火力発電所を水素発電所に転換可能——何も燃やさずに熱を得る技術、豪Star Scientificの「HERO」

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Image credit: Star Scientific
  • SXSW 2022 Innovation Awards の「New Economy」部門で最優秀賞を獲得

水素からエネルギーを取り出すには、大きく分けて2つの方法がある。 燃焼させてエンジンを回したり、化学反応させて電気を起こしたりするなどだ。しかし、Star Scientific が開発した水素エネルギー放出最適化装置(HERO、Hydrogen Energy Release Optimiser)は、水素を燃焼させることなく、連続的な工業用熱源(190℃から1000℃)に変換することができる。同社は水素と酸素を利用し、触媒のもとで結合させることで、膨大な熱源を連続的に発生させることに成功した。触媒の製造過程においても二酸化炭素を排出しない。

この技術の強みは、熱源を利用したあらゆる動力を必要とするシステムに導入が可能なことだ。例えば、世界に8,500ヶ所あって、電力消費の25%を担う石炭火力発電所のボイラーを HERO にリプレイスすれば、発電所の稼働を継続しながら排出ガスを削減できる。しかも、新たに専用の発電所を新設するのに比べ、システムを改修するだけでよく、費用や期間は圧倒的に少なくて済む。水素は容易に可搬できるので、パイプラインが近くにないところでも実装しやすい。HERO は調理に熱が必要な食品製造分野でも関心を集めている。

これまで熱といえば、大部分は火に頼るものだった。そのエネルギー源が薪であれ、ガスであれ、火を燃やしていることに変わりはない。ヒーターを使うにせよ、そのエネルギー源となる電力の多くは、何かを燃焼させて得たものだ。原子力は燃焼させているわけではないが安全面で課題が残る。

Star Scientific は第1回 World Hydrogen Awards(世界水素賞)の産業用応用部門賞を受賞した。また、2020年には S&P Platts Global Energy Awards の Emerging Technology of the Year も受賞している。同社は最近、フィリピン政府と HERO を中心とした覚書に調印した。これは、水素を燃料とするフィリピンのエネルギー自給の推進に貢献するものだ。

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