陥りやすい「三つの罠」/世界に挑むスタートアップたち(2)小林清剛 × ACV 林智彦【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

スタートアップの言葉すらまだ一般的でなかった2010年代前半、起業家として事業を大手通信会社に売却し、その後渡米。個人投資家として、また連続起業家として活動しつつ、日本人起業家コミュニティを積み上げたのが小林清剛さんです。本稿では前回のパートに引き続き、アクセンチュア ソング/アクセンチュア・ベンチャーズの林智彦が小林さんのこれまでの活動をお聞きします。ポッドキャストの内容を一部編集してテキストでもお送りします。なお、一部敬称については略させていただきました。

ポッドキャストで語られたこと

起業家が陥りやすい罠

前回の話題では、渡米後に起業家が直面するビザ問題と英語について話が進みました。日本からやってくる起業家の多くは生活環境を整える力に乏しく、小林さんたちはその問題をコミュニティでカバーするべく、シェアハウス「テックハウス」を立ち上げます。生活環境が落ち着けば、起業家は本来あるべき課題に取り組むことができるようになります。

林:ビザや英語という大きなハードルのクリアの仕方が見えてくると、こちらで起業家として成功するために、本当に取り組まないといけない課題は何になりますか?

小林:プロダクトですね。プロダクトを考えるときに日本と一番違うところは、僕はこれがアメリカに来てから一番大きな学びなんですけど、やっぱりトレンドとか変化というものに対して、すごく気をつけて取り組まないといけない。

日本とアメリカの大きな市場の違いで、日本だと例えばアメリカで先行してるトレンドがあって、先行してプロダクトがあってそれを参考にこれから日本の市場がどうなるんだっていうことを考える機会は多いじゃないですか。必ずしもそうじゃないですけど、例えば半年とか1年とか2年とか先に発生する場合があって。

林:タイムマシーンと言われるやつですよね。

小林:多少はあるかもしれないけど、アメリカでは今、流行ってるものはもう遅いんですよ。今、GenAIをやってももう遅い。その次のものに将来、活動を持って取り組まないと、遅いわけですよね。トレンドってトップティアのVCたちがお金を数年前に投じて作ってるトレンドなんです。僕らはその先を、読まないといけないんですよね。

その将来のトレンドを読んで今から何を準備するかが事業選定です。大きな視点で話すと、僕はこっちでいろんなスタートアップのファウンダーを見ていて、結構陥りやすい罠みたいなのは三つあると思っています。

一つは事業選定のミスです。事業選定のミスというと、その事業として取るリスクとしては、大きくは三つあると思っていて、まずはトレンドですよね。トレンドは今はWeb3もありますし、AIもありますし、あとはまたIoTとか言われましたけど、そのトレンド自体がハイプして落ちちゃうとかがあるじゃないですか。

(中略)リスクの一つ目としてこれはすごく大きいです。

二つ目としてはWeb3とかAIの中で、そのトレンドの上で何のトレンドがくると思ってるのか。例えば僕だったら偽名経済とか、メリットベースド・ハイアリングとか、つまり実力で評価されるみたいな、そういうものが僕らは進むと、それが世の中に必要だというふうに思っています。あとはWeb3だとDeFiの人もいますし。どういうテーマを取るのかっていうのが二つ目。

三つ目がそのWeb3の偽名経済の中でどういうプロダクトにするのかという内容だと思うんです。その1、2、3で徐々に取るリスクは小さくなると思うんですけど、この三つのリスクというのがアメリカでやる上で最も難しいところだと思ってます。

 

現在、小林さんたちがKnotで取り組むプロダクト「Noxx

(事業選定のミスにつづいて)よくあるミスとして、MVPのサイクルを回すのに慣れてないとか、その非効率性がすごい多い場合があって。例えばよくある話ですけど、元々事業のMVPを作るときに、良い場合も悪い場合もありますけど、本当はそうするべきじゃないのに最初からいきなりプロダクトを作ってしまうケースがあります。

