スマホ1台で目指す完璧なスイング、AIで野球トレーニングを効率化するアプリ「b4-app」

左から:Keep Tossing Lab(伝接球実験室)の共同創業者兼 CEO Chung Chun Kuan(関仲鈞)氏、共同創業者兼製品マネージャー Nicholas Tsao(曹以承)氏
Image credit: Linghuai Ceng(曾令懷)氏

大谷翔平氏のスイング時の身体データを基礎トレーニングに活用するのと、大谷氏にスイングの技術を説明してもらうのと、どちらの方法に頼れば、次の大谷氏が育つ可能性が高まるだろうか。

ビッグデータの時代においては、前者の可能性が高いかもしれない。これがスタートアップ Keep Tossing Lab(伝接球実験室)の新製品「b4-app」のコンセプトだ。このアプリはスマートフォンを活用して打球の打ち上げ角度やスイングパス等のデータを自動的に解析・記録し、選手の後続トレーニングの基礎とする。

しかし、この論理的な発想は実は「その道の本人から直接学ぶ」というトレーニング方法に由来している。

アメリカでは、子供達のトレーニングも科学的

野球トレーニングのための AI 製品、Keep Tossing Lab(伝接球実験室)の「b4-app」。
Image credit: Keep Tossing Lab(伝接球実験室)

Keep Tossing Lab の共同創業者兼 CEO Chung Chun Kuan(関仲鈞)氏は次のように振り返った。

大学1年生の時、寮に入ってすぐにレッドソックスのキャップを被った人を見つけました。私も持っていたので、運命的な出会いに感じました。

同じく機械工学科に在籍していた彼と Keep Tossing Lab の共同創業者兼製品マネージャー Nicholas Tsao(曹以承)氏は、同室の親友で、勉強よりも野球の練習ばかりしていた。

しかし、野球部で練習する中で、彼らは疑問を感じるようになった。スイングが優れている先輩が、後輩にフォームを指導する際、言葉と実際の動作が一致しないことが多かったのだ。先輩の言葉と先輩の身体の動きのどちらを信じるべきなのか、迷うことがよくあった。

私たちは機械工学を学んでいて、正確さと実験心を重んじていましたが、野球に関してはそうではありませんでした。当時の野球の練習は、「なぜ」を理解するより「何を」するかが重視されていました。トレーニング方法や根拠となる論理を理解せず、ただ先輩から受け継がれた伝統的な方法に従って、何度もバットを振っていました。(Tsao 氏)

卒業後、2018年にボストンで開かれた同窓会が2人の起業のきっかけとなった。当時、Garmin がインパクトバットスイングセンサーを発表。二人とも野球に情熱を持っていたため、野球場でこのデバイスをテストしたところ、周りの子供たちもそれを使用していることに気づいた。

私たちは自分たちが最先端の人間だと思っていましたが、アメリカではそれが標準であることに気づきました。 子どもたちでさえ、科学的な方法でトレーニングを行っていたのです。(Tsao 氏)

Tsao 氏は、大学時代の記憶と重ね合わせながら、そう振り返った。

トレンドを追うのではなく、巨人の肩の上に立つ

Image credit: Keep Tossing Lab(伝接球実験室)

Kuan 氏と Tsao 氏は、現在の台湾の野球環境において、草の根レベルからトレーニング方法に革命を起こすことが不可欠であることを認めた。 そこで2019年、海外の科学的トレーニング方法を台湾に再導入することを目的として、カリキュラムとコミュニティサービスのコンセプトを掲げた起業に踏み切った。 しかし、彼らはあらゆる場面で障壁に障害にぶつかった。

トレーニング機器のコストに加え、会場の仕様とサービスのキャパシティが2人にとって大きな課題となった。第一に、会場の不足と貸出手続の複雑さが気が遠くなることが判明した。 第二に、2人が授業を行うだけでは、広範囲に影響を与えることが困難だった、その結果、Keep Tossing Lab は徐々にトレーニング製品の開発に事業の焦点を移していった。

