モノグサに学ぶ、PMF後のスタートアップが「第2の市場」を狙うためのポイント

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

学校や塾などの教育現場で広く活用されている、記憶定着のための学習プラットフォーム「Monoxer」。本サービスを提供するモノグサ株式会社は、さらなる事業拡大を目指し、企業に務めるビジネスパーソンにMonoxerを利用してもらう「社会人領域」の開拓に挑みました。

これまでアプローチしてこなかった市場にも関わらず、Monoxerがフィットする法人やその活用法まで見出し、約1年足らずで複数企業とのPoCまで達成。この“第2のPMF”とも呼べる成果をどう成し遂げたのか。モノグサ代表取締役 CEOの竹内 孝太朗さん、事業開発の内野 竜二さんに加え、本施策を支援したVC企業のグローバル・ブレイン(GB)立花 一雲に話を聞きました。

VCの支援には「懐疑的だった」

──社会人領域の開拓を始めた経緯を教えてください。

竹内:Monoxerは、子どもたちの学習を支援するサービスとして多くの学校や塾でご利用いただいています。一方で、社内研修や昇進試験など「何かを覚える」シチュエーションは社会人にも存在しますので、Monoxerを使っていただける余地がありそうだとは以前から感じていました。

(画像提供:モノグサ株式会社)

ただ、実際に企業内でPoCをやったわけではないので「いけそうだけどわからない」というのが正直なところでした。そんな折に、以前から学校へのマーケティング戦略策定などで支援いただいていたGBのValueUpTeam(VUT)と、今後の施策案についてディスカッションする機会があり、社会人領域の検証に挑戦しようとなりました。

──その際、竹内さんはVUTにどのようなことを期待していましたか。

竹内:以前弊社に行っていただいた支援では、私が直接VUTの活動を見ていたわけではありませんでした。ですので大変ご無礼な話なのですが、「実態はいかほどなものか」と懐疑的でした。

前提として、事業を伸ばすのは私たちの役目であり、VCにはお金を預けていただく以上のことを期待すべきでもないと思っていたので、大きな不満があったわけでもありませんでした。

そんな中でVUTからいただいたいくつかの支援案の中に、弊社としても試したい「社会人領域のPoC」がありましたのでご一緒させてもらいました。ただ先ほども申し上げた通り、個人的にはVC支援には半信半疑でしたので「大型のリードが10件くらいいただけたらいいかな」くらいの期待値でしたね。

竹内 孝太朗:名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初及び最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。高校の同級生である畔柳と2016年にモノグサ株式会社を共同創業。

まったく新しい市場のニーズ、どう掴んだ?

──社会人へのニーズ検証の流れを教えてください。

内野:昨年の5月ごろからVUTの立花さんと競合サービスの分析や、社会人の中でも「何を覚える人に最も使っていただけそうか」という仮説立てをしていきました。またGBさんに紹介可能な候補企業をリストアップいただき、商談も重ねていきました。

立花:私もほぼすべての商談に同席し、Monoxerの持つ「記憶を定着させられる」という価値は、社会人のどんなペインを解決するのかを模索していきました。あらゆる部門の方とお話しましたが難航するケースもあり、まさに試行錯誤でしたね。

内野:転機が訪れたのは夏ごろです。VUTに繋いでいただいた大手企業の営業部の方と商談したときに、「セールスパーソンの営業力向上にMonoxerを使ってみたい」と反応いただけたんです。同じように他社の営業部からも引き合いがあり、PoCをやってもいいという企業が複数社見つかりました。この頃から「営業部門が合いそうだ」という確信度が高まりました。

その後、秋から冬にかけていくつかの企業でPoCをさせてもらい、現在は本導入に向けたお話も進められています。

立花:その大手企業の上層部の方からは「早くMonoxerを取り入れよう」と社内に号令をかけていただけるくらい惚れこんでもらえましたね。

立花 一雲:JWT Japan、IMILOA JAPAN/ Honolulu、ノバセルを経て、GB参画。投資先企業の事業領域サポートに従事。ノバセルでは営業責任者としてBtoB Saas/D2Cスタートアップ企業のマーケティング戦略・支援をサポートし、売上向上に寄与。

──かなり好意的に受け入れられたのですね。具体的にMonoxerのどんな点が響いたのでしょうか?

