターを経営し、プラットフォームに統合させた1000以上の小中規模ビジネスを展開している。Alibabaは5月に、Alibabaが支援しているCainiao Network Technology(菜鳥)とともに非公開額を投資した。
UCWeb(優視)
正確な額は現金と株式の合計からなるためまだ詳細は確定していないが、UCWebとAlibabaは6月、Alibabaが中国で過去最大となる企業買収をUCWebに対して行ったと発表した。
AlibabaはすでにUCWebが所有していた株式のうち残りの3分の1を購入しており、「過去最大の」という発言は、Baiduによる91Wirelessの買収を上回ることを意味している。この買収の直前、2社はモバイル端末用に最適化された新たな検索エンジンを発表している。
UCWebの最も注目に値する商品であるUC Browserは四半期で5億人以上のユーザを獲得し、世界的な成功を収めた中国の数少ないインターネット企業の1つとなっている。UC Browserはインドのモバイル端末向けのブラウザとしては最も人気であり、ベトナムやインドネシア、ロシア、そしてアメリカにも幅広い支持層がいる。
Huxiu(虎嗅)
Alibabaは6月、ビジネスとテクノロジー関連のニュース配信サイトを運営するHuxiuに人民元で7桁の非公開投資を行った。今年より英語版サイトを立ち上げたが、コンテンツの大部分は今なお中国語で配信されている。この投資は第三者による文書の漏えいにより明らかになったものであり、AlibabaとHuxiuからは正式な発表はされていない。
Super(超級)
Superは同じカリキュラムを学ぶ大学生同士がつながるためのソーシャルアプリである。AlibabaとSequoia、そしてCeyuan(策源創投)は6月、非公開ではあるが米ドルで6桁の投資を行った。
Bale(芭楽)
Baleは中国の映画配給会社であり、市場調査も行う会社である。脚本家や俳優の発掘に加え、動画アプリも提供している。Alibabaは8月、Baleに対して1億元(1600万米ドル)のシリーズB投資を行った。
WiTown(树熊)
WiTownはハードウェアとそれに付随するソフトウェアからなるWiFiマーケティングシステムである。企業のルータからユーザに公衆無線LANを提供し、同時にプッシュ型広告も表示させる。Alibabaは同スタートアップに対して、8月に人民元で7桁の非公開額を投資した。
同社のビジネスモデルはTencentが12月に支援したライバル企業WiWide(邁外迪)のものと類似している。
Autonavi(高徳)
Alibabaは既に昨年Autonaviの株式の28%を保有していたが、7月に2億9400万米ドルで完全買収することを決めた。
Autonaviは中国で4番手の地図サービス会社であり、現地でのApple Mapsの公式ソースである。AutonaviとAlibabaがナビゲーション業界に相当の影響を与えるには、首位を走るBaidu Maps(百度地図)および競合社のTencent Maps(騰訊地図)と戦わなければならない。
Kabam
アメリカのゲーム開発会社のKabamは7月末にAlibabaから1億2000万米ドルの資金注入を受けた。この取引により、AlibabaはKabamのオンラインおよびモバイルゲームをTaobaoとLaiwangを通じて中国で提供することになる。しかしAlibabaの中国におけるゲーム業界でのプレゼンスはライバルのTencentと比較するとほぼ皆無という状態だ。
Kabamは向こう3年間でAlibabaを通じて10種類のゲームをローンチする予定だ。同社はすでに150ヶ国以上で35以上のタイトルを提供している。
AlibabaのIPO
重大な日がやって来た。Alibabaは250億米ドルを調達しIPOの世界記録を樹立した。
MomentCam(漫博客)
人を漫画のキャラクターに変換する写真アプリのMomentCamが、Alibabaが主導するシリーズA非公開投資ラウンドにAlibabaのIPO直後の9月に飛びついた。MomentCamは1億6000万人のユーザがおり、その60%は中国本土外のユーザであるとしている。
Alibabaは同アプリのマネタイズを支援する模様だ。
Peel
アメリカのスタートアップPeelは自社のモバイルテレビアプリのために5000万米ドルを調達した。Peelはユーザが自分のテレビ、DVR、および衛星放送をアプリから制御することを可能にし、お勧めやレビュー、その他のソーシャル機能も内蔵している。
PeelをAlibabaのeコマースやメディアエコシステムに組み入れる計画は発表されていない。Alibabaは2013年の2000万米ドルに達した投資ラウンドの際500万米ドルをPeelへ投資しており、今回が2度目となる。
LiuLiu(遛遛)
ペットに関するソーシャルネットワークのLiuLiuは、10月にAlibabaから米ドルで6桁におよぶ非公開額投資を受けた。猫や犬のプロフィールを作成できるほか、犬の散歩に行ってくれる人を探す、繁殖に関するディスカッション、里親サービスについての情報共有やお預かり・里親を探すといった様々なことできる。LiuLiuはAlibabaのBaichuan(百川)プログラムの一環として同アプリにTaobaoショッピングを組み込んだ最初の企業の1つだ。Alibabaは10月にシリーズAラウンドの非公開投資を行った。
Huayi Brothers(華誼兄弟)
TencentとAlibabaの双方が同じ資金調達ラウンドに参加した数少ない企業である。テレビ番組や映画製作を行う北京拠点のスタジオであり、インターネット業界の最大手であるこの両社と別の中国系ファンドから、36億元(5億8100万米ドル)を調達した。AlibabaとTencentは、中国国内および海外の両方で、許諾済みビデオコンテンツの争奪戦を繰り広げている。
Momo(陌陌)
ただの出会い系アプリから趣味・関心に基づいたソーシャルネットワークへの一新は、Old Spiceが安いだけでなくカッコいいブランドへと変化を遂げて以来の、Momoのマーケティングにおける偉業と言えるだろう。Momoは12月にアメリカのIPOで2億1600万米ドルの資金調達を果たしただけでなく、Alibabaと58.com(58同城)からIPO前月に6000万米ドルの投資を受けた。4月には、Yunfeng Fund(雲鋒基金)とSequoia Capital、そしてTiger Asiaから1億8700万米ドルの資金を調達した。
V-Key
シンガポールを拠点とするV-Keyは、Ant Financial Capital(螞蟻金融服務集団)やAlibaba関連の電子決済企業であるAlipay、そして既存投資会社のIPV Capitalから1200米ドルのシリーズB投資ラウンドを受けた。V-KeyのセキュリティテクノロジーはAlipay(支付宝)のサービスを保護するために使われる。
KTPlay
Alibabaは、中国のゲーム出版スタートアップであるYodo1(遊道易)と共同し、非公開額をモバイルゲームプラットフォームKTPlayに投じた。現在はベータ版で中国だけでの配信だが、このソーシャルゲームネットワークは、1人プレイのゲームをソーシャル体験へと変化させる狙いがある。
Do Bi(特逗)
このユニークなモバイルゲームは、現代アート作品と写真加工アプリを合体させたものである。ユーザは自分の顔をアート作品に描き入れることができ、さらに友達がその作品に参加してコラボすることができる。同アプリは12月、Alibabaから非公開額のシード資金を確保した。
【via Tech in Asia】 @TechinAsia
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