ChatGPTで予約「旅マガジン」が変わるーーChatGPTで雑誌はどう変わる【Creators × Publishing・イベントレポート後編】

Creators × Publishingは「テクノロジーから見える編集のミライ」をテーマにした勉強会をお送りします。雑誌の定期購読サービスを展開する富士山マガジンサービスと連携し、旬のテクノロジーと雑誌社を組み合わせた話題を提供いたします。

6月2日、富士山マガジンサービスと連携した勉強会「Creators × Publishing」ではChatGPTをテーマにしたオンラインディスカッションを開催しました。そこで語られたのは、やはり、雑誌が持つ膨大なデータを活用したアイデアの数々と、ChatGPTならではの効率化に関する話題でした。本稿は前回のイベントレポートの後編になります。

旅ガイドのカタチを変えた「ことりっぷ」

セッション後半は「ことりっぷマガジン」を題材にChatGPTと雑誌データを組み合わせたサービスアイデアを共有する時間になりました。

ことりっぷは創刊から15年の歴史を持つ「20〜30代の働く女性にむけた週末行く小さな旅」の草分け的存在です。当時ガイドブックは情報満載、またガイドブックらしい表紙など、女性にターゲットをしぼったもが多くない中、20〜30代女性に向け、旅に癒しを求めたい女性が行きたくなる場所をセレクト、デザインにおいては疲れないデザイン誌面、もっていても恥ずかしくない表紙デザイン、持ち歩くバッグにすっぽり入るサイズ感などのコンセプトが受け入れられたそうです。

画像提供:昭文社/ことりっぷ

ことりっぷマガジンの中山優子編集長のお話によれば、現在はトータル100万にのフォロワーをかかえるSNSの運営や企業コラボなど、週末に行く小さな旅を超えた進化をしているのだとか。

そしてこのことりっぷを春夏秋冬の季刊にしたのが「ことりっぷマガジン」です。こちらも2024年は創刊10周年イヤーを迎えようとしているマガジンで、季節に合わせた街の魅力を発見する情報を提供しています。旅ガイドに長年携わっている中山さんは、旅行者が情報を得る手段が時代とともに移り変わる様子を次のように語ってくれました。

「ことりっぷ創刊当時の15年前くらい前はまだ、SNSで情報を見つけることや、個人がツールを使って旅行計画を立てることがそこまで一般的ではなかったと思います。一方、今は個人のツールで旅行情報を収集できるようになって、SNSなどの存在も大きくなっていますし、動画がやはり主流になっていますよね。旅行先の情報を動画で探したり、動画を見ただけで旅行に行った気になる人も増えているようです。10年前と比べて、旅行の目的や情報の取得方法が多様化しているとも言えそうです」(中山さん)。

ことりっぷマガジンはChatGPTでどう変わる

では、具体的にこのことりっぷマガジンがChatGPTでどのような価値や体験を生み出すことができるようになるでしょうか。中山さんは、ChatGPTを組み合わせたサービスを考える上で、ことりっぷマガジンならではのデータを聞かれたところ、季節に応じて変化する「街の顔」が使えるのではとお話されていました。

「例えば金沢であれば「金沢SDGs」もあれば、スイーツの街としての一面もありますし、やはり歴史ある街ですから工芸品などの一面でのご紹介もさせていただいています。つまり、金沢を切り取っても様々な見え方があるというのは思うところです。それと、マガジンではなく『ことりっぷウェブ』の方では、様々な読者様から写真を投稿していただくサービスがあるんです。旅好きな方に共有していただくものなのですが、例えばそこで何が人気になっているのか、という情報もありますね」(中山さん)。

そしてこれを受けてpiconの山口さんは、ストレートに対話型の旅行ガイドの相性のよさを提案していました。確かに従来型のキーワード検索では、自分が知ることのできる情報は、自分が検索したキーワードに大きく依存してしまいます。旅というゆるやかな輪郭を持つ情報から、未知の発見を求めるにはやはり対話型でどんどんと聞き出してもらう、そういう体験こそが求められているのでは、という視点は納得感があります。さらにもうひとつ、生成型AIならではの「行った気になる旅行雑誌」アイデアも示していました。

「自分の写真とか名前を入れたら、自分がまるで行ったかのようなページを作ることできるかなと。金沢にも自分が行ったらここでこういう感情になった、ここでこういうものを食べてみた、そんなハリーポッターの世界に出てきそうなコンテンツも作れそう」(山口さん)。

ChatGPTではExpediaやKayakなどのプラグインで旅プランを提案してくれるようになった

コンテンツの生成はChatGPTをはじめとする生成型AIの得意とするところです。そこで神谷さんが提案したのがクイズコンテンツのアイデアです。

「例えば金沢検定みたいなことを考えて、旅から帰ってきて検定を受けるとそれがお墨付きになって、『この人に聞けば金沢のことなんでもわかる』といったブランディングができる。簡単にこういったクイズが作れることによって、雑誌情報へのタッチポイントが増えることをすごく期待しています」(神谷さん)。

中山さんによると、こういった「検定モノ」のアイデアは過去にもあったそうです。ただ、制作には有識者への依頼などがどうしても出てくるため、ChatGPTのような生成系AIによる制作が可能になれば随分とハードルが下がるのではとされていました。

そして最後、中山さんが提案したアイデアが「旅行プランニング」です。山口さんが旅の相談に対話型を使う、というコンテンツ寄りのものだったのに対して、最後の予約までやってくれる、まさにことりっぷを旅行代理店にしてしまおうというものでした。

「やはりその人の嗜好に合わせた旅のプランがより満足度が高くなってくると思います。ことりっぷも愛されてる理由として、2泊3日の旅プランっていうのがガイドブックの方にあって、やはりそれをみなさんが信頼してくれてるんですよね。そこでじゃあ次にどこに行こうとなった時、今の自分の趣味や嗜好に合わせたプランニングをしてくれて、さらに「ことりっぷっぽい」言い回しにしておすすめしてくれる。こういうことがGPTを使ってできると面白そうだなと思いました」(中山さん)。

実際、旅の予約や提案はすでにChatGPTで始まっています。オンライントラベルエージェンシーのKayakはChatGPTと連携して、旅行に関する情報を提供するプラグインを提供しています。このプラグインを使うと、ChatGPTに旅行の計画や予約について質問ができ、「ニューヨークのセントラルパークに近いホテルを探して」と聞くと、ChatGPTはKayakのデータベースから適切なおすすめを表示してくれ、ウェブサイトやアプリに移動して予約ができるようになっています。

ということでいかがだったでしょうか。Creators × Publishingでは次回以降もChatGPTをはじめとするテクノロジーをテーマに編集や雑誌がどのように変わり、価値や体験がどうビジネスになるのかをみなさんと一緒に模索していきたいと考えています。次回の企画もぜひご期待ください。

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