市場では当時、身体に着用したり、バットにつけたりする製品がほとんどでしたが、私たちはそれが最適解とは考えていませんでした。(Tsao 氏)

彼がそう考えるのは、何かしら物体を体やバットに装着すると、重心がずれてしまい、実試合の状況とズレが生じるからだ。そこで Keep Tossing Lab は、新たなアプローチを探ることにした。

タイミングが良かったのは、2020年頃にメジャーリーグが「Hawk-Eye」などの技術を導入すると発表したことだ。同時期に iPhone のカメラ機能も進化していた。映像解析の潮流を踏まえれば、なぜスマートフォンでスポーツ科学製品を開発しないのか。

これがつまり、巨人の肩に乗るということです。(Kuan 氏)

Kuwan 氏は笑いながら、そう語った。

コーチの代わりでも、誰かのマネをするわけでもない

Image credit: Keep Tossing Lab(伝接球実験室)

Keep Tossing Lab のアプリには、ボール速度、バット軌道、骨格軌道、ストライド距離などのデータが表示される。しかし、同社の中核データは33の関節ノードからの生データだ。これは何を意味するのか。Tsao 氏は、打撃の成否を左右する要因は、投球コース、守備、打撃フォームなどだと説明する。

打者にとって最も気になるのが打撃フォームで、バットは手、腰、肩、脚など、様々な身体部位によって制御される。 そのため Keep Tossing Lab の映像解析システムでは、身体、バット、ボールの動きからの生データを主にキャプチャしているのだ。

簡単に言えば、私たちは高速画像、打球結果、身体動作の状態に関する客観的データを同時に提供することで、選手やコーチが自分に本当に合ったスイングスタイルやトレーニングメニューを科学的かつ効率的に見つけられるようにしています。(Kuan 氏)

Keep Tossing Lab はコーチを置き換えるのではなく、このシステムによってコーチや選手が最適なトレーニングメニューを見つけられるようサポートしたい考えだ。

私たちは対立関係を作るのではなく、win-win の生態系を育みたい。(Kuan 氏)

一方で映像解析により、Keep Tossing Lab には2つの追加的な利点が生まれた。アルゴリズムの連携と、低価格なハードウェア製品だ。機械学習、映像解析、エッジコンピューティングなど複数のアルゴリズムをスマートフォンに連携して計算するには、技術的な障壁がある。

また、市場の多くのスポーツ技術製品は、バットスイングやボール速度など、単一のカテゴリのみをモニタリングするのが一般的だ。つまり、打撃動作を分析するために別のソリューションを採用すれば、複数のハードウェアが必要になる可能性がある。

コミュニティから市場展開、次世代製品には投球分析機能も

しかし、スタートアップとしてプロ球団に食い込むのは、現状ではかなりの難題である。そのため、Keep Tossing Lab の市場戦略は、当初は草の根ユーザ、つまり、自主トレーニングをしている小学生や学校のチーム学生をターゲットにしている。現在のところ、無料ダウンロードと1日10回までの無料テストを提供している。無制限に使用するには、ユーザは月額14.99米ドルを支払う必要がある。対象市場は、台湾と北米の野球文化圏だ。

部外者の視点で考え、専門家の実行力を持つことは非常に重要だと思います。(Kuan 氏)

競合他社が主にプロ野球選手志望者をターゲットにしているのに対し、Keep Tossing Lab はすべての野球ファンにスポーツテクノロジーを普及させることを目指していると表明した。

最初の社会奉仕活動を通じて構築されたネットワークは、今や製品の機能をアップデートするための重要な情報源となっている。これにより、プロ選手が日々のトレーニングでより便利にテクノロジーを活用できるようになるだけでなく、アマチュアユーザのニーズにも応えている。さらに、将来は投球動作分析機能を組み込む計画もある。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】@meet_startup

【原文】

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