業務時間の20%をAI研究に割いてもOKのワケーースタートアップはChatGPT時代をどう迎える/ミラティブ赤川氏

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OpenAIが対話型AI「ChatGPT」の3.5バージョンを公開したのが昨年11月。2月にはMicrosoftの検索エンジンBingと連携したチャット型検索のBing-GPTがお目見えし、3月のバージョン4とAPI、そしてプラグイン公開でこの流れは一気に世界のサービスを飲み込むことになります。

スタートアップ・大手・ビックテックのみならず、AIによって強化された個人は少人数であってもその力を十分に発揮できる世の中になるかもしれません。しかし、このインタビューで語られた通り、ここから巻き起こる出来事は誰にも想像がつかないものだと思います。

そこで本稿ではこのパラダイムシフトにあって動きのある起業家たちをインタビューで繋ぎ、少しでもその輪郭を掴んでみることにしました。初回の松尾豊教授、前回のLayerX・福島良典氏に続く今回は、スマホゲーム配信「Mirrativ」を提供するミラティブ代表取締役の赤川隼一氏に話を伺いました。

先日、いち早く社内でこの対話型AIを始めとする動きに対し、社内が研究できる「AI自由研究制度」を試験的に立ち上げています。モバイルゲーム実況から新機軸「ライブゲーム」などでスマホ・エンターテインメントを牽引する彼は何をみているのでしょうか。(文中の太字の質問は全て筆者、回答は赤川氏。敬称は略させていただいています)

驚異的な進化がはじまる可能性

「衝撃的な瞬間はやはり特にGPT-4の場面でしたね。木曜日だったか水曜日だったかと思います。その日のうちに、マネージャー全員に使ってもらう意思決定をしましたし、私自身も取り組み始めました」。

落ち着いた雰囲気の中、やや興奮を抑え気味に話し始めた赤川氏。

私はまずミラティブという、国内スタートアップにおいても有数の成長株がこの動きをどう受け止めているのかについて聞いてみることにしました。

ーー赤川さんはこの動きをどう受け止めています?

赤川:私はまだ、過小評価されているのではないかと思っています。現時点では、まだ実用に足らないと考える人もいるかもしれませんが、スケーリングアップでパラメータが増えると精度が向上することが分かっている以上、コンピューティングパワーの増加によって精度はさらに上がるでしょう。プラグインが登場したことを受けて、みんなが想像しているよりも早く、いろいろな要素が組み合わされて大きく変化するのではないかという衝撃を感じています。

時間軸もありますよね

赤川:iPhoneが登場したとき、本当にiPhoneネイティブなサービスが出たのは3、4年後でしたよね。日本ではパズドラ、メルカリ、世界ではインスタグラムなど。だから今回も、ネイティブなものが出てくるのは少し先かもしれないので、焦る必要はないかもしれません。

一方で、iPhoneがデバイスとして1億台を超える普及には3年ほどかかりましたが、今回はすでに億単位のユーザーがいて、クラウドサービスが圧倒的に普及しています。戦争や金融危機などで世界は分断しつつも、今、サーバーサイドでは歴史上もっともつながっている時代と言えるのではないでしょうか?

そのため、今回の進化スピードは、これまでのあらゆる種類のイノベーションよりも速くなる可能性があります。その中で、次のネイティブサービスや業務改善ができるのは、実際に触れている人だけです。だから、社内で徹底的に触れる文化を作らなければ、競争にさえ参加できないかもしれません。

ーーこういった危機感を直感的に感じるのが経営者の「本能」かもしれません。福利厚生の一環としてChatGPTの利用料補助を打ち出す企業が多い中、ミラティブでは一歩踏み込んで5万円を上限とする研究補助や20%の業務時間を研究に充てる制度を試験運用開始したのです。

まず、声をあげている経営者の方がこのChatGPTによって効率化が進むという点を指摘しています

赤川:ケインズが言っていた「人間の労働時間は週15時間になる」という言葉を思い出しました。私も以前は、週休3日はまだ非現実的だろうと考えていましたが、現状の効率と同等の水準であれば、週休3日でも十分になるかもしれません。そう考えると、業務時間の20%をAI研究に割くことを全員で使っても良いのではないかと考えたんです。

しかし、現状では温度差もあるので、今やるべきことは熱量の高い人たちの日々の発見を集合知にする方が重要なんです。社内でも同様で、この瞬間に触れたくて仕方がない人たちや、熱中している人たちにレバレッジをかけることが最も重要だと思います。

具体的な使い方、今、言える範囲で教えてもらってもいいですか?

