持続可能な社会を作るスタートアップたち(3)メタンガスからバイオプラスチックを生み出すMango Materials

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メタンガスから生成されたバイオプラスチックのチップ
Image Credit : Mango Materials

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

脱炭素やダイバーシティなど、誰もが安心して暮らせる社会づくりへの取り組みはスタートアップに対しても求められるようになってきています。この連載では、ESGへの取り組みを具体的なケースとともにお伝えいたします。前回はパッケージという必要不可欠な消費者体験を効率化することで環境対応を進めるshizaiをお伝えしました。続く今回はプラスチックについてです。

環境を考える上で避けて通れないのがプラスチックの存在です。極力利用しないという選択以外に、材料を環境にやさしいものに転換するというアプローチも随分と進んできました。

シリコンバレー拠点のMango Materialsはメタンガスからバイオプラスチックを生み出すスタートアップです。バイオテックであると同時に、気候変動で問題視されるメタンガス(二酸化炭素同様、メタンガスも温室効果ガス=GHGのひとつとされる)の固定化に寄与できるClimate Techスタートアップと見ることもできるユニークな存在です。

同社は2010年、ハイポリマー技術者のMolly Morse氏、土木・環境エンジニアのAllison Pieja氏、環境微生物学者の Anne Schauer-Gimenez氏の3人によって設立されました。

メタンガスは、動物の生命活動などで生み出されるものです。人間が排泄する”し尿”や下水の堆積物はもとより、近年では、経済動物として飼われる世界・15億頭の牛のゲップが、地球温暖化の重大な原因となっていることが問題視されています。

メタンガスは常温で可燃性を持つため、効率的に集めることができれば、これを燃やすことでエネルギーとして利用することも可能です。一方で燃焼した際に二酸化炭素を生成してしまうため、コスト効率のよい固定化(二酸化炭素では植物による光合成など)技術の開発が期待されてきました。

同社が開発したのは、バクテリアを使ってバイオプラスチックのPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)を作り出すというものです。ここで使われるバクテリアはメタンガスをいわば「エサ」としてPHAを生成するそうです。

PHAは生分解性ポリマーであるため、海洋を含む自然環境下でも分解可能で、いわゆるマイクロプラスチック問題を誘発するリスクも少なくなります。Mango MaterialsはこのPHAを成形しやすいペレットの形で、さまざまな産業界に供給することを可能にしました。

この技術はNASAが2020年に選定した商用飛行試験用の有望な宇宙技術にも選定されるなど高い市場評価を得ています。現在、シリコンバレー周辺のゴミ処理場や下水処理場「Silicon Valley Clean Water」で生まれたメタンガスを使ってPHAペレットを製造しており、将来的には、酪農場や下水処理場などからも入手して事業を拡大することを考えています。

Mango Materialsはスタートアップらしく、大規模なPHA製造施設を自ら建設することはせず、現地パートナーとの提携に基づき、バクテリアがPHAを生成できるようトレーニングする技術やノウハウのライセンス供与を中心に事業を組み立ているとのことでした。

ここまでパッケージの効率化を手がけるshizaiの環境への取り組みと、メタンガスからバイオプラスチックを生み出す Mango Materialsについてご紹介しました。

極端な話をすれば、パッケージや石油系のプラスチックがなくなれば環境負荷は大きく減ることになります。しかし、文明社会においてこの存在が商品の体験を大きく左右していることは明らかです。

素材や製造方法などへの取り組みはもちろんのことながら、こういった活動をわかりやすく、かつ、信頼される形で情報発信できるかどうかは、今後のスタートアップにも課せられる課題になるのではないでしょうか。

では次回からはESGの「S」、社会についての取り組みをいくつかのケースで考察してみたいと思います。

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