米国進出支援プログラム「Beyond JAPAN」、今年は4都市に拡大——昨年参加者が体験を披露

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昨年度の成果を披露する JETRO /経済産業省の津脇慈子氏
Image credit: Masaru Ikeda

経済産業省と日本貿易振興機構(JETRO)は、昨年からスタートアップのアメリカ市場進出プログラム「Beyond JAPAN」を運営している。これは、JETRO ロサンゼルスオフィスとロサンゼルスに拠点を置く起業家支援の LaunchStarz が共同で運営し、2023年度は、サンディエゴ、ロサンゼルス、オースティンの3都市で実施され、約60社の企業が参加した。

アメリカは各都市毎に強いスタートアップのバーティカルが異なる。サンフランシスコやシリコンバレー(ベリエリア)は、AI のスタートアップが幅を効かせる土地になってしまったが、それ以外の主要都市にも、さまざまなバーティカルに特化した個性豊かなスタートアップコミュニティが広がっている。Beyond JAPAN では、現地アクセラレータや大学などと連携し参加社を支援する。

Beyond JAPAN の特徴は圧倒的な成果主義だ。日本貿易振興機構(JETRO)ロサンゼルス次長で、経済産業省参事の津脇慈子氏は、アメリカからの資金調達、アメリカでのビジネスパートナー開拓、製品の市場適合性の検証の3つを実行することが、プログラムの大きな目的だと述べた。従来は日本国内で事業を立ち上げてから海外展開するスタートアップが多かったが、最近では大学生や社会人がアメリカでの創業を目指すケースが増えているという。

司会を務めた LaunchStarz の宮川聡氏、Kenny Lum 氏
Image credit: Masaru Ikeda

プログラムの流れだが、まずオンラインでスタートアップを選考し、選抜されたスタートアップに対してはオンラインでのピッチ練習などのトレーニングを行う。さらにその中から約60社を選び、アメリカの3都市で実際プログラムに参加してもらう。昨年度のケースでは約200社から応募があり、うち約120社が選抜されたという。現地参加は原則各社1名だが個別の相談にも対応する。

各拠点では2週間から8週間の実践的なプログラムが用意され、ピッチの改善、市場調査、パートナー開拓、人材採用など、スタートアップごとのニーズに合わせた手厚いサポートを現地アクセラレータなどの協力を得て提供する。プログラム終了後は、JETRO の別のイニシアティブ「Global Accelerator Hub」を通じて、LaunchStarz による継続的なフォローアップが受けられる。

18日には、Beyond JAPAN の第1回(昨年開催)参加者らを集めたアルムナイミーティングが都内で開催され、今年のプログラムに参加を検討している人々らと意見交換した。昨年の参加者からは、プログラム参加で得られたメリットや教訓、事前に準備しておいた方がいいことなどのナレッジが共有された。

<サンディエゴ(ライフサイエンス)> CUBICStars COO 大槻洋司氏、Spine Chronicle チーフエバンジェリスト 北川亮氏

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ライフサイエンスで知られるサンディエゴでは、UC San Diego(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の学内アクセラレータに参加することとなった。製薬企業向けに創薬の効率を上げるテクノロジーを提供する CUBICStars の大槻氏は、製薬業界が集積するサンディエゴに実際に足を運び、「現地のエコシステムを肌で感じられたのが大きかった」と振り返った。

日本の場合は製薬会社に直接営業しているんですが、アメリカは非常に広大でプレイヤーも違うので、戦略を変え、市場にアジャストするステップを早めに踏めたのは良かったと思います。ピッチを見に来てくれる人たちも一流なんですよ。シリコンバレーの著名な投資家とか、グローバルな製薬会社の事業部の方とか。多角的な視座で事業を考える経験をさせてもらえたのは、ありがたかった。

また、脊椎外科医で Spine Chronicle のチーフエバンジェリストを務める北川氏は、「アメリカでの医療機器認証の道筋が見えてきた点が大きな収穫だった」と語った。アメリカでスタートアップが医療機器を流通させるには、FDA(連邦医薬品局)の認証が必要だ。このプロセスを通過できるかどうかは、医療デバイスを開発するスタートアップの明暗を分けるといっても過言ではない。

