PMFしたSaaSの次の一手。リセに学ぶ「パートナーセールス」の立ち上げ方

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

契約書のレビューをAIで効率化する「LeCHECK(リチェック)」をはじめ、リーガルテックサービスを複数展開する株式会社リセ。直販での営業売上が安定したのち、さらなる拡大のために取り組んだのが「パートナーセールス」でした。

立ち上げから約半年でパートナー経由での売上目標を達成したリセですが、当初社内にはパートナーセールスの経験者はゼロ。一体どのようにして軌道に乗せていったのか。リセの経営企画統括であり弁護士の三宮雅仁さんと、今回の支援を行ったグローバル・ブレイン(GB)の立花一雲に話を聞きました。(太字の質問はすべてUniverse編集部)

執筆:Universe編集部

「経験者ゼロ」からどう立ち上げたのか

──パートナーセールスを始められたのはいつ頃からでしょうか?

三宮:昨年、直販が順調に伸びてきて、安定的に導入社数が増えてきたころ、私が主担当にアサインされて挑戦することになりました。パートナーセールス自体は3年ほど前から構想していましたが、まずはLeCHECKの認知向上や直販体制の整備を優先していたため、それが落ち着いた昨年からようやく着手できたところです。

ただ、リセには私も含めてパートナーセールスの経験がある人も1人もいませんでした。プロジェクトの全体戦略や細かなアクションをサポートいただくため、マーケティングや営業領域に知見のある立花さんに参画いただいたところから、実際に動き始めた感じですね。

三宮雅仁:2002年弁護士登録、外資系法律事務所勤務を経て、2008年ニューヨーク州弁護士登録、その後投資ファンドのアセットマネジメント部門で10年勤務し、2020年7月にリセへ参画。

──具体的にどのようにプロジェクトを進めていかれたのでしょう?

立花:まずはこの施策の定量的なゴールを決めるところからですね。GBの支援先スタートアップの中で、パートナーセールスで成果を出されているSaaS企業6〜7社にインタビューを実施し、どれくらいの期間をかけて、どれほどの売上につながっているのかなどを伺いました。

そもそもSaaS自体がここ十数年で出てきたサービスであり、それを「パートナーセールス」で販売するとなると、そもそもの知見やセオリーも少なく、どこもまだ手探りの状態です。定量的な目標を決めるためにも、他社のデータを参考とする必要がありました。ある意味手段を選ばずに知恵を集めていった感じです

三宮:インタビューの結果、多くの企業で「立ち上げから2年以内で全体売上の20%をパートナー経由で作れるようになった」ことがわかりました。なのでリセとしても、まずはこのあたりを目標に頑張ろうと。

立花:最終ゴールが決まってからは、そこから1年以内にこのゴール、1カ月にはこのゴール、とワークプランを固めて定例で進捗をウォッチしていきました。

三宮:立花さんにはワークプランの全体管理から、パートナー候補企業約100社のリスト化などの地道なことまでご協力いただきました。定例では、まるでリセのメンバーかのように深く細かくコミットしていただいて。なんなら私はリセのメンバーより立花さんと話している時間のほうが長かったかもしれません(笑)

本プロジェクトのワークプラン(一部)

パートナーごとに営業トークも作り込む

──パートナーセールスは様々な面で直販と勝手が異なるかと思います。パートナーセールスをやるうえで特に意識すべきポイントは何でしょうか。

三宮パートナー企業と深く向き合って、理解することです

直販とは違ってパートナー企業は弊社以外にも様々な企業と提携しており、なるべくコストをかけずに売れるものを積極的に売っていきたいと思っています。コピー機のようなエンドユーザーからわかりやすく必要とされる商品を抱えている企業にも、「リセのLeCHECKは売りやすい」と思ってもらわなくてはならないわけです。

そのためにはまず、各パートナー企業がどのようなビジネスモデルで、他にどのようなプロダクトを売っていて、セールスの方はどのような営業スタイルなのかを知っておく必要があります。それらを知ったうえで、各パートナーごとにLeCHECKのトークスクリプトを考案して提供しました。

──かなり手厚くサポートされたのですね。パートナー企業のことを知るためには具体的にどのようなことをしたのですか?

