SaaS広報が知っておくべき広報戦略の立案、事前調査、メディア研究(前半)

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本稿はベンチャーキャピタル、ALL STAR SAAS FUNDが運営するサイトに掲載された記事からの一部を転載したもの。全文書き起こしはこちらから読める。同社のメルマガ「ALL STAR SAAS NEWSLETTER」出資先のスタートアップ転職に関するキャリア相談も受付中

スタートアップにおける広報の重要性は高まる一方、人材不足やノウハウの欠如といった課題も顕著になっています。そこでALL STAR SAAS FUNDとkipplesの共催で『SaaS PR集中講座』を全4回に渡って開催しました。

講師は、Sansanでマーケティング&広報機能の立ち上げに従事され、現在は創業したkipples代表として広報、マーケティング、新規事業の支援や、コミュニティ作り、官民連携促進を中心に活動する日比谷尚武さんが担当。

SaaS企業の広報が必須で持っておきたい知識を、「概論編」「広報組織の立ち上げ編」「広報実務編」「リクエスト編」に分けて展開しました。

「概論編」では、そもそも広報とは何か、経営戦略上の広報の位置づけといった観点に始まり、SaaSスタートアップの広報戦略の実例に至るまでを見てきました。記事では「広報組織の立ち上げ編」の内容からお届けしていますが、「概論編」でお話しした内容は、下記の記事でも一部紹介しているのでぜひご覧ください。

広報で事業をブーストする基本戦略──スタートアップ3社を事例に日比谷尚武が解説

今回は「SaaS PR集中講座〈広報組織の立ち上げ編〉」の内容を記事化しました。中でも、この記事では、立ち上げフェーズから戦略の確定に注目して、日比谷さんが伝授してくれたポイントをまとめています。

広報はアドリブに強くあれ

スタートアップはフェーズによって組織の規模も、かけられるお金も、スピード感もどんどん変わっていきます。そもそも、事業自体が変わっていったりもします。

ですから、広報もその状況に寄り添いながら……というより飲み込まれて、もみくちゃになりながら、その時々のベストな策を講じていく「アドリブ」が求められる立場です。

試しに、私がSansan時代に担ってきた広報的な仕事を振り返ってみましょう。まずは「とにかく発信」から始まりました。プレスリリースを毎週1つ以上は出していましたね。当時はWantedlyもnoteも、それこそFacebookもそれほど広がっておらず、ベンチャーが何かを発信するならプレスリリースしかないだろうと。

サービスに関する情報だけでなく、「お花見を開きました」「マラソン大会に出ました」「社員が結婚式を執り行いました」みたいなことまでプレスリリースにして送っていたんです。今、思うと……恥ずかしい話です。

なぜ恥ずかしいかと言えば、プレスリリースというのは、メディアの方々に自社のことをお知らせして、記事やニュースとして扱ってもらうために届けるものです。それを、今で言うSNSやオウンドメディアに書けばいいようなことまで、とにかくプレスリリースとしてネット上にバラまけば勢いも出て、SEO的な効果もあるんじゃないかとまで考えていたんです。

でも、ほどなくして、その誤った考えを広報界の先輩からご指摘いただき、方針を「信頼感の醸成」に切り替えました。事業提携といった硬めの内容のプレスリリースの他に、メディアへ露出する、スタートアップコンテストで受賞を狙う、クオーターに一度は日経BPが運営するIT系媒体に事例記事が載るように画策する……など、量から質へ転換しました。

また、徳島県神山町の古民家を活用したサテライトオフィスをメディアに売り込んだり、ちょっとユニークな社員制度や社員を紹介したりと、サービス以外でも露出を図りました。この頃にはSansanもサービスが多角化してきたため、従来とは異なるメディアの方や、インフルエンサーの方ともおつき合いするようになっていきます。

大きめの事業発表があれば記者発表を開くこともあり、そこからPR会社とのおつき合いも始まりました。あとは、自社発のニュースがないときでもメディアから声がかかるような状態にしよう、「名刺といえばSansanだ」と思い出されるようにしようと、名刺に関する調査を実施したり、イベントを仕掛けたりと専門家の位置になれるような動きも続けました。

他にも採用広報をスタートさせたり、グローバル展開をしたり……と、このように「広報」であった僕の仕事は、その種類や幅が次第に広がっていったわけです。

広報組織を立ち上げようとしている人から、「始めるべきはプレスリリースを出すことからですか?」とよく聞かれますが、決してそんなことはないと思います。やらないよりはやったほうがいいですが、プレスリリースだけに頼ってもいけません。

ツールや打ち手といった「武器」も様々です。このあたりの制作に関するハウツーや細かな作法はたくさんあります。

「成功するベンチャー企業のPR」は似ている

さて、Sansanで僕は実際に手を動かすだけでなく、先輩広報の方に教わったり、勉強会に参加してみたりする日々を過ごすうちに、仕事の種類や幅も年々と広がっていきました。

他の企業の方々にお声がけいただいて、共同で「BtoBのマーケティングのガイドライン」を制作したこともあります。当時は「リードナーチャリングとは何か」といった専門用語集やフレームワークがなく、それらを制定していき、業界団体として発信する動きにも参加しました。いろんなインプットを経て、広報としての仕事の幅が広がっていったんです。

以前に、雑誌『広報会議』の2015年3月号に「成功するベンチャー企業のPR」と題したページがありました。そこでは、広報担当者がいない状態からスタートアップを起業して、専任広報を配置し、やがては広報機能を携えた会社になるまでという流れをまとめてあります。そこには、以下のような項目が書かれていました。

このプロセスをなぜ紹介したかというと、僕がいろいろなスタートアップの方や広報の方とおつき合いしてみると、だいたいがこれと同じプロセスを経るからです。しかも似たようなところでつまずいたり、チェンジのタイミングを迎えたりもする。

そんなときに迷ったり、間違った道を歩んだりしないように、あらかじめ準備をしておいたり、共通するケースであることを頭に入れておいて、いざとなったら過去の事例を調べるつもりでいるだけでも、立ち向かう心構えができていいのではないか、と思ったんです。

広報戦略を立案するプロセス

今挙げたプロセスを、いかに実際に自分たちで組み立てていくか。言い換えるなら「広報の戦略立案のプロセス」を、ここからはお伝えしていきます。

下記は、僕が実際に広報のコンサルティングを請け負うときにも用いる、戦略策定から実施プロセスの例をまとめた図です。だいたい2〜3カ月をかけて、このプロセスを経ていくように取り組んでいます。

本来は3ヶ月かけてじっくりプランを作り上げますが、今日は“超短縮バージョン”で要点を見ていきます。

まずは「目的の確認」です。そもそも広報を何のためにやるのかを確認すると共に、コミュニケーションをしていきたいターゲットを整理します。これらが定まっていないと今後のプロセスも軸が通りませんし、どこかで「ちゃぶ台返し」が起こってしまいがちです。

次に戦略策定のための「事前調査」です。現状の外部環境を踏まえたうえで、「戦略確定」のフェーズへ進みます。ここで広報ターゲットや狙いたいメディアも確定させ、キーメッセージも定めます。

方針が決まったら「コンテンツ作成」です。説明資料・ファクトブックを整える、サイトやブログを用意する、動画を作る、イベントやリサーチの実施といった武器作りですね。

ここまで済んだら「活動実施」として、メディアに対してアプローチしたり、自社発信をします。そして、最後は「評価」で、OKR観点での評価や露出・行動の評価、PDCAを回すための会議の設定などを行います。

BRIDGE編集部註:この後の『「目的の確認」と「事前調査」が大前提』などの続きはこちらから。

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