我々の製品はプロトタイピング終盤なのですが、アメリカの市場に投入する上で、どんな道のりがあるのかはフィックスできていない状態でした。やらなきゃいけないことは山積みなのですが、何をしなければならないのか、プログラムに参加する中で徐々に教えてもらいました。規制に関する講義では、アメリカの認証をどうクリアしていけばいいかを詳細に先生が説明してくれるんです。

この先生というのは、ジョンという人物で正確な名前は明らかにされなかったが、自身も薬の事業を手掛けていて、どこに落とし穴があるか、実体験に基づいた知見を提供してくれたそうだ。日本で一定の知名度があれば、大学や研究室の人脈を通じて業界につながることも可能だろうが、アメリカでは役に立たない。そうした業界人脈の発掘にも、ジョン先生は大いに力になってくれたという。

<ロサンゼルス(メディアエンタメ)> Holotch CEO 小池浩希氏、timelyhero CEO Eric Wei(魏嘉宏)氏

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Wei 氏の timelyhero は、スキルや知識をデジタルコンテンツ化し、AI を活用しながら世界中に広めていくことをミッションとしている。そこで今回、アメリカでの業務提携先の開拓を図るため、プログラムに参加を決めた。現地では複数の有力企業とアポイントメントを取り、そのうちの1社と実際に業務提携契約を結ぶことができたそうだ。

一方、小池氏の Holotch は、 ホログラムをリアルタイムに撮影・配信する事業を開発している。海外展開する上で製品の価格設定や、市場に合わせたローカライズをどうするかといった課題を抱えていた。そこでプログラム参加を機に、VR/AR 分野の権威からアドバイスを仰ぎ、適正な価格水準の設定や、現地のニーズに合わせたプロダクトの改修ポイントを把握することができたという。

2週間にわたる濃密なプログラム期間中、両氏ともビジネス面でだけでなく、参加者同士の強い絆を築くことができた。Wei 氏自身がプログラムで共に参加した別の会社の取締役就任を招聘されるなど予期せぬ出来事も起きた。朝から深夜までセッションが用意されており、現地の商習慣や営業手法、ピッチの仕方など、実践的なノウハウを徹底的に学ぶ機会があったという。

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<オースティン(製造業とセキュリティ)> Kepler 創業者兼 CEO 坪井宏尚氏、Mathmaji COO 兼 CFO 大隈文貴氏

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坪井氏が率いる Kepler は、物理的な質感を画面に再現する「光学質感技術」の開発を手掛ける。従来のデザイン事業から参入したスタートアップだが、製品化に向けた資金調達や事業展開においては未知の領域だった。オースティンでのプログラムでは、坪井氏が日本で構築した人脈を最大限に活用し、国内の大手企業経営陣らと面会を重ね、アドバイザーを務める人材も確保した。「質の高い技術や製品があれば、アメリカでは確実に受け入れられる」と実感したという。

大隈氏らが率いる Mathmaji は、日本から生まれた算数カリキュラム教育コンテンツを、アプリの形でアメリカの子供たちに提供しようとする EdTech ビジネスだ。ホームスクーリングに特化した C 向けモデルを採用し、アクセラレータのネットワークを最大限に活用して、ユーザリサーチを実施した。

「継続的な開発に向けて、ユーザの声を直接拾えたことは大きな収穫」と大隅氏。日米を問わず、投資家からは依然として EdTech 全般への懐疑的な見方があるものの、「スケールさせてマネタイズできるビジネスモデルを早期に示す必要がある」と着実に前進する考えを示した。

シリコンバレーほどの知名度はないものの、オースティンは最近注目を集める都市だ。Tesla などのの本社が置かれ、カリフォルニアからの企業流入が相次ぐなど、〝シリコンヒルズ〟の名前で親しまれつつある。坪井氏も大隈氏も活気に満ちた街の雰囲気を高く評価し、オープンな人々との出会いも印象的だったという。カウボーイ文化の名残も見られ、地域色を体感することができたようだ。


今年の Beyond JAPAN では、昨年の3都市に加え、航空・宇宙分野の産業集積で名高いデンバー・ロサンゼルスが追加される。現地滞在期間については、参加者の裁量範囲を高める観点から、2週間か4週間かを選べる。採択された場合、プログラム参加や滞在のための費用は無償だが、渡航費は当事者による実費負担が必要となる。応募締切は5月31日(日本時間)。

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