半年から1年で世界は変わるーーChatGPTが起こす変革、東大松尾教授一問一答

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

昨年11月に一般への利用が開始されたチャット型のAI「ChatGPT」が全世界的なテクノロジー・スタートアップの間で大きな話題になっています。画像や動画関連のジェネレーティブ(自動生成型)AIの利用が進んだ理由のひとつに「自然なテキストでの入力」がありました。

ChatGPTはその自然な会話指示に対して、極めて人間的かつ、自然な言葉での回答を実現したことから画像や動画などとは異なるレベルで拡散が広がり、開始2カ月で1億人が使うまでに至っています。

ChatGPTはその後、開発元のOpenAIを支援するMicrosoft製品と連携をするなど、エンタープライズにも影響を与え始めています。本稿ではそのChatGPTに対し、国内人工知能研究の第一線で活動を続ける東京大学大学院の松尾豊教授にお話を聞きました。

OpenAIによるチャット型のAI、ChatGPTが大きく話題になっています。国内事業者も続々と動きつつありますが、特にどういった企業・人が鍵になってくると考えておられますか

松尾:誰が鍵というよりは、誰がやってもいいと思います。大規模言語モデルを開発してもいいし、APIを使ってサービスを作ってもいいし、ユーザーとして使ってもいいと思います。技術の変化点ですから、誰にでもチャンスがある。もしこういった分野できちんと投資をしていこうと思うのであれば、ITセクターに限らず日本の企業で数百億円の投資ができる企業は相当多いと思うんです。もちろんKDDIさんみたいなところは本命の一つだと思います。製造業でもいいし、銀行でもいいし。

素人考えで脈絡のないところよりは近いところ、例えばデータを持っているところの方がよいということはありませんか

松尾:多くの領域に影響がありますから、あんまり絞る必要はないと思いますよ。だってインターネットが出てきたときに誰がやったら勝てたんですかと言うと、別に関係ないじゃないですか。NTTがやったからというのはあんまり関係ない。

ここが「よーいドン」だと

松尾:こういった質問自体がそもそもおかしいのですが、日本の問題として、他人事にしちゃうんですよね。誰かがやるべきだとか日本にチャンスはあるのかとか、教育が悪いとか国が悪いとか。そんなことを言ってるから駄目なんです。やりたいと思った人がやればいいんですよ。

確かにスタートアップも資金を集められる時代になりました

松尾:スタートアップでもやろうと思ってるところはあると思いますし、いいと思います。弁護士ドットコムも早速ChatGPTで弁護士業界を変えますと。ああいうのはいいですよね。とにかくやってみるというノリが大切だと思います。

一番インパクトを受けたところはどの辺りだったのですか

松尾:今回のは技術+ソーシャルなんです。みんながびっくりしたことをソーシャルで他の人に伝えてるわけじゃないですか。それで「えーっ」て思ってやってみた人がまた自分もびっくりして他の人に伝える。その中で新たなクリエイティビティがどんどん生まれて、こんなこともできる、あんなこともできるよって。ソーシャルな動きが広がったところがポイントなんですよ。技術がすごいと言ってもそれだけだと世の中は動かないんだけど、ソーシャルに広がったので技術がすごいと信じる人が急激にめちゃくちゃ増えたんです。

ジェネレーティブAIの分野では画像や動画が先に話題になりました

松尾:絵を描くStable Diffusionのように、やっぱり言語での入力というのがみんなにとって非常にやりやすいと分かったわけです。Diffusion ModelとかDALL-E 2とか技術の蓄積としてはあったんだけど、MidjourneyやStable Diffusionが流行ったのは誰でも使えるから。誰でも使えるし言葉で入れられるので、すごく敷居が低いですよね。

その中でChatGPTが出てきた。言葉で入れられることがユーザーの母集団をめちゃくちゃ増やすんです。APIを叩くのと言葉を入れるのって、エンジニアからするとほとんど違いがないように思うんですけど、ユーザーの母数で言うと1,000倍とか1万倍とか違ってくるわけです。

