テックシンカー×日本海ガス絆HDグループがタッグ、製造業2社で計19トンの脱炭素に成功

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左から:ネクストプラス 取締役 牧田拓郎氏、テックシンカー 代表取締役 洪偉豪(コウ・イゴウ)氏、日本海ガス 法人事業本部 エネルギー営業部 産業エネルギーグループ 野上智宏氏、日本海ラボ ОI推進チーム 鈴木健太朗氏

本稿はコーポレートアクセラレーターを運営するゼロワンブースターが運営するオウンドメディア「01 Channel」からの転載記事。「NGAS-Accelerator Program 2024」は現在参加するスタートアップを募集中で、応募は5月31日に締め切られる予定。7月下旬の選考を経て、8月から11月にかけての約4ヶ月間プログラムが提供される。

エネルギー事業を軸に北陸地方でさまざまな事業を展開する日本海ガス絆ホールディングス(絆HD)は、01Boosterと共同でアクセラレータープログラム「NGAS-Accelerator Program」を運営。北陸地域への新しい価値提供を目指し、スタートアップとの共創を進めています。本プログラム採択企業の1社、テックシンカーはカーボンニュートラルに関するデジタルソリューションを提供するスタートアップです。

地球温暖化が深刻化する中、環境問題への対応は企業にとっても経営上の重要課題。CO2など温室効果ガス排出量の削減や、カーボンオフセット(排出を避けることができない温室効果ガスの排出量に応じて、他の場所での削減・吸収プロジェクトを支援し、トータルでの排出量を相殺すること)への取り組みが求められています。

こうした状況の下、日本海ガス絆HDグループのネクストプラスとテックシンカーは、富山県内の企業2社と共同で、カーボンオフセットのモデル事業(実証実験)を2023年に実施しました。その成果を、テックシンカーCEOの洪偉豪(コウ・イゴウ)氏、ネクストプラス取締役の牧田拓郎氏、日本海ガス絆HDのオープンイノベーション活動の窓口にあたる、日本海ラボ ОI推進チーム 鈴木健太朗氏に聞きました。

企業のカーボンオフセット対応状況に合わせた柔軟なアプローチ

「NGAS-Accelerator Program」デモデイで成果を披露するテックシンカーCEOの洪偉豪(コウ・イゴウ)氏

テックシンカーは2022年3月の設立。企業のCO2排出量の可視化やカーボンオフセット促進のためのデジタルソリューションを開発・提供しています。同社は単なるツール提供にとどまらず、事業価値向上や新規事業創出、売り上げ向上など、顧客企業の本質的なニーズに応えた、より大きな価値創造を目指しています。

一方のネクストプラスは日本海ガス絆HD傘下で、企業のカーボンニュートラル実現に向けた課題解決を支援するために、2023年4月に設立されました。同社は丁寧なヒアリングによってカーボンニュートラルに対する企業の対応状況を把握し、コンサルティングや設備更新工事などを通じて最適なソリューションを提案しています。

両社が今回取り組んだのは、「カーボンクレジットの地産地消」によるオフセットモデル事業。事業活動のカーボンニュートラル化に向けたアクションを企画するとともに、地域で創出された森林由来のカーボンクレジットを活用したCO2オフセットを行い、クレジットの地産地消、CO2のトレーサビリティ向上を図り、脱炭素と地域共生の両立を目指しました。

Image credit: Tech Thinker

実証実験に参画したのはいずれも日本海ガス絆HDグループの顧客企業で、富山県にある自動車部品製造業のファインプラスと、医薬品製造業の金剛化学の2社。2社は、それぞれ異なるアプローチでカーボンオフセットに取り組みました。

温室効果ガス排出量算定の国際的な基準では、排出量の捉え方として「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」という分類方法があります。スコープ1は、製品の製造などを通じて企業・組織が直接排出するもの。スコープ2は他社から供給された電気・熱などのエネルギーを使うことで、間接的に排出されるもの。さらにスコープ3では、原材料や部品の調達、工場や店舗などへの輸送・配送などサプライチェーンの上流と、販売した製品の配送・使用や製品廃棄などサプライチェーンの下流を含めた、サプライチェーン全体で排出される全ての温室効果ガスを対象とします。

