生成AIはデザイナーをどう変えるーーアクセンチュアらトップクリエイター語る

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アクセンチュア、Accenture Song、STUDIO、Algomatic らが主催となって開催した大忘年会 〜2023年生成AIとデザインの総決算〜にはデザイナーなど300人以上が応募した

ジョン・ケイが小さな「飛び杼」を発明したことで最初の産業革命が始まったと言われている。

その後に普及した紡績機は大量の動力を必要としたため、人々は蒸気を活用することを思いついた。蒸気機関はやがて車両に使われ、移動を手にした社会は大きくその形を変えることになる。

ーーそれから約3世紀。ChatGPT が駆け抜けた2023年は、新たな産業革命の始まりの年として記憶されることになるだろう。

12月、都内にあるアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京で開催された「生成AIとデザイン」をテーマにしたイベントには約150名以上のデザイナーやクリエイターたちが詰めかけ、この激動の1年をセッションやステージトークなどで振り返った。

生成AIはクリエイティブに何をもたらす

生成型AIを語る上で欠かせない視点が「仕事」だ。ChatGPT を世に送り出した OpenAI では今年3月、労働に関する報告書「An early look at the labor market impact potential of large language models”(大規模言語モデルの労働市場への潜在的影響)」を公開しており、米国の労働人口の約80%が、GPT の導入により少なくとも10%の業務に影響を受ける可能性があるとした。この影響はすべての賃金水準に及び、高収入の職種ほど大きな影響を受ける可能性がある、とも指摘している。

報告書では「大きな破壊をもたらす可能性のある特定の職業」として会計士や記者、ジャーナリスト(筆者のことだ)などに並んで作家、ウェブデザイナー、ブロックチェーンエンジニアなどを挙げている。一般的に反復作業、データ分析、定型的な意思決定を必要とする職種が最もリスクが高いとも記述していた。

実際、私もまさにこの執筆作業において多くのAIツールを使っている。録画した音声からテキストに書き起こしをする作業は、かつては人の手によるものだった。今は音声の質にもよるが7-8割が自動化され、さらに ChatGPT による校正作業が加わることで、人手による無駄な時間消費はほぼなくなった。

もちろん新たな仕事も生み出されている。Bloomberg のこの記事によれば「ChatGPT」のプロンプトを作成・操作する新しいタイプの仕事が生まれているそうだ。ケースによっては年俸で30万ドル以上の報酬の仕事もあるようで、これらの仕事の多くはコンピュータ工学の学位を必要とせず、むしろ ChatGPT のアウトプットを理解し最適化できる創造的で分析的なマインドを必要とする。

LTのステージに登場した@shoty_k2氏が共有してくれたケーススタディ。心が温まる

では、よりクリエイティブな世界ではどのようなことが起こっているのだろう?イベントのライトニングトークでステージにのぼったAIクリエイターの@shoty_k2(しょーてぃー)氏が興味深い事例を共有してくれた。

「ChatGPT などの台頭によっていろんなことが身軽にできるようになったなと感じています。生成AIのワークショップを子供向けに山梨県でやってきて、2年生ぐらいの女の子が最初は何かもじもじしてあんまり進まない感じだったんですけれど、終わったら笑顔になってくれたんですね。そしたらですね、何週間後かにお母さんから連絡がきたんです。ChatGPT とか画像生成を使った創作プロセスに娘がハマっていて、数をたくさん作っているから、私もコンクールとかに応募して応援したいという。本当に新しい体験に対して背中を押せた」(@shoty_k2 氏)

制作するプロセスよりも結果の方が楽しいのは、大人も子供も同じだろう。特に我慢が効かない小さな子供であれば、ワンクリックで創造の世界に連れて行ってくれる生成AIツールはまさに「魔法」だ。掻き立てられた想像力がさらに次のクリエイティブを生み出すきっかけにつながる。

この経験を経た子供たちが成長した時、どのような世界を作ってくれるのだろうか?

クリエイターの仕事はどう変わるのか

「みんなの銀行」などのデザイン・プロジェクトを指揮するAccenture Song の柳太漢氏

このように誰もがクリエイターになれる世界観は、クリエイターエコノミーとしても長らく語られてきた。YouTube や TikTok などのプラットフォームにはゲーム実況やパフォーマンスの数々が並ぶ。しかし、これらをプロ級のクリエイティブかと問われると、その質には大きな振れ幅があったことは否めない。生成AIはその「プロ」と「アマチュア」の差を少しでも埋めることになるのだろうか。

イベントの後半には「生成AIネイティブなプロダクトのデザイン」というテーマでセッションが設けられた。生成AI「前提」の世界観でクリエイターの仕事はどう変わるのか。このわかりやすい答えとして、登壇した Accenture Song の柳太漢氏は、ひとつの動画を自己紹介代わりに再生してみせる。

