2019年の研究によると、新型コロナウイルスに感染した人がエレベータのボタンに触れた後、ウイルスがボタンに存在する確率は40%以上だという。コロナ禍には、カギやスマートフォンでボタンを押したり、服の上からボタンを押したりするのが常態化していたが、多くの人が今でもそれを変えることができない。こうした動で、エレベータのパネルやボタンが簡単に損傷する可能性がある。
非接触ボタンはすでに市販されているが、ユーザの操作性が悪く、ミスタッチの問題もしばしば発生する。こうした不便を解決するため、m’AI Touch(邁啟科技)では、さまざまなセンサーや AI 技術を活用し、非接触ボタンの精度向上とユーザ体験の向上を図るとともに、アフターコロナのエレベータエクスペリエンスの効率化とスマート化を実現してきた。
異分野の才能を結集
m’AI Touch の創業者 Chen Honwen(陳鴻文)氏は、この起業テーマは、コロナ禍にエレベータに乗っていたときに思いついたアイデアだったと語った。
市場で一般的な非接触ソリューションには、音声認識、AI 顔認識、赤外線感知などがあるが、これらはユーザの操作には適していなかった。また、音声認識には、適度な音量、背景音の影響、言葉のバリエーションなどの課題がある。
m’AI Touch のアカウントマネージャー Lu Tingyu 氏 (呂庭宇)氏(最初の写真後列右から 1 人目) は次のように述べた。
誤って反応することが多く、音声制御は不便だった。ユーザは「6階まで行って(到六樓)」と言わなければならない。「6階へ行って(去六樓)」と言った場合、システムはそれを認識できない。
顔認識は、予めデータを登録しておく必要があり、公共の場での適用が難しく、スイッチボタンの制御には代替できず実用性が低い。また、赤外線感知は誤認識が起こりやすく、エレベータパネルの交換やボタン内部に赤外線センサーの設置が必要で、コストが高く精度も低いといった課題がある。
ウイルス感染を防ぎ、混雑したエレベータ内でカバンや手のひらで触れることことなく公共の場所で操作できる非接触ボタンが開発できれば、ユーザのエレベータ体験は大幅に向上し、新たな市場の開拓が期待できる。

Image credit: m’AI Touch(邁啟科技)
m’AI Touch のチームは、光学検査と AI 画像認識の技術バックグラウンドを持ち、業界での実務経験と清華大学のインタースクール博士課程プログラムを修了した人物など、さまざまな分野からチームメンバーを補完し、テクノロジーの開発に投資している。
市場に出回る非接触ボタンはまだ完全なものではない。当社の技術はそうした非接触ボタンの問題を解決できるだろう。(Chen 氏)
困難なセンシング環境を克服、市場の問題点を解決

Image credit: m’AI Touch(邁啟科技)
単一のセンサーのみを使用する通常の非接触ボタンと比較して、m’AI Touch は誤ったタッチを防ぐために、さまざまなセンサーを使用して温度、湿度、明るさの変化などの異なる特性を同時に捕捉し、操作をより正確に検出できるようにしている。
複数のセンサーの中で、どの連続モーションデータをキャプチャするかを知るのは簡単ではない。
R&D エンジニアの Hu Chengwei(胡承維)氏は、複数のセンサーから連続モーションをキャプチャし、最も正確な組み合わせ条件を見つけることに成功していると述べた。これはチームの強みの一つでもある。
m’AI Touch は AI アルゴリズムも組み合わせて、センシングの精度をさらに向上させる。
実際、エレベータはセンシングにとって非常に不向きな環境だ。エレベータによって照明の明暗、温度、湿度は異なるからだ。(Chen 氏)