立花:私はリセさんとパートナー企業が行うほぼすべてのミーティングに同席しましたし、パートナー企業の担当者に売れ行きが良いプロダクトについてのヒアリングも実施しました。売りやすいプロダクトについて「なぜ売れているのか?」「どのようなトークをしているのか?」などを聞き出し、LeCHECKのトークに反映していった感じです。

立花一雲:JWT Japan、IMILOA JAPAN/ Honolulu、ノバセルを経て、GB参画。投資先企業の事業領域サポートに従事。ノバセルでは営業責任者としてBtoB Saas/D2Cスタートアップ企業のマーケティング戦略・支援をサポートし、売上向上に寄与。

三宮:パートナー企業と向き合う中で特に大事だったのは、彼らが接しているエンドユーザーを知ることでした。LeCHECKのメインターゲットは法務担当の方ですが、そうした方と直接コネクションを持っていないパートナー企業であっても、トークの仕方次第では販売に繋がる可能性があるからです。

たとえば、情シスや総務の方をエンドユーザーに抱えるパートナー企業の方には「法務担当とのやりとりで困っていませんか?」と問いかけていただきます。そこで「契約書のチェックが遅い」などの悩みが引き出せれば、LeCHECKを案内する余地が生まれます。無理やり法務担当の方を繋いでもらうのではなく、あくまでパートナー企業の方が信頼関係を築いてきたエンドユーザーの方のお悩みを解決するという角度で商談をしていただくとスムーズです。

「もっと売りやすくなるには?」を考える

──パートナー企業がどのようにしたら売りやすいかという視点で支援されたわけですね。

三宮:はい。その観点でいうとLeCHECKの価値をパートナー企業の方に心から理解していただくというのもポイントです。

伝統的な製品を長年売ってきたパートナーさんの中には、そもそも「リーガルテック」という言葉に馴染みがない方も少なくありません。そこでまずはLeCHECK自体の理解を深めていただけるようなパートナーさん向けのオンボーディングプログラムも用意しました。営業資料やチラシなどはもちろん、動画を活用した自習コンテンツや、ロールプレイングなどをまとめてパッケージにしたものです。どのような価値があるのかわからないものは当然売りづらいですから、オンボーディングはきちんと整えました。

オンボーディング資料(一部)

立花:パートナー企業の売りやすさに着目して、販売プログラムも簡素化しましたね。

初期のパートナープログラムでは、販売実績に応じてパートナー企業を「ゴールド、シルバー、ブロンズ」のようにランク分けする形にしていたんです。これはfreeeさんやマネーフォワードさんが取り入れている方法で、SaaSのパートナーセールスについて調べると必ず出てきます。

リセとしてもこれを参考にしようと一度は取り入れたものの、パートナー企業に販売のモチベーションが低い初期の段階で、このようなランク分けを行ってもかえってハードルを高くしてしまうことがわかりました。なので今はこのようなランク分けは取り入れていません(2023年7月現在)。

パートナーセールスから新たな事業も誕生

──今後、パートナーセールスをどのように拡大させようとしているか展望を教えてください。

三宮:LeCHECKに近い領域のプロダクトを持っているパートナー企業とは、OEM連携を進める予定です。まずはLeCHECKをパートナーとして販売いただき、その価値や需要を感じてもらう。きちんと自社製品ともシナジーがあるとご判断いただいてからプロダクト連携を進めるというのは、両社にとって良い流れなのかなと。エンドユーザーとしても1商品でDXが叶うのは嬉しいことですので、OEMは積極的に進めていこうと思っています。

このOEMの構想は、元々将来的に取り組みたいと思っていたのですが、パートナーセールスを通じて現実味が出てきており、この意味でも取り組めてよかったです。

立花:社内に経験者がいない中でここまでスムーズにプロジェクトを進められた背景には、三宮さんのような社歴の長い経営レイヤーの方と少人数で取り組めたからというのも大きいです。

パートナーセールスの施策はマーケティングやインサイドセールス、フィールドセールスなど、社内のあらゆる部署と連動しないといけませんでした。こうした多数の部署にまたがるプロジェクトは現場のいちメンバーだけで回すのはなかなか難しい。今回は三宮さんと最初の段階で、誰と、どうやって、何に向かってやるのかを整理してすぐに動き出せたのはよかったかなと思います。

三宮:立花さんと毎週顔を合わせて協議したことで、ダメだったことはすぐに諦めて、うまくいくことを地道に増やしていくことができました。行動を止めずに、先手を打っていけたのが良かったのではないかと感じます。

SaaSのパートナーセールスはまだ正攻法が固まっていないので、とにかく数をやるというのは結果的によかったですね。今後も試行錯誤しながら、SaaSのパートナーセールスの持つ可能性を開拓できればと思っています。

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