赤川:そもそもGPT-3.5の段階から徐々に使えるものは使い始めていました。例えば、ゲームなどで答えがないものやキャラクターの名前を考えるような話など、GPT-3.5の段階でも思考を短縮できる部分は使い始めています。しかし、GPT-4になるとビジネスサイドでも例えば要件定義の叩き台を作ったり、専門知識の事前学習などの粒度の活用が始まっていますね。

DeNAtと共同開発のライブゲーム「プリンセス&ナイト」

ゲーム実況はAIでどうなる

ミラティブと言えば2022年から本格的に拡張しはじめたライブゲームが好調の様子です。赤川氏によると、昨年後半からは20本以上のライブゲームがリリースされて売上も順調に伸びると同時に、自身の関知していないサードパーティのゲームもしっかりと結果を出すなど、広がりを見せる状況にあるそうです。

ライブゲームの魅力はスマホひとつあればネットワークにいるトモダチと自然につながり、ゲームの熱狂を共有できるところです。赤川氏の言葉を借りれば「10年後はおそらくほぼ全てのゲームにゲーム実況への介入機能が入る」ぐらい、ゲームにとっての「アタリマエ」になりつつあるのだとか。

そしてここにも当然、ChatGPTを始めとするジェネレーティブ(生成)AIの可能性が潜んでいます。私はまず、人工知能による実況の可能性から聞いてみることにしました。

ーー人工知能による実況の可能性でてきました

赤川:すでにAI Tuberの動きのようなものが出始めています。例えば、コメントに対して音声でリアクションする、といったようなことです。

さらに自然な受け答えをするAIはいずれ出てくるでしょうね。例えば、最近のGPT方面では、画像生成とChatGPTを使ったテキストライティング、リップシンク、音声認識、映像編集を組み合わせたデモも見かけました。一方で、短期的には、やはり人間の方がまだ的確な回答をすることができますし、短期的にいわゆる「バズる」以外の側面で、人間の配信者が全員いらなくなるとまでは思っていません。

もうひとつ、Mirrativにとっても大切な「スマホ」というデバイスがこのパラダイムでどう変わるかというのも興味深いテーマですよね

赤川:最近特に感じることは、人間という存在が基本的に五感と第六感を含めたセンサーで情報を収集し、脳というCPU兼GPUを通じて処理し、自然言語でコミュニケーションを行う生物だったんだなと再認識したことです。

現在は視覚と触覚を通じてスマートフォンなどの中間デバイスを介してインタラクションしていますが、将来的には拡張が進み、人にとっても快適になる変化が起こるでしょうね。ただし、そのような進化にはハードウェアの関与がありますから、1年程度で実現する話ではないと思います。

非常にざっくりした質問というか感想で恐縮ですが、これから何が起こるんでしょうね?

赤川:物質的価値や合理的価値から物語価値・情緒的価値に重心が移る、というのはあるかもしれません。元々、物質的価値は既に飽和していて、例えば大手ECでモノについては安く早く良いモノが購入できるようになっていますよね。それが物だけでなくなるわけですから、自然と情緒的価値や物語の価値の重要性がますます高まると思っています。

何を言ったかではなく、誰が言ったかや、いつ誰とどんな文脈で体験・消費したかといったことが大切になる。私たちが担っているのは、ナラティブを紡ぐことで、同じコンテンツでも誰と体験したかによってその人にとっての思い出や価値が変わる価値、「居場所」の価値です。「モノ」そのものがコモディティ化するため、物語やコンテキスト、情緒の価値が上がり、ブランドが大切になるわけです。

時間になりました。ありがとうございました。

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