気候変動問題に「デジタルツイン」が役に立つ?

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国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が本日閉幕(訳注:原文掲載日は11月12日)したが、世界各国の政府が地球を救うために迅速な行動を起こすとは思えない。代わりにテクノロジー・リーダーが行動を起こすことはできないだろうか?それを試みているところもある。

6月に発表された「Microsoft Cloud for Sustainability」は、企業が気候変動の影響を理解し、改善することを目的としている。今週、NvidiaのCEOであるJensen Huang氏は同社の年次技術カンファレンスの基調講演の最後に、地球全体のデジタルツインを作成できるE2(Earth 2)スーパーコンピュータの開発を約束した。E2はこれまでにない解像度で地球をモデル化することで、数十年先の気候を正確に予測し、地球温暖化を緩和するための取り組みを行うことを目的としている。

COP26サミットに参加した企業のひとつであるAspenTechのサステナビリティ・リードを務めるPaige Marie Morse氏は「私たちはいくつかの問題を解決するのが少し遅れているようだが、テクノロジーが私たちをより速く前進させることができれば素晴らしいこと」と述べている。

デジタルツインとは、実物の代わりとなるほど正確なシミュレーションのことで、産業プロセスの大規模な変更をハードウェアやコンクリートに実装する前にテストするという点で大きな可能性を秘めている。

AspenTechはNvidiaほどの規模ではないが、化学プロセスの最適化クリーンな水素燃料の導入を加速させるために、デジタルツインを活用することを提案している。その代表的な例を紹介しよう。BASFはメタノールの製造プロセスを再設計し、炭素を含むオフガスをプロセスに再利用することでCO2排出量を削減した。AspenTechのソフトウェアで作成したデジタルツインは生産プロセスの変更計画をモデル化し、生産開始前に調整を行うことができたという。

AspenTechは30年前にマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究成果をもとに設立され、化学製造や化石燃料精製などのプロセス産業向けのソフトウェアを開発している。最近では持続可能性の目標を達成するためのソフトウェアも手がけている。

同社はすべての製品や産業生産物のライフサイクル全体が環境への影響を含めて考慮され、廃棄物が排除されたり、可能な限りリサイクルされたりする「循環型経済」の構築に参加したいと考えているとMorse氏は語っていた。また彼女は「実際に計算した際にこれらをどのように測定するかについて世界中で合意がないこと」と課題も語っていた。

環境に優しいeコマース

AmazonのClimate Pledge Fundは最近、Infinium、Resilient Power、CMC Machineryという3つのグリーンイノベーション企業への投資を発表した。これらの企業はそれぞれ、Amazonのeコマースおよび物流事業のカーボンフットプリントを削減できる製品を持っている。例えば、CMC Machineryが開発したパッケージの適正化プロセスにより、Amazonは来年、大きな箱で配送される小型商品の緩衝材として使用するプラスチック製の空気枕の数を10億個削減できると予測している。

またResilient PowerはAmazonの配送トラックのような電気自動車の充電ステーションを増やすため、都市の電気インフラの改善に取り組んでいる。Infiniumはクリーンな燃焼をする水素と回収した二酸化炭素を組み合わせ、ジェットエンジンやディーゼル車に使用できる過渡的な燃料を作っている。

気候誓約基金の責任者であるMatt Peterson氏は「気候誓約にまつわる目標を達成し、全般的により持続可能なものにするための技術や製品を支援している」と述べている。

Amazonは、気候に関する目標を達成することを目的とした機械学習の取り組みも行っている。また、AmazonはClimate Pledge Fundの発表に合わせて特にデジタルストーリーを押し出したわけではないが、だからといってデジタルストーリーがないわけでもない。例えば、Resilient Powerの社長であるJosh Keister氏はメールで、ソフトウェアは同社が「資本集約的なハードウェア試作をあまり行わずに、注文や助成金を受けて起動する」のに役立つと述べ、「(機器が)設置された後は、AWS上のビッグデータや機械学習によって信頼性も高まり、設計プロセスへのフィードバックも早くなる」と付け加えている。

例えばファンの音や振動を利用し、実際に問題が発生する前に予防的メンテナンスのスケジュールを立てることができる、というわけだ。Infiniumによると、独自の国産GISマッピングアプリケーションを開発し、これをパイプラインや送電インフラの分析、再生可能電源の利用の最適化、二酸化炭素の排出量の最小化などに利用しているそうだ。

電力を大量に消費するデータセンターはどうなる?

一方、このようなモデルが稼働するデータセンターはそれ自体が大きなエネルギー消費源であり、二酸化炭素の排出量も大きくなる。電子がプロセッサを通過すればするほど、プロセッサが消費する電力と発生する熱が増え、冷却システムがそれを補う必要があるためさらに電力を消費する。これらの影響は効率的な設計や自然冷却を利用することでいくらか軽減することができる。そのため、ノルウェーのような寒冷地の国は、データセンターの理想的な立地と言われている。

しかし、地球温暖化に対するデータセンターの貢献度はしばしば誇張されている。私はデータセンターが世界の二酸化炭素排出量の2%を占めているという記事をいくつか目にしたが、2018年に科学雑誌『Nature』に掲載された記事がその統計の出所と思われる。実際には科学者たちは、すべてのPC、iPhone、通信スイッチ、家庭用ルーターに供給される電力を含むコンピューティングとコミュニケーション技術全体の推定値としてこの数字を出しており、コンピューティングとコミュニケーション技術のカーボンフットプリントは、航空業界のジェット燃料の使用量とほぼ同等であるとしているのだ。

Nature誌の記事では、データセンターの貢献度を世界の炭素排出量の約0.3%と推定している。一方、悲観的なシナリオでは特に暗号通貨のマイニングなど電力を消費するアプリケーションが普及した場合、データセンターが世界の電力の20%を消費するようになる可能性があると警告している。

AIや機械学習モデルは、スーパーコンピューターと同様に電力を大量に消費する。

Huang氏はE2に対して、スーパーコンピューターとして画期的なエネルギー効率を示すことになると主張している。それが実現するかどうかはまだわからないが、一方で、気候変動に立ち向かうために世界はあらゆる頭脳の力を必要としているのは間違いない。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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