無人水産物養殖システムで食料自給率アップに期待、シンガポール「Vertical Oceans」/完全無人化ビジネス(4)

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Image credit:Vertical Oceans

(前回からのつづき)シンガポールに拠点を置くVertical Oceansは、水産用の垂直養殖場システムを開発している。機械学習とデータサイエンスをバックグラウンドに持つCEOのJohn Diener氏と共同創業者Enzo Acerbi氏は昆虫タンパク質会社で共に働きグロースを経験。

TechCrunchによると、エビの養殖方法に疑問を持ったことと機械学習が水産養殖に与える影響を研究し始めて水産養殖の修士号を取得したことがきっかけでVertical Oceansを設立し、その後に続く2020年のシンガポール食品庁の海洋養殖センターでの実証実験に至った。

同社が開発する多栄養再循環養殖システムではエビ、白身魚、海ぶどうを単一のユニットで生産できる点が特徴だ。一般的なエビの養殖では水質環境の維持とエサの一部に化学薬品、抗生物質が用いられるが、エビ、魚、海ぶどうの生息エリアを階層分けして連結することでそれらが不要になる同時成長が可能な生態系を実現した。

各階層の環境を維持し、システム全体を管理するのに欠かせないのがセンシングと自動コントロール機能だ。アメリカVCのHatch Blueが運用する水産養殖業界向けメディア「The Fish Site」によると、将来的な生産量拡大を見据えた場合の管理には少人化や無人化が必要となる。

一方、同社では水質の最適化、エビの行動をカメラで観察したベストなタイミングでの給餌、ポンプ速度調整などディープラーニングを用いた独自のモジュール式の自律デバイスで管理をする。これにより栄養損失を最小限に抑え、持続可能な原材料のみを使用し、エビの風味を改善するよう調整できているのに加えて、廃液が排出されないシステムとなった。

シンガポールは2019年から2030年までに食糧自給率30%を目指すことを発表している。シンガポールは国土が狭く、耕地面積が少ない国で食料確保を輸入に頼っていることを背景とした施策で投資を加速させる方針であるため、同社にとっては大きな追い風になることが予測される。

さらに実証実験の結果が良好だったことを受けて、年間1,000〜1,500万トンのエビを生産できる商業養殖場を検討しているという。アメリカの水産業界の健全性を議論する非営利組織のGlobal Seafood Alliance取材でも言及されている通り、仮に販売に漕ぎ着けたとしても輸入品の冷凍エビに比べて、設備費、管理費用で高価格になることが予想される同社のエビだが、消費者の反応がどうなるか注目が集まる。

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