創業の地・沖縄はテスト市場、キャンプ用品シェアリングの全国展開を目指す「ソトリスト」

URAKATAの皆さん。左から:マネージャー 渡久地潤紀(とぐち・ますき)氏、代表取締役CEO 山田慎也氏、COO 阿嘉祐樹(あか・ゆうき)氏、経理・総務 山田麻子氏
Image credit: Urakata

本稿はスタートアップのキーマンと繋がる「STORIUM」編集部による寄稿。STORIUMで見つけた、魅力的なスタートアップをご紹介いたします。今回は、URAKATA を取り上げます。

コロナ禍に苦しめられた企業がいる一方で、新しい事業も少なからず生まれた。キャンプギアのシェアリングサービス「ソトリスト」を運営するURAKATAもそんなスタートアップの一つだ。もともとは、沖縄の地場企業やホテルなどの、文字通り「裏方」としてシステムのインテグレーションなどを行うフリーランサー集団だったが、企業から受注が増えたこともあり、2018年に法人化した。そんな中、2019年末あたりから、新型コロナという未曾有の病が世界を襲う。観光依存度の高い沖縄経済への影響は小さくなかった。

一方、URAKATA代表取締役CEO の山田慎也氏によれば、日頃から無機質なデジタルな仕事に関わっている反動からか、仕事仲間や同僚には釣りやアウトドアを趣味にする人が多かった。コロナ禍で人が集まる場所に行けないとなると、自然と戯れたいと思うのは、生き物の性(さが)かもしれない。当初は、買い揃えたのが奥さんにバレるのを恐れ、皆がキャンプギアを会社に置くようになったのがきっかけ。そこから着想を得て、2020年11月頃、キャンプ道具のシェアリングをやってみようと始まったのがソトリストだ。

ほどなくして、地元紙の沖縄タイムスや琉球新報からソトリストのことを取り上げると、2ヶ月後には250点ほどのキャンプギアが集まった。キャンパーは複数のギアを揃えていて、普段使っているお気に入りのギアセットを「一軍」、二番手の予備のギアセットを「二軍」と呼んでいるが、二軍たちの置き場に困っていたのだ。しかも、これをソトリストを通じて誰かに貸すことで、小遣い稼ぎにさえなる。同じ課題を持っている人が意外に多いと事業に確信を得た山田氏は、徐々にソトリストの事業を大きくしていった。

よくあるスタートアップみたいな、こういう社会課題があって、これにコミットするために会社を立ち上げました、みたいな創業ストーリーは僕らにはなく、何となく立ち上がったという感じです。(中略)ただ、僕らは、沖縄だけで完結する事業にする気はなかったので、全国に展開していく、そういう考えに賛同していただける投資家に支援してもらっています。(山田氏)

Image credit: Urakata

沖縄県内では、ソトリストのキャンプギアの預かり・貸し出し店舗は現在、那覇に隣接する浦添と、ヤンバルの入口にもなる沖縄本島北部の名護の2カ所にあり、ここで直接預けたり、ピックアップしたりできるほか、運送便で自宅やキャンプ場に届けてもらうこともできる。ただ、沖縄は決してキャンパーが多い土地柄というわけでもない。山田氏によれば、沖縄を地の利を活かして早期にテストマーケティングができる環境と捉え、他県での再現性に向けた検証を加速し、内地のキャンプ場周辺へのサービス展開を本格化したい考えだ。

URAKATA はこれまでに、琉球放送、沖縄振興開発金融公庫、麻生要一氏からの出資、沖縄振興開発金融公庫、琉球銀行、沖縄海邦銀行の連携による協調融資を受けている。これらの資金は主に、内地への拠点展開のためのものだ。同社は2022年4月に富士山周辺のキャンプ場への通過点となる山梨・富士吉田にソトリスト河口湖店、2024年2月に福岡から九州各地のキャンプ場への通過点となる福岡・大野城にソトリスト福岡店をオープンさせた。

富士吉田から御殿場へ抜ける国道138号線は、キャンパーのメインルートになっています。富士宮まで下ったところに「ふもとっぱら」があったり、富士五湖を全部通過できたり、このキャンプの一丁目一番地になっている場所の道沿いに店を出したかったんです。九州は、地域全体でキャンプ施設が400〜500位あって、その7割が熊本と大分に集中しているんですよ。渋滞を避けるため、太宰府から高速に乗る手前でギアを受け取りたいという声が多かったので、太宰府の隣の大野城に店を作りました。(山田氏)

ソトリスト 福岡店
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これらの店舗は、車でキャンプに向かう人が通過する主要道路上にあるため、キャンプギアの貸し借りに便利なだけでなく、それぞれ、関東エリア、九州・山口エリアに運送便で貸し出す際の発送拠点にもなっている。なぜ、店舗によってエリアが決まっているかというと、キャンプに行く3日前に予約を受け付けられれば、前日には手元にキャンプギアが届く、というユーザ体験を実現したかったからだ。店頭受け取りならば、キャンプに行く前日の正午までに予約をしておけばよい。これはこの業界では画期的なことだ。

他社では1週間前までに予約が必要なところが多いようです。キャンプギアは大きくて特殊な形状をしているので、eコマースなどと違って小口配送が難しいからでしょう。でも、キャンプ未経験の人が、知らない土地の知らない天候を気にしながら、キャンセル料を気にしながら予約するのはハードルが高い。借りたくても借りづらい環境を打破したかったので、店頭ピックアップであれば、前日のお昼12時まで予約を受け付けられるようにしました。(山田氏)

自宅やキャンプ場への配送の場合、キャンプギアは小口配送の規格外となるため、一般的な宅配便よりは日数がかかる。URAKATA では、宅配便事業者の各地域の統括事業所などと個別に交渉を進め、店頭ピックアップではない配送の場合であっても、3日前予約で間に合う体制を実現した。キャンプ場にはキャンプギアを貸し出しするところもあるが、在庫管理や返却後のクリーニングなどが煩雑なので、貸出業務をまるごとソトリストに移管するところも現れた。キャンプ場には売上の10%のマージンがバックされる仕組みだ。

ソトリストからキャンプギアを借りるユーザの6割は、30〜40代の男性。まさに山田氏や山田氏の同僚と同じ、一番人生で脂が乗っていると言われる世代だ。仕事も家庭も充実してきた中で、自然と戯れながら自由な時間を過ごしたいと感じるのは、皆同じといったところか。残りの4割を、20代でのユーザと外国人ユーザが分け合っている。同社では、インバウンドの〝コト消費〟拡大を受け外国人の需要開拓、キャンパーの知見共有、メーカー横断でのキャンプギアの清掃・修理・保険など、事業多角化に注力する構えだ。

URAKATA 本社で預かっているキャンプギア

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