「僕らのチームの方が(生成AIツールと)会話しながらどんどん作っていった。明らかにデザインプロセスが簡略化されていて、フリクションがない。割とこれまでのデザインのプロセスとの違いでいくと「そのものの本質」に向かっていけそうな感じがあるんじゃないかな」(柳氏)

柳氏がチームメンバーに作ってもらったこのクリスマスのミュージックビデオ、かかった時間はたったの1日なのだそうだ。もちろん細かくアラを探せばいくらでも出てくるが、会場で聞いていた内容はごく普通に「聴ける」ものだった。

柳氏のチームメンバーが作ったクリスマスソング。歌詞も動画も曲も全て生成AIが作った

生成AIのインパクトはやはりこの「効率性」にある。登壇した野田克樹氏が執行役員CXOを務める Algomatic はまさにその申し子のようなスタートアップだ。DMMが20億円を出資して今年4月に生まれた同社では、生成AIをテーマに「全方位」で事業を立ち上げている。野田氏はこの時代のスタンスの取り方として次のように語った。

「インターネットの時と同じで、何が当たるかわかんないけど、絶対社会に浸透するであろう前提だけ仮置きして、AIを使うことが目的化してもいいぐらいに浸透させるべきっていうのは、ポジションの取り方としてはあり得るかなと思ってます。例えばリクルートがインターネットができた時、数百のメディアやアプリケーションを作ったのと似た感じで、まず技術ドリブンでガーッて作って未来を開拓しに行くみたいな、あの作り方もあるかなと。

これまでと変わったなと思っているのは、マーケットをリサーチしてこの辺になりそうだからこれを横展開してみたいな思考をしてたのが、まず技術ドリブンで、プロトタイプと事業まで作るだけじゃなく、プロダクションまでしちゃって検証するみたいなのがわりとデファクトになってきそうだなっていうところ」(野田氏)

生成AIが仕事現場でスタンダードになる以上、この圧倒的な「量」を背景とした考え方は無視することができない。一方、下手な鉄砲数撃てば当たる、ということなのかというとそれともまた異なる。ここで重要になるのがやはり、人の第六感とも言うべき経験、感覚、つまりセンスのハナシだ。

野田克樹氏が執行役員CXOを務める Algomatic は今年スタートアップした

柳氏が語る「本質に向かう」という感覚は生成AI関連のツールを使うと実際に感じることがある。無駄な作業がなくなり、均質化する一方、自分としての「差別化」はどこにあるのだろうかと自問する時間があるのだ。

「この生成AIネイティブのデザインで自分たちのやりたいことって変わるんじゃないかと思われがちなんですけど、本当は割とダイレクトに本質に向かっていくことになるかなと思ってますね」(柳氏)

この流れに同意するのがノーコードツール「STUDIO」が好調な石井穣氏だ。ChatGPT が話題になった今年の春、彼らはプロンプトでウェブデザインが組めるツール「STUDIO AI」を公表した。世界的なサービスリスト「Product Hunt」でも大きな話題となる一方、石井氏はそこである「違和感」を感じたそうだ。

自身もデザイナーである石井氏は、これまでの伝統的なデザイン・プロセスをわざわざ「チャット型」に変える必要があるのか、そう自問するようになる。石井氏はいくつもの思考実験を経て、改めて人々を感動させるために必要な「あるもの」について語った。

STUDIO 創業者で代表取締役の石井穣氏はデザイナーでもある

「(生成AIが浸透することによって)アイディアも何か統一化されていくというか、そうなりそうですよね。そう考えて、やはり大事なのがストーリーだと思ってて。デザイナーが強いのってストーリーを作れることだと思うんです。(IDEO の共同経営者)トム・ケリー氏に言われたのが、VC にピッチする時もやはりストーリーをどう作れるかが超大事で、AI で何かを作っても、それをどう売り込むかとかで全然違う。そこを作れるのはやはり人間なのかなって思ってる」(石井氏)

今回、登壇した三人のエキスパートたちが語ったことをもし、1年前に聞いていたら全く実感は湧かなかったかもしれない。逆に言えば、たった1年でここまで世界観が変わってしまったとも言える。

もちろんまだまだ課題も多い。わかりやすいものであれば著作権の問題があるだろう。あるアーティストは自分たちのアイデアを生成AIに持っていかれないよう「ポイズンピル」を仕込む防御策を取っている例もあるという。

生成AIは語るよりも使い、その中で自分に合った付き合い方を自問することが大切だ。そしてさらにここからの1年でも事態は大きく変わる可能性がある。次の1年でここで語られた内容をどう感じるようになるのか、それもまた楽しみでもある。

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