元Coralの吉澤氏や元CAPSの金谷氏ら、スタートアップ健保の立ち上げに向け本格始動 #IVS2023

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吉澤美弥子氏と金谷義久氏

本稿は、6月28〜30日に開催されている、IVS 2023 KYOTO の一部。

【30日18時更新】 赤字部を加筆。

ヘルステック特化ニュースサイト「HealthTechNews」の創業者で、Coral Capital でシニアアソシエイトを務めた吉澤美弥子氏や、かかりつけクリニックを多店舗展開するスタートアップ CAPS の COO を務めた金谷義久氏らが中心となり、スタートアップのための健康保険組合の設立に向けた準備に入ったことがわかった。

国民皆保険制度が施行されている日本では、企業に属している場合は被用者保険(いわゆる社会保険の健康保険)、自営業者の場合は国民健康保険に加入することが求められる。被用者保険については、協会健康保険(政府管掌のもの)と独自健康保険(大企業であれば独自の組合、または、同業企業らの組合による運営)に大別される。

業界のニーズにあった独自健保に加入できると利便性が高いが、組合の経営状態を維持する観点から、赤字企業は加入できない、社員の平均年齢が一定以上だと加入できない、などの制約がある。協会健保は、独自健保に入れない人々のためのセーフネットとして機能はしているが、加入者の平均年齢は46歳と高く、提供されるサービスはデジタルネイティブにはいささか使いにくい。

何より難しいのが、独自健保は赤字だと加入できないという制約だ。エクイティファイナンスを実施し、赤字を掘り、ホッケースティックのような成長カーブを展望するスタートアップにとっては、永久に加入できないということになる。そんな理由から、スタートアップはもとより、彼らに投資するベンチャーキャピタル(VC)の人々も、独自健保を組成・加入することは叶わなかったわけだ。

冒頭に名前を出した吉澤氏や金谷氏と言えば、2021年にスタートアップ向けに新型コロナウイルスのワクチンの職域接種を実施したことで思い出される。職域接種にあたっては、一会場あたり最低1,000人(のちに、この制限は撤廃)という制限があり、小規模なスタートアップ一社一社が個社で職域接種を実施することはほぼ不可能に近かった。

吉澤氏らは VC 45社とその投資先1,100社に向け、Coral Capital のオフィスのある大手町の会場で職域接種を実施した。新型コロナウイルスに罹患する人が増える一方、自治体主導で行われていた接種の予約枠がなかなか取れなかったあの頃、看護医療学部出身というこの業界では異例の経歴を持つ吉澤氏は、スタートアップにとって「白衣の天使」だったわけだ。

職域接種の反響は大きかったものの、この活動を通じて、吉澤氏は持続可能性について課題を感じたという。健康増進のための活動は、労働衛生の状態を良好に保つ観点からも持続的である必要がある。新型コロナウイルスというアドホック的な対応だけでなく、恒常的な対応策が必要だと考えた。スタートアップのための健康保険(組合)だ。

しかし、ここで法制度にぶつかることになる。独自健保は同業でのみ組合を作ることができるという定めがあり、会社によって事業内容がバラバラのスタートアップ同士では組合を作るのが難しい。そこで吉澤氏らが考えたのは、VC らで組合を作り、そこに VC の投資先であるスタートアップをぶら下げる、という考え方だ。このスキームで、厚生労働省からも内諾を得た。

現時点で吉澤氏らが準備を進める健保組合を支援・協賛する VC は27社だ。彼らが投資するスタートアップも希望し、条件が合えば、この健保組合への加入が了解される可能性が高い。スタートアップからは、10X、Luup、スマートバンク、UPSIDER、ログラス、レンティオ、OLTA、ビビッドガーデン、WAmazing、CONNEXX SYSTEMS、Kyoto Fusioneering の11社がすでに加入希望を表明している(社名非開示社を含めると、30日現在330社)。

吉澤氏は30日、IVS の PRO BASE の Stage B で14時から開催されるセッション「スタートアップとルールメイキング・未来の産業を作るための政策アプローチ」に登壇する予定だ。スタートアップのための健康保険組合の立ち上げに向けた熱い想いが、この機会に彼女の口から明らかにされるだろう。

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