イスラエルからスタートアップが消える日到来?——起業大国が直面する政況と司法改革

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Photo by Bruce Emmerling via Pixabay

話題のポイント:イスラエルと言えば、「Startup Nation」と呼ばれるほど起業が盛んな国として認識している人は多いかもしれません。ディープテックやソフトウェア、特にサイバーセキュリティのユニコーンが国内だけでも40社弱生まれているだけでなく、イスラエル創業で他国に本社を置くユニコーンも50社ほど誕生しているのです

イスラエルで起業が盛んな背景には、スタートアップエコシステムとして政府プログラムによる助成金や税制上の優遇措置に加えて、海外投資家からのリスクマネー流入が多いことが挙げられます。これは政府系ファンド(YozmaVC)を中心に、民間 VC がスタートアップに出資する際に条件付きで共同出資するスキームが浸透しているためです。このスキームを呼び水として海外 VC が参加し、民間 VC の資金調達も増えています。

そんな政府との関係が深いイスラエルのスタートアップは現在、国内の政治状況と司法改革という大きな壁に直面しています。

イスラエル国会は7月24日、ネタニヤフ首相が推進する司法制度改革の関連法案を可決しました。関連法案には、最高裁の判断で政府の決定を無効にする権限をなくすことが含まれており、最高裁の権限が弱まり、司法の独立性を保つのが難しいと思わざるを得ない内容となっています。

このことは、米国家安全保障会議(NSC)の報道官は「残念」と表明していることからも分かるとおり、今後イスラエル国外からの資本流入への影響が懸念されます。イスラエルの Start-Up Nation Central の調査データによると、今回の措置を受けて、イスラエルのスタートアップの68%が現金準備金の引き出し、本社のイスラエル外への移転、従業員の移転、レイオフなどの積極的な法的・財政的な措置を講じているという結果が明らかになりました。

Qumra Capital のマネージングパートナー Erez Shachar 氏は CTech の取材で「イスラエルでは司法クーデターにより、初期投資が減少しています。もしイスラエルが新たなAI分野へ参入しなければ、世界で最も重要な地位の一つを失うかもしれません。」と語ったように、スタートアップがイスラエルから離れて減る税収のような目に見えやすい損失に加えて、国内に技術が蓄積できないことによって将来的に大きな損失を生むのではないかという懸念も広がっています。特に自動運転、チャットボット、画像分析などのAI分野のスタートアップが多いイスラエルではその損失は顕著に表れるでしょう。

法案が可決した以上、破棄されることは現実的ではないため後戻りはできませんが、国際的に下がった信用をどのように取り戻すのか、また今後スタートアップがどのように動向を見せるのか、これからの動向に世界から注目が集まるでしょう。

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