アートとジェネレーティブ(生成)AI、その相性と役割ーースタートアップはChatGPT時代をどう迎える/スタートバーン太田氏

SHARE:

OpenAIが対話型AI「ChatGPT」の3.5バージョンを公開したのが昨年11月。2月にはMicrosoftの検索エンジンBingと連携したチャット型検索のBing-GPTがお目見えし、3月のバージョン4とAPI、そしてプラグイン公開でこの流れは一気に世界のサービスを飲み込むことになります。

本稿ではこのパラダイムシフトにあって動きのある起業家たちをインタビューで繋ぎ、少しでもその輪郭を掴んでみることにしました。松尾豊教授LayerX・福島良典氏ミラティブ赤川隼一氏M&Aクラウド及川厚博氏に続いてはブロックチェーンインフラ「Startrail」を提供するスタートバーン執行役員 最高戦略責任者(CSO)の太田圭亮さんにお話を伺いました。

スタートバーンはアート作品を中心に、信頼性や真正性の担保および価値継承を支えるブロックチェーンインフラ「Startrail」を提供するスタートアップです。Web3やクリプトとジェネレーティブAIは違う領域に見えて重なりあう部分もあります。スタートバーンが得意としたアートなどの文脈でもどのような可能性を見出しているのでしょうか。(文中の太字の質問は全て筆者、回答は太田氏。敬称は略させていただいています)

ジェネレーティブAIと純粋アートの反目

すでに本物と見分けがつかないAI生成画像:Stable Diffusion/フォトリアリズムをAIが追求、Stability AIがAPIおよびStable Diffusion XLベータ版を発表

アートの文脈でジェネレーティブAIを語る場合、避けて通れないのが著作物の権利問題です。Stable Diffusionなどで知られる2019年設立のStability AIは、同様の画像生成AI「Midjourney」、OpenAIのDALL-Eなどと共に昨年夏頃、大きな旋風を巻き起こしました。

テキスト入力でリアルな画像を生成できることから、幅広い市民権を得られると思いきや、教師データとして利用される側のユーザーから反対の声が上がり、著作保護を訴える団体「Spawning」などが立ち上がっています。太田さんはこのような状況においてChatGPTのインパクトを次のように語りました。

ChatGPT含めてジェネレーティブAI関連は「創造する」という点でアートと関係が深そうですよね

太田:それこそ、DALL-E2が出たときも、アート業界では面白いと評判になりましたし、多くの関心を集めました。しかし、特にコンテンポラリーアートでは、造形だけでなく文脈や芸術史の中での位置づけなどが価値を決定する部分があるため、生成された作品の素晴らしさは認めつつも、そこには一定の懸念があったと思います。

一方で対話型生成AIのChatGPTについては、GPT-3が公開され、その後3.5が登場し、今ではGPT-4が出ていますが、ここまで実用性のあるものが開発されたのかと素直に驚きました。これはもうみなさんと同じ感想だと思います。

最初、どのように使われました?

太田:最初はGoogleのサービス拡大と共にSEOが話題になり始めた時と同じように、特定のキーワードに関する情報がアウトプットとしてどのように表現されるのかを気にしていましたね。しかしながら、段々と使っていくうちに、GPTの凄さはそんなレベルの話ではないと最近感じてきました。もっと根本的に我々の働き方や考え方をも変えてしまうような技術革新だと思っています。

実際に社内でも積極的に使っており、驚くほどの実用性があることに感動しています。これまでにもAIを活用した翻訳ツールなどを使っていましたが、日々進化し、汎用性が高く、様々なユースケースに対応できるようになっていることが素晴らしいと感じています。

ブロックチェーンとChatGPTの話にいく前に、改めてスタートバーンのサービスについて少しおさらいさせてください。中心になっているのは「Startrail」ですよね

太田:はい、基本的にはStartrail(スタートレイル)というNFTを発行するベースの仕組みがあり、それを活用するためのAPIやダッシュボードをNFTを活用する事業者様向けに提供しています。イメージとしては例えば、事業者様がStartrailを活用してデジタルNFTを作成・販売したり、物理作品の証明書としてNFTを発行したりすることで、その先のユーザーやファンの人たちがNFTを受け取って楽しめるようなサービスを提供しており、これが主要な事業です。

一方で、まだNFTは新しいものなので、バックエンドの仕組みだけを提供するのではなく、実際にこういうユースケースがあると我々が示していかなければならないので、このAPIを使って自分たちのアプリを開発したりしています。

そのうちの一つが「FUN FAN NFT」という名前のサービスで、現場に行った証としてNFTがもらえるというものです。現場でQRコードをかざすだけで瞬時にNFTが発行できます。

 

スタートバーン、株式会社読売巨人軍の春季キャンプ期間のNFTイベントにWebアプリ「FUN FAN NFT」を提供/PR TIMES

ウォレットの事前準備や仮想通貨に関する知識がなくても、ブロックチェーンの処理に時間がかかることもなく、数秒でNFTをもらえるような仕組みです。事業者さん側からすると、今までの店舗ポイントやスタンプラリーの代わりのマーケティングツールとして活用できます。APIを運用しながら、そういったアプリケーションを実際に我々も試運転し、事業者さんがそれを自社でやりたい場合は、我々のAPIを活用して専用のアプリケーションを開発しませんかといった流れでビジネスを展開しています。

この辺り、NFTのユースケースとしてまだピンときてない方も結構いらっしゃると思うんですが、マス・アダプションには近づいていますか

太田:まだまだ最初のスタート地点だと思います。

ただ、最近はNFTを対象とするアセットが非常に幅広くなってきていると感じています。サービス開始当時は美術品や骨董品のような、既にマーケットが存在するものに対してNFTが利用されていましたが、最近では今までマーケットが存在しなかったものに対して、NFTを付与することで価値を生み出す事例が増えてきています。

