大企業が渡米起業家を応援する「いい」方法/世界に挑むスタートアップたち(6)小林清剛 × ACV 林智彦【ACVポッドキャスト】


本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

スタートアップの言葉すらまだ一般的でなかった2010年代前半、起業家として事業を大手通信会社に売却し、その後渡米。個人投資家として、また連続起業家として活動しつつ、日本人起業家コミュニティを積み上げたのが小林清剛さんです。本稿では前回のパートに引き続き、アクセンチュアの林智彦が小林さんのこれまでの活動をお聞きします。ポッドキャストの内容を一部編集してテキストでもお送りします。なお、一部敬称については略させていただきました。

ポッドキャストで語られたこと

日系企業の「シリコンバレー」タブー

スタートアップを語る場合に欠かせない存在がステークホルダーたちです。企業やVCはあるときは出資者として資金を提供し、あるときは事業提携を通じて協業の可能性を模索します。また、事業の先輩として起業家を次のステージに導くこともあるでしょう。

自律的な成長だけでなく、こうした外部資本にレバレッジを効かせることでスタートアップは短期間に大きな成長を手にするわけです。しかしその一方で、ステークホルダーたちとの付き合い方を間違えると、時間や資本をロスすることにも繋がりかねません。

自身も大手通信会社によるバイアウト経験がある小林さんは、スタートアップと大企業の「うまい」コミュニケーション方法について持論を展開します。

林:プロダクトについてはいくつかお伺いできたので、起業家ではない方も何か得られるものがないかなと、もうちょっとご質問をさせていただければと思います。

起業家ではないけれども、ベイエリアに来て、起業家を応援したいっていうような方が多いのかなっていう気もしてます。そういう方がスタートアップのエコシステムでどのような役割を果たせるのか?

イメージできるのはまず投資だと思うんですけども、普段ベイエリアでお仕事される中で、起業家以外の方で、起業家を応援している方はどのような仕事をしてる方が多いでしょう?

小林:僕、起業家以外の方と会うことがほとんどないんです。もちろん投資家の方とはお会いしますし、投資家の方は日系の創業者をすごく強く支援してくれていて。やっぱり日系の投資家はですね、日系の創業者にはすごい優しい人が多いですね。それは華僑とかインドのネットワークもそうですけど、そこはすごく心強く感じます。

あとは大企業という文脈でいくと、一つはこっちで勝負をしている日系の事業者に対して、少額でも出資をしていただけるとその企業にとってもいいんじゃないかなと思ってます。

例えば多くの大企業の方が、情報交換をしましょうってくるんですけど、僕らからすると、すごい日々、かなり真剣に勝負してるんで情報交換する時間がないんですよ。僕らはそこに欲しい情報があるかどうかもわかんないですし。

(中略)ただ、良い関係を築くために、例えば大企業からすると1,000万円ってそこまで大きな金額じゃないじゃないですか。その金額を自分と同じ業界に取り組んでいる起業家に少額出してくれると良い関係が築けるんで、月に1回でも情報交換しましょうとかってのはありうると思うんですよね。(その一方で)投資をすると、いろんな情報が欲しいので、スタートアップに質問する人がいるんですけど、それはそういうスタートアップのファウンダーの時間を奪ってしまうので、なかなか良い関係を築きづらかったりもします。

(中略)

僕もいろいろ大企業と関わったことがあるんで、何となく経験上わかるんですけど、投資の意思決定がめちゃめちゃ遅いですよね。企業として担当者にある程度の決裁権を与えて意志決定のプロセスを短くして、少なくとも2週間とかで決裁が降りるようにするという工夫は必要かもしれないです。

二つ目としては、まだまだ数少ないですけどこっちにいる日系の創業者もどんどん増えてくと思うんで、可能性があればM&Aをするというのもいいと思います。

日本の経済って今まで日本の大企業が支えてきて大きくしてきたと思うんですけど、やっぱり今の日本全体で見ても、結局、M&Aが起きてるのっていうのはインターネット系の企業だけじゃないですか。

(中略)日本だけじゃなくて世界中にプロダクトを提供してるところもあって、そこの最先端のトレンドを取り入れる・人材を取り入れるって意味でいうと、こっちにいる日系の企業を買収するというのは、とても良い手段なんじゃないかと思っています。

(中略)

あとは一般的な話として、ご挨拶とか情報交換ではなくて、自分がどういう価値を提供できるかにもっとフォーカスをして、人と会うことが大事かなと思っていて。(中略)こっちだとインナーサークルって言いますけど、やはり中心に行けば行くほどお互いに対する共通の友人が増えてメッシュが濃くなるじゃないですか。

外から見るとインナーサークルっていう、ある意味での障壁があるように見えると思うんですけど、すごく細かく見てみると、それって一人ひとりの人間関係の繋がりなんですよね。

それを作っていくっていうのはどういう価値をその人に提供するかっていうことだと思うんです。大企業の方も、投資家とかスタートアップのファウンダーもそうですけど、そういうふうに人間関係を築いていくと、こっちでも繋がりが増えていていくんじゃないかと思います。

小林さんは2013年10月、KDDIグループ入りした創業会社であるノボットを退職。その後、大手企業を中心にスタートアップを買収するひとつの流れが生まれます。(写真提供:小林清剛さんのFacebook投稿より)

林:求めることではなく、渡せることを中心にネットワークを広げる。非常に分かりやすいですし効果があるお話かなと思いました。

アメリカ人と話をしてると「何を助けたらいい(how can I help you?)」とよく聞かれる。それは、「自分は何がしたい何者なのか」が明確である前提で聞かれていると思います。

私はこの会社でこんな仕事してて、こういう人にリーチできるから投資できるかもしれない、協業できるかもしれないとか、自分像をクリアに言語化していくことがコミュニケーション上大事で、一番関わりが早いのが出資であるというのもそうだと思います。

アクセンチュアでもベンチャーズという部門があって、注力してるインダストリーに投資をしています。やっぱり投資をすることで、その業界に対して深くコミットできますし、そのスタートアップとのコラボレーションというのも起きやすいので、少額でも出資していく(中略)。

日系の、テックではない企業が、テック企業に少額出資するもしくはM&Aする。これで結構、新しいものが生まれそうな気がしました。ぜひお聞きの日系企業の方がいらっしゃいましたら、そんなことを考えていただけたら嬉しいなと思います。

小林:アメリカの大きい企業はそういうのが盛んですよね。スタートアップに出資もしますし、あとM&Aもしますし。最近日本の大企業でもCVCをたくさん作ってますけど、それより一歩進んで、直接投資をするとか、あとはM&Aをするとかっていうとこを進めてくると、すごく面白いんじゃないかなと思いました。

林:なるべく若いうちに来て、こちらで起業することがベストだと思うんですけども、日本のスタートアップコミュニティへの貢献の仕方は、いろいろなやり方があるのだ思います。

今お話ししたような、出資などのやり方も含め、いろんな日系の方が、ベイエリアにもっと関わって、日本人の活躍を広げていけたらいいなと思います。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する