エビのAIoT養殖技術開発の台湾ID Water(艾滴科技)、4.5億円をシリーズA調達——生け簀の排水を使った脱炭素事業に参入

ID Water(艾滴科技)創業者兼 CEO Alan Yu(余萬洲)氏
Image credit: ID Water(艾滴科技)

次のビジネスモデルは今までとまったく違うもので、我々はクライメートテックスタートアップになるだろう。

ID Water(艾滴科技)創業者兼 CEO Alan Yu(余萬洲)氏はそう語った。

ここ数年、ID Water は「エビ養殖とで電力の共生」で有名になった。同社は台南、彰化、高雄に、Cathay Power(国泰電業)、Pegatron Green Energy(英名は仮訳、原名は和碩緑能)、Chilease Energy(中租能源)などの顧客を抱えており、そうした祖業は安定している。なぜこの時期にピボットを選択するのだろうか。

水質モニタリングと AIoT エビ養殖技術を組み合わせ、エビ養殖と電力のコージェネレーション市場に注力する ID Water は今年5月、エビ養殖の生け簀の排水を利用してマングローブを植林し、マングローブの炭素固定能力を利用して企業の脱炭素サービスを支援するという、サステナブルなサービスを提供する企業にピボットすると発表した。また、同社は2022年第3四半期に、JM Enigma Capital(天盛資本)、Foodland Ventures(扶田資本)、Wulu Green Energy(英名は仮訳、原名は五路綠能)などから1億ニュー台湾ドル(約4.5億円)を調達し、シリーズ A ラウンドをクローズしたと発表した。

エビ養殖の廃水を、脱炭素に活用?

私は常に気候変動を懸念してきたが、以前は、それを実行する資金も力もチームの規模もなかった。(Yu 氏)

チームが成長したことで、Yu 氏は自分が目指していた目標に近づいたと笑顔で語った。

すぐに気候変動に良い影響を与えることはできないものの、ID Water は創業当初、屋内エビ養殖場における養殖技術で市場に参入したが、そこにはサステナブルのコンテキストが含まれていた、と Yu 氏は説明した。

屋外のエビ養殖場は浅瀬が適しており、マングローブが自生するする場所と競合するため、エビ養殖場を作るために、マングローブを伐採しなければならない。(Yu 氏)

Yu 氏は、マングローブの炭素固定能力は、同じ面積の熱帯雨林の少なくとも6倍以上であり、エビ養殖場の建設は、マングローブが持つ自然の炭素固定能力を放棄することに等しいと述べた。

マングローブの炭素固定能力は、同じ面積の熱帯雨林の少なくとも6倍以上だ。
(写真は、行政院農業委員会・固有生物研究保存センター提供の研究写真)

一方、屋外のエビ養殖場は環境が不安定で、平均5年程度で回復不能な感染症に見舞われ、その際には新たなマングローブ林を伐採してエビ養殖場を移転しなければならず、元のエビ養殖場をマングローブ林に戻すことは非常に困難だ。したがって、屋外のエビ養殖場がサステナブルな形で運営されることは難しい。

ID Water の屋内エビ養殖場向け AIoT 技術は、より多くの経営者が屋内養殖に専念し、変化する屋外の経営環境に見切りをつけることを願い、精密なモニタリングと養殖技術を提供する。

当社は気候変動を非常に重視している。定例会議では常に関連する専門家を見つけて講演してもらっている。昨年のシリーズ A ラウンド中にマングローブの専門家を見つけ、この計画の実現可能性を確認できた。(Yu 氏)

マングローブはアンモニア態窒素(液体肥料の一種)が生育に必要だ。一方、エビ養殖の生け簀の廃水にはアンモニア態窒素が多く含まれる。チームの能力と規模を評価した結果、ID Water は今がピボットに最適な時期だと判断した。

大企業の業種はさまざま、土地に関連する事業は「交渉術」に依存

現在、ID Water はパラオなどの島嶼国や東南アジア市場など、海面上昇の脅威にさらされている国をターゲットにしており、これらの国にエビ養殖場を建設し、エビ養殖から得られる排水と自社の資源を組み合わせてマングローブを植林したいと考えている。一方、海に作られるマングローブ林は海面上昇の影響を抑制し、企業のカーボンオフセット取引を支援することができる。

しかし、Yu 氏は、地方政府、企業、農家など、誰が土地を提供し、誰が管理を担当し、誰が工場建設を担当し、誰が資本を拠出するのか等々、多くの役割が関係していて、これらは市場の違いによって調整され、その後の排水による養分供給やカーボンオフセット形態にも影響を与えるため、どちらかというとプロジェクト形式で運営するような形になるという。

以前、私は起業をとても狭い視野で見ていて、次の Google や Facebook のような世界的に利用されているサービスになりたいと思っていたが、実際には世の中にはさまざまな大企業がある。(Yu 氏)

Yu 氏は一転して、今回のピボットがもたらした考え方の変化を振り返った。

彼は、ソフトウェアスタートアップとは異なり、農業や土地関連のスタートアップは、人間関係が強く影響する「政治的作業」であると話した。

我々には技術があり、相手には他の分野での優位性がある。だから、互いのニーズのバランスをどう取るか、協力交渉の仕方、条件交渉の仕方、リスクや譲歩を共有する意思を皆にどう持たせるか、これはすべて交渉術なんだ。(Yu 氏)

彼は、国境を越えた大規模な土地開発に参入するには、収益性の高いスタートアップの方が適していると指摘した。なぜなら、すでに確固たる足場を築いているスタートアップの方が、本当に有益な協力プロジェクトを選別する能力が高く、単に利益を上げるためだけにリスクの高い、あるいは収益性の低いプロジェクトに参入する誘惑に駆られないからだ。

サステナブルなビジネスとユニコーン

振り返ってみれば、ID Water が選んだ道は決して平穏なものではなかった。

Yu 氏は、台湾の主な経済は多くの電力を必要とする ICT 産業であり、グリーン電力やカーボンクレジットは比較的重要になっている。言い換えれば、エビと電力の共生、魚と電力の共生政策は、実際にはチャンスがある。

しかし先ほど言ったように、この事業には多くの役割が関係する。手っ取り早く儲けたい人々の存在を防ぐことは困難だが、我々は、本当に養殖で良い仕事をしたい。(Yu 氏)

養殖排水の品質と安定性は、グリーン電力事業者が安心して事業を続けるための基盤であり、Win-Win の状況を作り出すことができるのだから、性急な事業はすべきではないと Yu 氏は語った。

多くの人はこの考え方について楽観的ではないが、ID Water は依然として自信を持っており、業界にとって役に立たない行動を排除するために法律と政策を改善したいと考えている。

ID Water は今後もエビ養殖場の精密養殖事業に取り組みつつ、グリーン電力の運営も支援していく。
Image credit: ID Water(艾滴科技)

シリーズ A ラウンドを経て ID Water のチーム規模は60人を超えており、将来は、台湾で農業とグリーン電力の生産能力を継続的に増やすことに加え、海外にもサステナブルな市場を拡大していく計画だ。

交渉次第で、当社の収益を2~3倍に成長させることができる可能性もある。ユニコーンという目標に向かって前進し続ける。(Yu 氏)

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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