内野:2つ挙げられます。

まず、Monoxerで「セールストークを覚えられる」というのは明確に反応をいただけたところです。当然ですがセールスパーソンは一定のトークスクリプトを覚える必要があります。ここは「忘れさせない学習ツール」を標榜するMonoxerと相性がいいニーズでした。

また営業組織のニーズとして大きかったのは、トークを覚えるだけではなく「覚えているかどうか可視化する」ことです。たとえば「そのセールスパーソンがどれくらいの営業レベルに達したのか」や「どの商材の提案を任せられるか」というスキルマネジメントはどの営業組織でも行われます。Monoxerには「何をどこまで覚えたか」が記録されるので、このニーズにも応えられます。

Monoxerが子ども向けに提供してきた機能や強みが、多くの営業組織で行われる「トークを覚える」「セールスパーソンのスキルを管理する」というニーズに合致したといえます。

内野 竜二:新卒で大手人材会社に入社し、非正規採用領域の広告営業に従事。組織マネジメントや新規領域の立ち上げを経験し、その後2021年にモノグサに参画。モノグサでは学校セールス、関西エリアの営業責任者を経て、社会人領域の事業開発/セールスを担当。

──PoCは先方のリソースも取るためうまく打診しないと頓挫する場合もあります。PoCを円滑に始められたポイントは何だったのでしょうか。

内野:お客様が本当に心の底から成し遂げたいと思っている目標や姿を言語化し、そこにPoCがどのように貢献するのかを解像度高く提示することだと思います。

たとえば「売上を上げたい」のような粒度ではなく、「ヒアリングのスキルを身につけさせたい」とか「顧客のニーズを吸い上げられるようになってほしい」とか。自社のセールスパーソンに何を成し遂げてほしいのかを明確にし、それを「Monoxerでどう覚えられるのか」を提案する。MonoxerでPoCをするとどんな未来が開けるのかを言語化するのが大事だと思います。

余談ですが、今回のPoCではモノグサ社の営業チームがふだん使っている「営業検定(※)」の内容を活用しました。これは竹内が前職のリクルート時代に作ったもので、セールスパーソンが押さえるべきスキルが42個に細分化されています。

※参考:【CEOインタビュー】モノグサにおけるセールス組織の強みと育成スキーム #2

竹内:営業検定には「目を見て話すことができる」のような基礎的な内容から、「話す速度を商談相手より若干遅くする」「『あー』『えー』などのつなぎ言葉を使わない」など、高い技術が求められるものもあります。

営業資料をチームで統一していても、セールスパーソンの個々人のスキルにばらつきがあると成果に差が出ます。こうした課題はどの営業組織も共通ですので、ふだん弊社内で使っている内容がうまくPoCでも転用できました。

営業組織向けのMonoxer画面イメージ。「顧客の目標をヒアリングしてください」などのような問題が出され、適切なセールストークの言葉を回答していく形式になっている(画像提供:モノグサ株式会社)

Monoxerに「興味がない企業」から得られるもの

──今回の取り組みを通じて得た成果や、VUTの価値について特に感じていることを教えてください。

竹内:営業組織に合うとわかったのは大きな成果なのですが、それ以上にVUTと取り組めてよかったのは、Monoxerというプロダクトの切れ味を試せる「打席」をたくさんいただけたことです。

通常の商談はMonoxerにある程度興味を持ってくださっているお客様と行いますよね。私たちでいうと、学校や塾の方からお問い合わせをいただいて商談をするのが通常です。

一方で、すでにMonoxerに関心を持っているお客様の数は限られますので、こうした商談ばかりを続けていくと顧客数は先細りになります。どこかでまったく新しいお客様を開拓していかなければ事業を大きくできないのです。