例えば、POAP(Proof of Attendance Protocol)のようにイベント参加証明としてNFTを発行するなど、これまでになかったような活用が進んでいると感じています。NFTを通じて、今まで価値と認められていなかったものの価値が引き出されている感じがして、個人的に面白いと思っています。

POAPもそれだけだと単なる行動や経験の証明に過ぎませんが、それを拡張して考えると、何か良いことをした証明がその人の経歴やクレデンシャルの一部として価値を発揮するようになります。。例えば、SDGsに貢献したということをNFTを通して世界中どこでも証明できるようになると、その人の実績となる証が増えることになりますよね。

実際に、そういった証としてのNFTを一種の担保にしてローンを組めるようなサービスが世界では出始めています。そうすると、今まで価値があると思えなかったものに対して、金融的にも社会的にも価値が生まれるようになります。非常に面白い現象ですよね。

ーー太田さんに最近の顧客層を尋ねたところ、アートやカルチャーとの親和性で、美術館や百貨店などの事業者が多くサービスを利用する一方、エンタメやスポーツ業界でもNFTの需要があり、プロ野球チームなどでもサービス活用が始まっていることを教えてくれました。話をChatGPTに戻します。

アートとジェネレーティブAIとブロックチェーンと

イタリアがChatGPTをブロックーーAI大規模規制を求める声が相次ぐ1週間/Image Credit : Pixabay

改めてChatGPTの話に戻させてください。ブロックチェーンとの相性で「Web3はOwn(所有)」だという考え方がありますよね。ビックテックにデータを奪われたくないという。一方、ChatGPTではイタリアの規制のようにデータを無尽蔵に吸い込んでしまうのではという懸念があります。このあたりの気持ち悪さってありませんか?

太田:そうですね、ブロックチェーンのコミュニティがクローズドに見える部分もあるかもしれませんが、それは見方次第だと思います。なぜなら、そもそもNFTの情報はすべてオープンで、パブリックブロックチェーン上に存在しているからです。

カルチャーとして閉じているように見えるかもしれませんが、思想はオープンで、そういったマインドセットが強い人が多いと思います。そういった意味では、あまり気になりませんでした。

むしろ、今後AIが発展していく中でどのようなデータがインプットされていくのかという点が気になります。もし徐々にブラックボックス化してしまうのであれば、その方が恐ろしいと感じることがあります。

なるほど。現時点でのスタートバーンにとっての具体的な使い道はどのようなものがありますか?

太田:社内でよく話しているのはスマートコントラクトのコードをGPTに書かせることです。それを拡張させれば、誰もがノーコードで使えるスマートコントラクトのテンプレートを大量に作ることも可能だと思います。

また、誰でも瞬時にコンテンツや作品を作成できるようになった場合、社会はどう変わるのかと考えたときに、今以上に作品のクオリティが重要視されなくなる未来がやってくるかもしれません。誰でも簡単に高品質な作品を作れるようになるのであれば、むしろ今まで以上に作品の出自や文脈が重視されるようになるでしょう。

Bing Image Creatorに「Can you make me an image Marcel Duchamp’s Fountain?」と聞いて作ってもらった生成画像

確かに。かつてレディ・メイドのアイデアでマルセル・デュシャンが便器を作品(泉)としたことがありましたが、大量生産の方法が今度は工業ではなく人工知能になったわけですね

太田:例えば、同じアウトプットであっても、「これはAIによって作成されました」と「これは著名なアーティストによって作成されました」というのとでは作品の価値は全く異なる、という話です。そう考えると、昨今のAIの勃興も今までの現代アートの歴史に沿っているなと思います。アートの歴史自体が、技術から文脈への変遷だと言えます。

例えば中世・近代の時代ではまだ作家の画力が評価につながっていた印象が強いですが、アート業界の技術レベルがある一定以上まで達してしまった現代では、技術よりもその文脈(特にそれまでの芸術史を踏まえた上での新規性)が作品・作家の評価に強く影響しています。AIの技術により更に創作活動の質・幅が広がっていくと、その傾向はより強まるのではないかと思います。その結果、NFTやブロックチェーンの技術を活用して作品情報を正確に記録して後世に引き継いでいくことの重要性が高まると考えています。

画力よりもコンテキストにより注目が集まると。確かにその場合は誰が作ったのか、が重要な要素になります

太田:他にもAIとブロックチェーンの可能性は色々とあると思います。例えば、AIが発展するとそのインプットデータをどのように集めるのか、どのようにしてデータの真正性を担保してブラックボックス化を避けるのかという問題が出てくると思います。

例として医療の領域でAIを活用することを想定すると、多くの患者データを世界中から集める必要が出てきますが、国境を跨いでデータを集めるには様々なハードルが存在します。その時にブロックチェーンの技術が活用できます。

データ提供者に対してトークンで報酬を与え、さらにデータもブロックチェーンの台帳の上で管理することで、より中立的な形で世界中からデータを集められる上(トークンにより円滑な支払いも可能)、プライバシーを保護しながらデータが確かにAIに活用されていることも証明できます。実際にPoPW(Proof of Physical Works)という分野で似たようなユースケースが生まれ始めています。

興味深いお話ありがとうございました。AIとブロックチェーンの組み合わせは今後も注目していきます

BRIDGE Members

BRIDGEでは会員制度の「Members」を運営しています。登録いただくと会員限定の記事が毎月3本まで読めるほか、Discordの招待リンクをお送りしています。登録は無料で、有料会員の方は会員限定記事が全て読めるようになります(初回登録時1週間無料)。
  • 会員限定記事・毎月3本
  • コミュニティDiscord招待
無料メンバー登録