Image credit: Tech Thinker

実証実験においてファインプラスでは、地球温暖化対策の推進に関する法律で定められた、温室効果ガス排出量の算定・報告にもその内容を生かしたいというニーズがありました。そこで事業活動で使用する社用車やフォークリフトから排出するスコープ1の温室効果ガスを対象とし、算定期間中に排出された8.9トンのCO2のオフセットを実施しました。

Image credit: Tech Thinker

一方、金剛化学では、医薬品原薬製造工場での節電活動に加え、2019年12月には蒸気用燃料を日本海ガスが供給する都市ガス(天然ガス)に燃料転換するなど、年間860トンのCO2削減を図ってきています。そこで今回はこれまでのスコープ1、スコープ2への取り組みに加え、従業員の通勤時に自家用車から排出される、スコープ3に該当する温室効果ガスのオフセットという新たな試みに挑戦。算定期間に排出された9.6トンのCO2をオフセットしました。

今回の実証では、企業のCO2排出の実態に合わせて柔軟にアプローチを変え、カーボンニュートラルに向けた各社の取り組みに応じた対応が実現しました。

地域の顧客の声を引き出し、共創でイノベーションを実現

北陸地方はものづくり産業の集積地として知られており、カーボンニュートラルへの注目も高い地域です。製造業にとって、石油や天然ガスといった従来の化石燃料の利用から脱却し、カーボンニュートラルを実現することは必須の課題となっています。

特に製造業におけるカーボンニュートラル実現には、CO2排出量の相殺に利用するカーボンクレジットへの対応や、総排出量を示すカーボンフットプリントの把握が必要で、そこにはデジタルソリューションが不可欠です。

今回の実証実験では、地域に根を張る日本海ガス絆HDやネクストプラスと、先進的なソリューションを持つテックシンカーが連携したことで、成果を上げることができました。日本海ガス絆HDの鈴木氏は、同社やネクストプラスが顧客の本音を引き出し、提案内容を絶えずブラッシュアップできる関係性が、モデル事業成功の鍵を握っていたとして、以下のように振り返ります。

弊社とお客さまの間で「言いたいことを言える関係」を構築していることは、商品やサービスが定まっていない実証段階の取り組みにおいて、大きな意味がありました。(鈴木さん)

日本海ラボ ОI推進チーム 鈴木健太朗氏

テックシンカーの洪氏は、自社単独では難しかった地域密着型のビジネスアプローチが、パートナーシップによって実現したことについて、こう語っています。

スタートアップにとって、地元企業との連携は実はハードルが非常に高く、地域に根を張るパートナー企業の存在は非常に大きいです。地元企業との対話を通じて、アクセラレータープログラムの限られた期間の中でもサービスの方向性を定めていくことができました。

私たちには顧客の本質的なニーズに応えるノウハウがあります。ネクストプラスさんとの連携を深めることで、より大きなインパクトを生み出せると考えています。企業からいただく率直な声を生かしながらサービスの方向性を絶えず見直す。その積み重ねが最終的には新規事業の創出や売り上げ向上に結びつくはずです。(洪さん)

テックシンカーCEOの洪偉豪(コウ・イゴウ)氏

カーボンニュートラル関連市場が拡大する中、ネクストプラスの牧田氏は、今後の展望について次のように述べています。

日本のカーボンニュートラルに関するマーケットは非常に巨大で、加速度的に拡大すると考えています。最終的なCO2削減に向けて、クレジットやカーボンフットプリントなど、当社単独ではなかなか対応できない領域があるので、テックシンカーさんとの連携をさらに強化したい。事業が立ち上がれば、私たちは設備の改修や更新なども担当する考えです。表面化していない顧客ニーズを私たちが深くくみ取り、共同でより大きな成果を上げられたらと考えているところです。(牧田さん)

ネクストプラス取締役の牧田拓郎氏

連携はまだ緒に就いたばかりですが、両社は既に確かな手応えを感じています。地域に根ざす既存企業と、テクノロジーを武器に掲げるスタートアップ。異なる強みを合わせることで、1プラス1が3、4以上の相乗効果を生み出せるかもしれません。全国に広がるカーボンニュートラルへの機運を力強く後押しする、異業種連携による新たなビジネスモデルの構築が、いま強く期待されています。

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