m’AI Touch は、AI アルゴリズムを使用してさまざまなデータのパラメータを調整し、エレベータのさまざまなセンシング環境を克服し、出力結果の品質を向上させる。
AI アルゴリズムと組み合わせた複数の異種センサーの二重保護により、この技術をアップグレードし、市場の非接触ボタンの現在の問題を解決できる。
m’AI Touch のセンサーは、元のエレベータパネルの上に吊り下げておくだけでよく、エレベータパネルを交換する必要はない。
設置は3時間以内に完了するため、改装にかかる時間と費用が削減される。
エレベータに元々入退室管理システムが搭載されている場合 も、センサーの設置はシステムに影響を与えない。
「インストール完了」はサービスの終わりではなく始まり
現在、m’AI Touch のビジネスモデルは売り切り方式で、実際に清華大学、高雄のマスクメーカー Jingxing Technology(淨新科技)本社ビル、台南のホテルなどに導入されている。また、現在、医療機関、商業ビル、コミュニティビル、エレベータメーカーと交渉を行っている。
感染症の次の波は依然として襲来するだろう。最善の方法は予防策をとることだ。新型コロナウイルスなどの感染症だけででなく、最悪の事態に備える必要は依然としてある。(Chen 氏)
現在、m’AI Touch はインテリジェントエレベータの開発に取り組んでいる。
現場の人流データ分析、エレベータ事前配置システム、予知保全、省エネ・節電モードなどの機能を導入する予定だ。(Lu 氏)
同社は将来、ビジネスモデルをサブスクに転換する可能性がある。
現段階で、m’AI Touch は市場での露出を増やすことを目指している。ランドマーク的な建物での展示や導入を通じて、より多くの人に自社のテクノロジーを見てもらいたいと考えている。また、より多くの人材をチームに採用し、より多くの防疫補助金があり、観光立国である日本に焦点を当てたいと考えている。
私が想像していたのは、エレベータの中で「m’AI Touch」という文字を見てクスッと笑うシーンだ。他の人は私が何を笑ったのか分からないかもしれないが、私はチームが作ったものがみんなに使われていることを知っているので、それをとても誇りに思う。(Chen 氏)

Image credit: m’AI Touch(邁啟科技)
起業に関する簡単な Q&A
Q: ビジネスを始めてから、これまでに行った最も良かったことを3つ挙げてほしい。
既存の概念にとらわれずに考えると、コロナ禍、多くの非接触ソリューションはボタン自体のデザインに焦点を当てていたが、我々は枠組みを飛び出し、ユーザエクスペリエンスを出発点として、さまざまなブランドの新旧エレベータに使用できるソリューションを考案し、この技術を国内外のすべてのエレベータに適用できるようにした。
当社には優秀なチームメンバーが揃っており、そのメンバーの中には業界での豊富な経歴を持つ者や清華大学のインタースクール博士課程の学生も含まれており、異なるバックグラウンドや専門能力を持った彼らが互いに補完し合い、実装可能で革新的な製品の実現にインスピレーションを得ている。
チームの柔軟性は非常に高く、市場のフィードバックに基づいて段階的かつ戦略的な調整を行う意欲と能力がある。当社は市場調査を継続し、さまざまなバックグラウンドを持つ人々に積極的に意見を聞き、エンドユーザを直接訪問し、受け取ったフィードバックに基づいて製品とサービスの戦略を柔軟に調整し、当社の製品が引き続き顧客のニーズを満たし、協力メーカー、販売代理店、代理店と協力して競争優位性を維持できるようにする。
Q: 次の目標を達成するために、チームに現在不足しているリソースは何か?
次の目標は、当社の「m’AI Touch 非接触型 AI 防疫技術」をより公共の場所に宣伝し、より多くの人が当社製品の恩恵を受け、ボタンから完全なソーシャルディスタンスを維持できるようにすることだ。
現時点で最も不足しているのは、より多くの人々に当社の技術を利用していただくために、より多くの会場とより多くのエレベータに展開する機会だ。現段階では教育機関、ホテル業界、政府のマスクチームなどに展開しており、将来的には感染症のリスクを軽減するために、より多くの国内外の会場に導入していきたいと考えている。また、関連する経験を持つより多くの販売パートナーや戦略投資家を見つけることも期待している。
Q: 起業はあなたに何を教えてくれたか? 起業してからの思いを簡単に教えてほしい。
A: 良い人間関係を築き、他人にも親切にすることが大切だ。率先して良い人間関係を築き、積極的に他人を助けよう。起業にあたり、さまざまな分野のメンターの方々に指導いただき、ビジネスモデルや事業展開、エレベータ業界の文化などを学び、大変お世話になった。
加えて、複数の分野を統合する能力も非常に重要だ。我々は清華大学の博士課程の研究室の出身だ。チームはさまざまな分野の専門的なバックグラウンドを持っているため、一緒にこの製品を開発できる。また、清華大学は学生のイノベーションと起業精神をサポートし、さまざまな学習の場を提供している。大学の支援があったことで、我々は最初の実用ケースを獲得し、ビジネスの初期段階での困難を大幅に軽減できた。
【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup
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