日本でユニコーン(1000億円超の未公開企業)が生まれない理由、解説します【ウェビナー】

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Unicorn Crossing / rumpleteaser

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先日掲載したCB Insightsのレポート「アジアのユニコーン(10億ドル評価未公開企業)29社リスト、日本勢はゼロ」は読者のみなさんの関心も高くシェア数も伸びました。一方で、なぜ日本からはこういった未公開企業で大きく評価額を上げる企業が出てこないのかという点については、そこまで私も深堀りできてはいません。

この点について、Femto Growth Capital LLPのゼネラルパートナーで公認会計士でもある磯崎哲也さんに本ウェビナーにて解説を頂きます。

聞き手の平野
まずは磯崎さんの簡単なご紹介から。スタートアップ界隈ではもうバイブルみたいになってますが、起業のファイナンス、起業のエクイティ・ファイナンスの著者、と言えば、一番よいですかね。
磯崎哲也さん
ありがとうございます。みなさん、こんにちは磯崎です。そうですね、ベンチャー企業への支援という点では、現在GPを務めているFemtoでの活動を主に、ご紹介いただいた書籍やメルマガ「週刊isologue」の執筆などもやっております。
聞き手の平野
支援先企業・サービスにはピースオブケイクやインテリア共有サイトのTunnel、ウェブ接客のプレイド、海外ソーシャルレンディングのクラウドクレジット、教育系SNSの‎スタディプラス、予約台帳で成長しているトレタ(※)などがありますね。
磯崎哲也さん
はい。スタートアップからグロースステージの企業まで幅広く支援しております。
聞き手の平野
では、今日の本題なのですが、CB Insightsが作成したアジアのユニコーン企業29社に日本が入っていないということで、ソーシャル上で少し議論があったようです。
磯崎哲也さん
facebookのポストでも書いたのですが、日本人の発想が小さくなりがちだとかグローバルビジネスを考えるのが苦手だ、といった問題意識は大切だと思います。
聞き手の平野
しかし構造的にそもそも課題があるというお話でしたね。
磯崎哲也さん
はい。元々ソフトバンクや楽天など、日本には10億ドル(日本円で約1200億円)以上の企業価値がある元ベンチャーが数十の単位であり、上場企業まで含めれば、世界的に見ても「ユニコーン」が多い国の一つだと思います。
主要ネット系上場企業時価総額一覧/情報提供:五嶋一人氏/クリックで拡大
主要ネット系上場企業時価総額一覧/情報提供:五嶋一人氏/クリックで拡大
聞き手の平野
確かに、このネット系企業の上場リストを見ると1000億円越えが28社あるんですね。
磯崎哲也さん
なので「日本だと成長できない」というイメージを誘導するのは大変危険です。
聞き手の平野
書いてる側として耳が痛いです。
磯崎哲也さん
上場企業の様に毎日市場で取引が行われるものと違い、未上場企業というのはエクイティ・ファイナンス(株式での資金調達)をしない限りは、企業価値が顕在化しないだけの話なのです。
聞き手の平野
つまり、自社の利益やデット(借金)だけで資金が回っていて、株式で資金調達しない企業はこういうリストにはでてこない、ということですね。
磯崎哲也さん
日本の現状としては次の様なことが言えると思います。
情報提供:磯崎哲也氏、作成/THE BRIDGE/クリックで拡大
情報提供:磯崎哲也氏、作成/THE BRIDGE/クリックで拡大
磯崎哲也さん
ベンチャーが1回の株式の調達で発行する株式数は全体の10%から20%ということが多いですから、100億円規模の調達の必要があれば、全体の企業価値は1000億円とする必要もありますが、10億円でいいなら、次のラウンドが下がるリスクも考えれば、100億円規模までの企業価値の方が、スムースに調達できるわけです。
聞き手の平野
なるほど。資金提供層が薄いのはマイナスとしても、資金がそこまで必要ない、使い道もない、というのは納得感があります。日本市場は内需が大きく、また、エリアも限定的で、競争で消耗する度合いも低いので海外企業に比べてコンパクトにビジネスを回せる場合が多い、ということですよね。
磯崎哲也さん
はい。つまり、日本市場の環境というのは、良くも悪くも、未上場で資金を大量に集めるよりも、早めに上場をして事業を拡大させる方が合理的な環境になっているんです。実際、楽天、ミクシィ、グリーなど、未上場で数億円程度しか調達していないのに、上場後には一千億円を超す企業価値をつけている企業は多数ありますよ。
聞き手の平野
なるほど。
磯崎哲也さん
米国でも、今はM&A市場が発達して、Exitの9割超がM&Aで、IPOする企業は全体の中ではごくわずかですが、1980年に戻ると、exitの手段はほぼ100%IPOに限られていました。
聞き手の平野
はい。
磯崎哲也さん
M&Aが発達すると、投資回収の期間が短くなるので新たな投資家も参入してきますし、M&Aでexitした役員や従業員が、エンジェルにもなります。Exitの経験のある経営者がシリアル・アントレプレナーとして次の起業をしたら、投資家もさらにお金が出しやすくなりますよね。こうしてM&Aが増えることで、サイクルが加速していくんです。米国の証券自由化は1975年にすでに行われているのに、日本では1999年に行われてまだ16年ほどしか経っていません。ベンチャーの生態系が今やっと、米国の1980年代後半から1990年代前半の状況までたどり着いた、と考えることができます。
聞き手の平野
後、facebookにも書かれてましたが、確かにLINEのような調達のニュースで評価額が顕在化してこない企業なんかもあります。まあ、これについてはこの一件だけかもしれませんが。
磯崎哲也さん
そもそもアジア圏のバリュエーションが上がっているというのは孫さんがAlibabaに巨額投資をした、ということも非常に影響が大きいんじゃないでしょうか。「発展している国の最もイケてる起業に巨額の資金を投下することにより、一気にその国で巨大なビジネスを形成してしまおう」というモデルが、あのAlibabaの投資で実現したわけですから。また、インドネシアで最も活発に投資をしているベンチャーの投資家の一人が、ミクシィのCTOとして成功した衛藤バタラさんですよね。
聞き手の平野
確かに。インドネシアのコマース、TokopediaにソフトバンクとSequoiaが1億ドルもの巨額出資した話題も記憶に新しいですよね。
磯崎哲也さん
つまり、日本は米国に比べて環境が四半世紀遅れているわけですが、その環境のズレを認識すれば、一種のタイムマシン経営ができるわけです。少ない資金で「上場後の」ユニコーンを目指せる「ジャパニーズ・ドリーム」の実例も多数あり、考えようによっては、こんなにベンチャーにとっていい環境の国もなかなかない、と言えるのではないかと思います。
聞き手の平野
磯崎さん、解説の方ありがとうございました。

※情報開示:筆者の家族は磯崎氏が運営するファンドの投資先であるトレタと雇用契約関係にありますので情報開示しておきます。

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