例えば元々PoCで技術を検証すべきなのに人間が手でやって、まず検証すべきなのに、いきなりもうプロダクトを作り始めてしまうと。そうすると事業が失敗する確率が上がるじゃないですか。あとは元々仮説を作ってもらったりして、本当はそうならなかったのに、その現実を直視しないでずっとやってしまうケースです。

MVPのサイクルを理想的には大体3カ月以内とか、長くても半年以内にくるくる回すと、例えばこっちでビザを取っている2年間に4回ぐらいできるじゃないですか。そうなると事業の成功確率ってまぁまぁ上がっていくと思います。

それが1回のMVPで2年かかっちゃうとやっぱり遅いわけですよね。そういうMVPの非効率、MVPのサイクルを回す非効率みたいなのは、よくあるミスです。

(事業選定のミス、MVPのミスにつづいて)三つ目は実行力です。実行力の欠如というか、そこの非効率性があります。例えばよくあるのは手段の目的化みたいな話で、どういう世界を作るのか、どういう課題を解決するか考えたときに、Web3というブロックチェーンの技術にすごくこだわっちゃうとか。

もしかしたら違うアプローチがいいかもしんないよねっていうのがあるわけじゃないすか。そういう手段の目的化とか。やっぱりこっちでやるときに、すごく良いのが、いろいろなアドバイザーがいたりとか、いろんな技術を持ってる人がいたりとか、すごい優秀な人がこのエリアに多いわけです。

そういう人に知見を借りたりとか、あるいはその人を一時的に雇ったりとか、いろんなことをして僕たちの足りない経験とか、ノウハウを補うことができるわけですよ。そういうのをしないで、例えば自分でとりあえず自分の知識だけでやってみようというと、その実行をする効率性とか、正確性はやっぱり落ちますよね。そういうところの実行力の欠如みたいなのが三つ目としてあって。

僕がこっちで見る三つの落とし穴というか、ミスみたいなのは事業の選定と、MVPのサイクルを回す効率と、実行力の欠如とか非効率っていうところに入ってくるかなと思ってます。

林:今の三つの罠、特に手段の目的化ですが、組成したチームメンバーのケイパビリティに左右されてしまうことが多いと思いました。例えばメンバーがみんなブロックチェーンが大好きだったときって、どう実施していくのがいいんですかね。メンバーの重力っていうのも結構あるのかなと思いますが。

小林:その場合はチームでブロックチェーンでしか解けない課題を解決するのがいいんじゃないですかね。僕はやっぱり課題ドリブンがいいなと思っています。特にベイエリア・シリコンバレーのようなスタートアップのオリンピックというか最も競争が激しいところの一つなので、そこで手段の目的化をしちゃうと非効率性が発生しちゃうと思うんですよね。

ただそれでも、本当にブロックチェーンが好きであれば、ブロックチェーンでしか解決できない課題を見つけてそこを解決するという手もあります。そこでいろんな検証する中で、ブロックチェーン以外の代替手段の方がいい解決方法があるんだと思ったら変えればいいじゃないですか。そういう方法もあるかなと思います。

林:僕がアクセンチュア ソングの仕事でクライアントの事業サービスを開発する際も、手段より解くべき課題にフォーカスすることを常に大切にしています。また、進め方の大きなアプローチを描き、提供するサービスも、繰り返し長く生かせるような型化を意識して取り組んでいるので、キヨさんの考え方にはすごく共感します。(中略)スタートアップというと、人によってとにかくチャレンジをしていく、もう実行というイメージがあるんですけども、戦略的な組み立てが非常に重要だなと。

小林:はい。世の中は将来こうなるとか、こうしたいとかミッションを持って、解決したい課題を持って取り組んでいくのは、トレンドのサイクルを超えられる機会があると思うんですよね。そのときにベストな方法を選べばいいわけじゃないですか。課題ドリブンでそこから中心にチームとか、事業に取り組んでいくのがいいんじゃないかなとは個人的には思ってます。

次回:「勝てる」トレンドをどう見極めるへつづく

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