あとはそれに耐えられるような工夫をしていた。炎上しないようにしたことがすごくて、1万倍の人が使っちゃうと普通は炎上するんです。だけど炎上しない工夫がすごくよくできていたので、ここまでクリエイティビティが花開いたという感じがします。

昨年のChatGPT公開開始からわずか数カ月で1億人規模が使うことになりましたよね。GoogleもBardを急いで公開して追随せざるを得なかったように思います

松尾:OpenAIも出すまではこんな風になると思ってなかったと思うんですよ。ちょっとびっくりしてるはずなんです。要するにソーシャルな現象が起こっちゃったということなんです。Googleはそういう意味では不運ですね。こうなっちゃったから出すしかないんだけど、急いで出すしかない状況に追い込まれましたからあんまり準備ができてないじゃないですか。OpenAIは準備してからChatGPTを出したけど、Googleは準備が足りない中で出さざるを得なかったのでちょっとかわいそうというのはありますね。

どういう使い方があると考えてますか

松尾:それこそインターネットが出てきたときにどんなビジネスが起きるかを列挙してもしょうがないっていうか、想像できないのと一緒で、思いがけないものがたくさんあるはずなんですよ。インターネットの初期もスーパーの食品を宅配するビジネスがたくさん資金調達したけど見事にこけたみたいな。普通に考えてうまくいきそうなことがうまくいくとも限らない。だから、やったらいいんじゃないかと思う。

一方、叩くAPIが同じであれば結果は同じだと冷めたことをいう人もいますし、大手企業ではリスクを恐れるのではという懸念報道も一部ではあがっています

松尾:APIが同じで結果が同じでも工夫の余地はありますよね。大手企業がリスクを嫌がるのは昔からです。新しい技術なのですから、リスクだと思う人は、何もしなければいい。やりたい人はどんどんやればいいんですよ。そこを問題視する必要はないんじゃないですか。やらない企業はいかがなものか、日本の経済はいかがなものかと言っててもしょうがない。やりたい人がどんどんやればいい。僕が言いたいのは、とにかく大きなチャンスだということだけです。技術の黎明期なのでいろいろと欠点もあるし、今はできてないところもあるけど、そんなの当たり前じゃないですか。

これだけ分かりやすいものが出て想像力がかき立てられてるわけですよ。普通に市場規模だけを考えても、スタートアップのビジネスで、案外市場が小さいものも多くありますが、ChatGPT系の話は言語を通じて業界を変える話が多いですから、何をとっても相当大きいですよね。

リーガルが変わるとか、人事が変わるとかも、相当大きいと思います。だからやってみたらと思うし、期待値的に言うと確率×成果でかけ算すると、ちょっとぐらい負けたって全然いいじゃない、期待値的には合ってるじゃないって、そういう気がしますけどね。

Stable Diffusionの場合は著作権が懸念材料としてありましたが、テキストベースのChatGPTに対して留意すべき点はありますか

松尾:特にないと思います。もちろん著作権周りの話は今後も出てくるかもしれません。嘘を言うという問題も、早晩いろいろな対策がされると思います。

メディア的な視点ですが、ChatGPTはプレスリリースを作る過程でのアイディア出しとかリサーチに関して圧倒的に便利ですね

松尾:そうですね。ただ、そもそもChatGPTはプレスリリースのアイディア出しに使うようには作られてませんからね。対話するだけ、しかも炎上しないように安全に会話をするように作られているだけなのですが、それでも役に立つんですよ。だからそれ専用に作ったらさらにすごいですよね。

このチャンスに対してどのぐらいの猶予があるとお考えですか

松尾:世界中の動きがすさまじく速いですよね。半年とか1年で世界はどんどん変わります。

規模の戦いとのことですが、そうなるとGoogleの方が強くなりますか

松尾:いや、分からないです。世の中の人に会話AIで何が強いかと聞いたら全員がChatGPTと言いますよね。もう、ブランドを一瞬にして獲っちゃったわけです。第一想起を取るってすごく大きいですよね。とはいえ、Googleもこれから巻き返してくると思いますし、OpenAIもさらに新しいものを出すと思いますし、すごい戦いになってきますよね。

ありがとうございました。

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