「AIチャットくん」1カ月の開発期間を半日にできたワケーーChatGPTで雑誌はどう変わる【Creators × Publishing・イベントレポート前編】

Creators × Publishingは「テクノロジーから見える編集のミライ」をテーマにした勉強会をお送りします。雑誌の定期購読サービスを展開する富士山マガジンサービスと連携し、旬のテクノロジーと雑誌社を組み合わせた話題を提供いたします。

今年3月に公表されたChatGPTのAPI公開から約3カ月。2カ月で1億人のアクティブユーザーを達成したOpenAIは、ChatGPTが今年2億ドル、2024年に10億ドルの利益を上げると予測しているそうです。 また、同社は直近のMicrosoftによる100億ドルの資金調達ラウンドで、290億ドルと評価されています。さらに現在の月間アクセスは世界17位だそうで、引っ張られる形でMicrosoftの検索エンジンBingが25位にまで上がってきているのも驚異です。

6月2日、富士山マガジンサービスと連携した勉強会「Creators × Publishing」ではChatGPTをテーマにしたオンラインディスカッションを開催しました。そこで語られたのは、やはり、雑誌が持つ膨大なデータを活用したアイデアの数々と、ChatGPTならではの効率化に関する話題でした。本稿ではセッションで語られた内容をサマリーとしてお送りいたします。

AIチャットくん、1カ月の開発期間を半日にできたワケ

6月2日時点でさらにユーザー数は増加「AIチャットくん」

今回登壇した企業で実際にChatGPTの勢いを感じているのがpiconです。LINEと連携してシンプルにChatGPTを使える「AIチャットくん」はOpenAIがAPIをリリースした翌日に公開。わずか3日でLINEの友達登録20万件を達成しました。現在もその勢いは止まることなく、160万人近くが利用登録(※6月2日時点)しているそうです。piconの山口翔誠さんはその意外な使われ方を次のように教えてくれました。

「ChatGPTってみなさんビジネスの用途の使い方が知られていると思うんですけどAIチャットくんは意外と悩み相談だとか、愚痴を聞いてもらったりだとか、そういった友達みたいな感覚で使われている方が結構いらっしゃるんです。AIだったら何言っても怒られないし、誰にも話されないし、24時間対応してくれるしっていうことで、パートナーとして使われているような感覚がありますね」(山口さん)。

山口さんが言及した通り、ChatGPTの利用方法についてはアイデア出しや調査、コーディングなどビジネス効率化の用途が目立っています。実際、スタートアップ支援「Microsoft for Startups Founders Hub」にてpiconを支援する陳宇鴻さんは、支援先の企業での使われ方としてこれまでインターンなどに依頼していたような内容は代替されつつあるとし、また山口さんもサービス名やマーケティング施策のアイデアはChatGPTに聞くようになっているとお話されていました。

そして注目すべきはやはりその開発のスピード感です。山口さんたちpiconは、OpenAIがAPIを公開したことを日本時間の3月2日前後に気付いて「AIチャットくん」の開発に着手します。驚いたことに彼ら、LINE botの開発がはじめてだったというのです。その裏側を山口さんは次のように振り返ってくれました。

「ChatGPTを使ったサービスを運営できると開発を始めたんですけど、僕たちLINE botの開発が初めてだったんです。本来だったら技術について調べてからですので、早くても2週間、普通にかかって1カ月ぐらいかかるような開発内容だったのですが、コードのほとんどをChatGPTに聞いて書くことによって、半日でリリースできたんです」(山口さん)。

雑誌データ活用のキモは「時系列」と「組み合わせ」

画像提供:富士山マガジンサービスウェブサイト

ChatGPTはOpenAIが開発した大規模言語モデル(LLM)「GPT」の上で動く対話型のジェネレーティブ(生成型)AIアプリケーションです。ウェブアプリケーションとしても前述のようなさまざまな用途に使えますが、やはり興味の中心は自社のサービスに組み込んで新たなサービスとして活用する方法でしょう。

特に今回、もう一つのテーマとして掲げる「雑誌」が持つ膨大なデータは魅力です。ここから何が生まれるのか?富士山マガジンサービス代表の神谷アントニオさんは特に「時系列」に注目するのがよいのではと提案します。

「週刊誌であれば古い事件だったり、そういった特集号があったとして、今もし調べられたとしてもPDFや紙のデータでしか出てこないわけです。それがGPTで簡単に呼び出せるようになったらやはり使ってみたい。そしてそれ以上に結構面白いなと思ってるのが雑誌の商品広告。例えば昔だったら洗濯機のこういうところが売りだったのに、今になるとこう変わったんだっていう情報がファクトとしてそこに載っている。価格がどう推移しているのかとかそういうデータもいっぱい入ってて、そのシフトを雑誌データの中から抽出して、もっといろんな形に活かせるようにしたいですよね」(神谷さん)。

もうひとつの視点は「組み合わせること」です。AI技術は、様々な出版物の中に散らばっている情報を抽出し、それらを組み合わせることで新たな価値を生み出すことができます。雑誌の役割は単なる情報提供だけでなく、社会の価値観や人々の興味、価格帯の変化など、社会の変化を記録し続ける「フロー」の媒体でした。この膨大な情報を自然言語で引き出し、新しい価値を提供できるものに再構築する。当然ながらその膨大なデータの処理にはAIの活用が不可欠です。

なお、雑誌編集部における業務効率化の視点ではやはり正誤チェックに期待しているという発言もありました。特に印刷メディアにおける間違いは致命的になりかねないので、時間や精神的な負担も大きい分、ここの効率化は大きな成果を上げることになるかもしれません。

後編のイベントレポートでは、今回、セッションに参加いただいたことりっぷマガジンを使ったGPTによるサービスアイデアを共有いたします。

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