VR酔いにさようなら、ヘッドギア装着無しでVR体験を可能にする「Ultra Reality」

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Brelyon の創業者 Barmak Heshmat 氏
Photo by Hou Junwei(侯俊偉)氏

アメリカのスタートアップ Brelyon の創業者 Barmak Heshmat 氏は、こう自問した。

AR や VR の没入体験を楽しむには、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着する必要があるのだろうか?

今年6月、Apple が AR デバイス「Apple Vision Pro」を発表した。まだ実機は発売されていないものの、映画「アイアンマン」のような映像や、高度な仮想世界に入るにはヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着しなければならないなど、まだまだ道のりは遠そうだ。

Barmak Heshmat 氏は、光学の専門知識を活用し、デバイスを装着することなく、湾曲した大きな円形スクリーンと没入感のある視覚体験を組み合わせた、目眩しない単眼深度技術を開発しようとしている。この製品を実現するため、Heshmat 氏は Garage+ のプログラムを通じ、台中に Brelyon のデザインチームを立ち上げた。

Brelyon の製品「Ultra Reality」の 8K ホログラフィック・スクリーン・シミュレーション
Image credit: Brelyon

MIT の研究者が見つけた、AR デバイスのペイン

IMAX 3D 映画を見たり、AR グラスを使用したりする際に、なぜ多くの人が頭痛や VR 酔いを経験するのだろうか?

不快感の主な原因は、立体視の奥行きと人体の空間認識システムに関係している。遠くを見るときと近くを見るときでは、左右の目に 視差が生じる。焦点を合わせる過程で、脳は目で見た視差から実際の対象物の距離を判断する。

しかし、バーチャルな世界では、デバイス内の映像の中にある対象物が遠かったり近かったりした時、目とスクリーンとの距離は一定であるため、目を欺くことはできても、脳を欺くことはできない。そのため、3D 映画を見たり、AR や VR 体験を使用したりすると、脳の保護メカニズムが不快な反応を引き起こす可能性がある。

目は常に一定の距離でスクリーンを見ているにもかかわらず、スクリーンに映し出される映像は、立体感を出すために脳を欺くことになり、目と脳の信号がコンフリクトすると、VR 酔い を起こしやすくなる。

人々の顔を(デバイスで)覆わなくても、バーチャルな世界に入り込み、没入感を体験し、そのまま視点をそらして、人々とコミュニケーションできるようなデバイスを作りたいのです。(Heshmat 氏)

改善には2つの方法がある、1つは HMD を軽量化し重量を50グラムまで減らすことだが、Apple や Google などの大企業も AR や VR グラスの改良開発を本格化させているため、Heshmat 氏はもう一つの方法を選んだ。それは、ユーザが HMD を装着せずにさまざまなパノラマ効果を体験できる新しいタイプのディスプレイ技術を開発することだ。

Brelyon の創業者 Barmak Heshmat 氏

Heshmat 氏は、エレクトロニクス企業の Meta(Facebook 親会社の Meta とは無関係)の光学部長として AR グラスの開発に携わり、人々は没入感のある体験は好きだが、顔にデバイスを装着するのは好きではないことに気づいた。

しかし、Meta 独自のデバイス形状から光学技術を搭載することが不可能だった。Heshmat 氏は Meta を辞めて独立することを選択し、約半年間独力でプロトタイピングを行い、最終的に2019年に MIT(マサチューセッツ工科大学)から E14 助成金を獲得した。この資金調達によって Brelyon はカリフォルニアで本格的に始動し、研究開発プロジェクトが正式にスタートした。

8K ディスプレイにあわせた単眼深度技術を開発

光学とナノテクノロジーの分野を長く専門としてきた Heshmat 氏は、MIT で4年間研究員として働いたが、この経験がその後の研究で光学技術を応用するのに生きることとなった。前述の違和感に対処するため、単眼深度というコア技術が Brelyon の曲面スクリーン「Ultra Reality」に応用された。

いわゆる単眼深度技術では、まず光の波動を変える、つまり物体を見る眼球の光線束を平らにする必要がある。光線束が平行だと、眼球は遠くのものを見ていると勘違いする。

目が近くのものを見ているときの光線束(上)と、遠くのものを見ているときの平らになった光線束(下)

この技術を Ultra Reality に応用することで、窓の横に座って外界を眺めるようなディスプレイ効果が生まれる。ユーザがディスプレイに近づけば近づくほど、見える外界の範囲が広がり、ディスプレイの外にまで視界が広がって、無限に大きなスクリーンがあるような錯覚に陥る。これにより、パノラマ的な没入感が得られ、ユーザは頭を自由に動かすことができる。

Brelyon は2023年はじめ、CES で Ultra Reality を初公開した。外観は、LG の P-OLED 技術を組み合わせた 8K 有機 EL パノラマ・デスクトップ・バーチャルディスプレイで、画面サイズは110~122インチ、視野角は155°と広く、VR 酔いや眼精疲労がなく、グラスなどのヘッドギアを装着しなくても使用できる。

シリーズ A ラウンドで1,500万米ドルを調達、大企業と提携も

Brelyon の Ultra Reality は4年前から開発が始まり、2年前、台湾に完全なサプライチェーンがあると判断し、台中に工場を設立した。同社は光学のバックグラウンドを持つ人材を採用し、国境を越えてリソースや人材が往来することとなった。

Ultra Reality はまだプロトタイプ製品で、量産は3~4年後を予定しているが、すでに多くの大企業と協力しており、例えば米航空宇宙企業の Lockheed Martin にパイロット訓練補助装置を提供したり、2021年に e スポーツ&エンターテインメントの GameWorks と提携し、全米でゲーム体験を提供したりしている。Brelyon は今年1月、シリーズ A ラウンドで1,500万米ドルを獲得したと発表している。

資金調達と継続的な業務提携を通じて、Brelyon は Ultra Reality を一般消費者市場向けの次のデスクトップコンピュータにしたいと考えている。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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