Alphabet傘下のSidewalk Labs、ベビーブーム世代向けコミュニティマーケットプレイス「Umbrella」に出資

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Umbrella の創業者 Sam Gerstenzang 氏と Lindsay Ullman 氏

アメリカに住む65歳以上の人口は約5,500万人、総人口の約16%を占める。2000年から2010年にかけての国勢調査で、65歳以上の年齢層は15.1%増加し、総人口の増加率9.7%を上回る伸びを示した。

人は高齢になるにつれて、退職者向けの集合住宅に入るか、家族と同居するかなど、身の回りのことで重要な問題に直面する。しかしアメリカ退職者協会(AARP)が実施した調査によると、65歳以上の87%が年齢、所得、能力に関わらず「エイジ・イン・プレイス」、つまり自宅やコミュニティで自立した生活をしたいと回答している。

こうした状況がある一方で、Umbrella は会員制のマーケットプレイスを通して、自宅に住む高齢者が近所の人たちとつながる手助けをしようとしている。

2017年にニューヨークのブルックリンで設立された同社は7月12日、Thrive Capital がリードするシードラウンドで500万米ドルを調達したと発表した。このラウンドには、Alphabet の都市型イノベーション子会社 Sidewalk Labs のほか、Inspired Capital、Refactor Capital、Maveron、Collaborative Fund、Trailmix Ventures、Box Group その他複数の個人投資家が参加した。

コミュニティの支援

「シニア向け TaskRabbit」という感じもする Umbrella では、コミュニティに住む人たちに対し、会員登録とサービスの情報を呼びかけている。仕事は段ボール箱の移動から雪かき、電球交換、柵のペンキ塗り、落ち葉掃除、清掃など、何でもよい。このようなコミュニティメンバーを Umbrella では「ネイバー(近所の人たち)」と呼んでいる。通常、仕事は有償で時給は20米ドルだが、うち4ドルは Umbrella に手数料として支払われる。ネイバーは少ない報酬で仕事を請けることもできる。この場合は、近隣に住む低所得の高齢者向けの割安な仕事となる。

手助けが必要なメンバーは年間利用料199米ドルを支払い、Umbrella のマーケットプレイスにアクセスする。

Umbrella の設立メンバーは、いずれも Sidewalk Labs を退社して同スタートアップを立ち上げた。CEO の Lindsay Ullman 氏はかつて Sidewalk Labs のプリンシパルで、Alphabet の投資部門 GV のパートナーでもあった。社長の Sam Gerstenzang 氏も Sidewalk Labs のプリンシパルだったが、評価の高い VC 企業 Andreessen Horowitz で投資経験もあるほか、Imgur で製品開発を指揮していた。

Ullman 氏は次のように述べている。

メンバーは、人手を借りずにコミュニティとつながる状態を維持するために Umbrella を活用しています。自宅周りの仕事を依頼したり、近所の人と会ったりするなど、用途は様々です。高齢者の方が、かつてのお決まりだったシニア向け住宅ではなく、愛するわが家で住み続けるのに、当社のサービスは最も簡単な方法です。

近隣の場所に特化した同アプリを活用して仕事を申し出る人たちは、公開されている仕事の検索、引き受けた仕事の追跡、プロフィールの編集ができる。一方で「ネイバー・リーダーボード」のコミュニティには、少しばかり競争的な要素がある。

Umbrella の近隣の場所に特化したアプリ

この会員制アプリでは、個人で仕事の登録、近所の人や専門家の職種別検索ができる。

Umbrella の会員制アプリ

Umbrella では、人物の背景や紹介情報を確認するなど、「ネイバー」とは面談のうえ注意深く人選している。電気工事士やエンジニアなど複雑な仕事の場合は、資格を持つ専門家にアクセスすることになる。この場合、同社によると「適正な報酬」が支払われる。

家の雑用やちょっとした手助けをしてもらえるプラットフォームは他にもある。しかし Umbrella のサービスでは特に、コミュニティの精神を喚起して育成する設計がなされている。近所の人に柵のペンキ塗りをしてもらったり、芝刈りをしてもらったりすると、社交的なつながりに発展する可能性がある。同社によると、Umbrella ネイバーの半数以上は、退職して間もない人たちでもあるという。

「コミュニティ」の成長と涵養に企業が特化するという小さなトレンドに Umbrella はうまく適合している。同様のご近所ソーシャルネットワーク Nextdoor は最近、時価総額21億米ドルで1億2,300万米ドルを調達した。また、Amazon は昨年、コミュニティが犯罪を報告できるようにするアプリ「Neighbors」をローンチした

マーケットフィット

高齢者は、潜在的には巨大マーケットを構成しているが、一般的にテックの投資家からは相手にされていなかった。しかしその状況は変わる可能性がある。アメリカに住む65歳以上の高齢者の40%超はスマートフォンを保有している (2013年の保有率はわずか13%だった)。さらにこの人口層は、インターネットベースのサービスに支払いをする資金をかなり持っていることが多い。だからこそ、Umbrella のようなスタートアップの事業が成り立ち、さらに重要なことだが、投資家にとって魅力的なのだ。

Thrive Capital のジェネラルパートナーである Jared Weinstein 氏は次のように述べている。

Umbrella は、高齢者からみて主要な消費者ブランドを構築しています。この層は国内で最大の購買力がありながら、逆説的ですが、新製品を開発する企業からは相手にされないことが多々ありました。

Thrive Capital が以前、Honor という高齢者に特化した別のスタートアップに投資していたことは特筆に値する。Honor は自宅在住の高齢者向けにオンデマンドのケアサービスを提供しているが、昨年5,000万米ドルを調達し、その総額は1億1,500万米ドルとなった。

トロントのウォーターフロントをミニスマートシティにするという野心的な計画で Google の姉妹企業 Sidewalk Labs がメディアを大いに賑わしているが、この Alphabet 子会社は過去数年にわたり、複数のスタートアップにかなりの投資を直接的に行ってきた。その中には Sidewalk Labs の元社員が立ち上げた Cityblock Health がある。この会社は、高齢者を含むアメリカの低所得者がヘルスケアにアクセスできるよう手助けする仕組みを作っている

Sidewalk の CEO 兼会長の Dan Doctoroff 氏は VentureBeat に次のように述べた。

Sidewalk Labs にいた時に存在するはずだと信じていた地元の世代間コミュニティが、Umbrella に反映されています。自宅に住み続ける高齢者を支援する新種のコミュニティ・インフラを作ることにより、高齢化に合わせて新たな生活基準を意図的に作り出すことができます。Lindsay と Sam から Umbrella を立ち上げるために Sidewalk を辞めると聞かされた時、私も一緒に関わりたいと思ったのは当然のことです。

Umbrella の現在のサービス提供エリアはニュージャージーとロングアイランドだが、今回新たな資金を獲得したことで、今年中に全国展開する計画を立てている。国際展開については当面の予定はないものの、カナダ、オーストラリア、イギリスから関心が寄せられているという。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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