再エネ発電事業者向け運用最適化プラットフォーム「Tensor Energy」、ジェネシアVから7,000万円をシード調達

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Tensor Energy 共同創業者の堀ナナ氏(左)、Vincent Filter 氏(右)
Image crerdit: Tensor Energy

再エネ開発業者・再エネ発電事業者向けの、発送電や蓄電池クラウド運用プラットフォーム「Tensor Energy」を提供する Tensor Energy は8日、シードラウンドで7,000万円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、ジェネシア・ベンチャーズ。同社では、調達した資金を使って、再生可能エネルギーの発電予測、電力卸売市場動向の予測アルゴリズム、AI 開発のための人材採用を実施、今春に Tensor Energy のプロトタイプをローンチ、年内にβ版のローンチを目指す。

Tensor Energy は2021年11月、大手コンサルファームで電力などインフラ関連のコンサルティングを経験した Vincent Filter 氏と、分散型発電所の開発や建設に従事してきた堀ナナ氏により共同創業(共に代表)。今年、再エネ発電された電力の価格制度が FIT から FIP に移行するのを前に Tensor Energy を立ち上げた。FIT とは価格固定で電力が買い取られる制度のことで発電者の収入が一定だったが、FIP とは補助額(プレミアム)が一定で発電事業者の収入が市場価格に合わせて連動するようになる。

かねてから電力市場にもダイナミックプライシングの考え方は取り入れられている。需要の大きい時間帯には高い単価で、そうでない時間帯には低い単価で取引される。再エネ発電は市場保護の観点から例外扱いされてきたが、ここにも競争原理が持ち込まれることになる。ただ、再エネ発電は自然由来のエネルギー源を元にするものが多く、需要増減にあわせ意図した形で発電量を調整することが難しい。Tensor Energy は、蓄電池の活用などで、取引所・需要家などに売られる電力の量とタイミング的最適化を行う。

「Tensor プラットフォーム」
Image credit: Tensor Energy

再エネと蓄電池を活用し、24時間、再エネ由来電力を提供できる社会を実現したい。AI + IoT で再エネ発電所から電力供給を自動制御することで、それを可能にすることが目標だ。

FIT から FIP への移行で、発電事業者にとっては、これまでは送配電事業者に売るだけでよかったが、これからは需要家や取引所など相手にするステイクホルダーが増え、市場リスクにもさらされるようになる。

(環境の制約などから)一箇所に大規模な再エネ発電設備を設置することは難しくなっていて、小規模な設備を多数抱える事業者が増えている。そういった発電所を統合管理する仕組みも必要になっていく。(堀氏)

再エネの普及には、旧来型の電力網(パワーグリッド)のネットワークトポロジーも足枷になっている。これまでの電力網は、大型発電所で大量の電力を発電し、それを需要のある場所に変電所を通じて送配電するというやり方だった。したがって、基本的に電力が流れる方向は一方向で、ハブ&スポーク型のトポロジーが効率的だ。しかし、再エネ発電では、発電設備は比較的小規模なものが多数、つまり、分散型のネットワークになる。受電用に設計された末端の電力網は、送電に使う(逆潮流)にはキャパが足りない。

「PPA’(電力販売契約)シミュレータ」
Image credit: Tensor Energy

根本的に末端の電力網の仕組みが新しいものになっていくには、長い年月を必要とするだろう。エネルギー効率が上がって地産地消が当然になった世界では、ひょっとしたら電力網の幹線が必要なくなる時代が来るかもしれない。ともあれ、末端のキャパの小さな電力網を通じて再エネ発電された電力を効率的に送電(売電)するには、その流量やタイミングを調整してやる必要がある。市場価格の予測も立てながらこれをすることで、発電事業者の収入を最大化できるというわけだ。

再エネ電力の最適化を促すスタートアップは海外にも存在するが、ヨーロッパなど大陸にある国々では、電力網は国を超えて整備されているため、環境の異なる広範な地域間で電力の需給調整などがやりやすい(ある場所の天気が悪くても別の場所の天気がいい、タイムゾーンの違いから需要のピークタイムにズレが生じるなど)。日本は島国であるため電力網は国内で完結しており、国内課題は国内で解決する必要がある。Tensor Energy が生み出す技術は、日本をはじめ、小規模や孤立化した電力網での重宝が特に期待される。

<参考文献>

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