しかし、当然いまMonoxerに興味がない方は問い合わせもしなければ、商談もしていただけません。事業拡大のためには、いまMonoxerを必要としていない方に提案する必要があるけれど、先方からは時間をいただけない。ここにジレンマがあります。

この意味で、いわば「VUTと関係性がある」会社さんとの場をいただけたというのがありがたかったです。今回の大手企業などは、GBさんとの関係性があったから弊社とお会いしてくださったわけで、Monoxerを使いたいという明確なニーズがあったわけではありません。通常では出会えないお客様とお話しできたからこそ、Monoxerが新たに展開できる市場を見つけられました。

「ニーズが見えている企業を大量に紹介する」のではなく、「まだ見ぬニーズが眠る1社との出会いを作り、一緒にMonoxerの可能性を広げていただいた」ことに意義がありました。数ではなく質の価値です。

極論、教育業界の100社を紹介してもらうよりも今回のケースのほうがありがたい。すでにニーズが顕在化しているお客様には自分たちでご提案すればいいわけで、VCの力を借りる必要はないんです。当初の「大型のリードが10件くらいいただけたら…」という期待のままVUTにリクエストしていたら、ここまでの収穫はなかったと思います。

──実際に商談をされた内野さんとしては、ニーズがない企業の開拓は大変だったのではないでしょうか。

内野:正直難しい商談ばかりでした。ですが逆に考えると、Monoxerにいま関心がない企業であっても、ニーズを見つけ出してPoCや受注まで導ければ今後もあらゆるお客様に対応できます。実際、いち営業マンとして、共感を獲得したり適切なメッセージを伝えたりする力がつき、以前より受注確度も高まりました。

立花:今回の取り組みはVUTの私も成長させてもらった事例でした。商談を重ねて仮説の解像度を高めていけば顧客は広がっていくんだなと感じましたね。

内野:一緒に奮闘してくれた立花さんは、もはや“モノグサの同期”です。モノグサの定例にも毎回ご参加くださいましたし、リース会社さんとの商談にもすべて同席してサポートいただきました。

新人も営業10年目も、使えるサービスへ

──これから社会人も含めてMonoxerを一層広めていかれると思います。今後の事業面での展望について教えてください。

竹内:今回の大手企業のような事例は、引き続きノーススターとして目指していきます。

社会人利用の中でも、覚えることが明確な領域ではMonoxerが入り込む余地は十分見えています。販売員の方に商品情報を覚えてもらうとか、昇進試験や資格試験とかですね。

私たちはさらにその先の、一見「記憶」とは遠そうな領域でもMonoxerの活用方法を探索していきます。新人販売員だけでなく、営業5年目や10年目の方もMonoxerを使ってスキルを高められると証明し、1人当たりのLTVを伸ばしていく。ただ覚えて終わりの「ライトなサクセス」ではなく、より高度で技術が求められる成長もできる「ディープなサクセス」をお客様に提供していきたいですね。

──VUTとして、今後の支援の展望についてはどうですか?

立花:セールスパーソンへの活用が今後も成功できれば、必然的にMonoxerの市場は広がります。すでに仮説の確からしさが見えてきている段階ですので、VUTとしてもセールスやマーケティングなどの面から、引き続きノーススターを目指す伴走をしていく想定です。

加えて、まだ検討段階ではありますがMonoxerを使った営業支援パッケージのようなものを、スタートアップやGBのつながりがある大企業に提供する構想もあります。

他のスタートアップ支援に携わっていて感じますが、やはり特にBtoBスタートアップは営業で悩むケースが多いです。モノグサ様への支援から生まれた商材が、また別のスタートアップへの営業支援で活かせられれば、VUTとしても活動の形がより立体的になっていきますよね。そこからモノグサさんにリードを渡す循環ができればなお良しです。

竹内:やっていきたいですね。スタートアップは営業力がなくて潰れてしまうケースも多いですが、それはやっぱりもったいない。VUTの皆さんとは引き続きMonoxerの拡大に取り組みつつ、新しいチャレンジも積極的に考えていきたいと思っています。

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