TENTIAL、YOUTRUSTに見る社内カルチャー形成の極意とは〜90年代生まれ対象カンファレンス「YouthS」から

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左から:TENTIAL 代表取締役 CEO の中西裕太郎氏、YOUTRUST 執行役員でキャリア事業責任者の金子彰洋氏
Image credit: Masaru Ikeda

HIRAC FUND と、同ファンドのディレクター甚野広行氏ほか複数名の有志は11日、都内でビジネスカンファレンス「YouthS(ユースエス)」を開催した。YouthS が開催されるのは2022年10月に続いて2回目。スタートアップ界隈で仕事に励む、主に90年代生まれの若者を対象としている。今回は約200名が参加し、事業運営などに関わるセッション3つと、スタートアップシーンをにぎわせるトピックについて、各専門分野の有識者らを招き、10以上のワークショップなどが開催された。

このイベントは事前登録に基づいて主催者が了解した人のみが参加できるクローズドなもので、登壇者はスタートアップ経営者らを中心に社の内情などを赤裸々に語るため、セッションの中身はオフレコに設定されている。BRIDGE の読者の知見を高めてもらうことを意図して、「社内カルチャーの形成の極意」というセッションについて掲載の了解を得た。このセッションには、TENTIAL 代表取締役 CEO の中西裕太郎氏と、YOUTRUST 執行役員でキャリア事業責任者の金子彰洋氏が登壇した。

<参考文献>

週末の日中にもかかわらず、このセッションには多くの人が集まっていた。
Image credit: Masaru Ikeda

TENTIAL は、2018年、インフラトップ(2018年に DMM が買収)出身の中西裕太郎氏により創業(当時の社名は Aspole)。同年、Incubate Camp 11thSPORTS TECH TOKYO に採択された。2019年、身体のコンディションを整えるインソール「TENTIAL INSOLE(当初の名前は「TENTIAL ZERO」)」を発売。最近では、特殊繊維を使ったリカバリースリープウェアブランド「BAKUNE」がメディアなどで人気を呼んでいる。

YOUTRUST は2017年12月。ディー・エヌ・エー出身の岩崎由夏氏(代表取締役)らが設立したスタートアップだ。「友人の友人」までのつながりがある人物の副業や転職意欲を可視化できる「YOUTRUST」を2018年4月にローンチした。常々から転職を意識しているわけではないが、自分のキャリアパスの方向性を意識している人々に、日常からの気づきを投稿・共有するソーシャルネットワークとして YOUTRUST は活用されている。金子氏はサイバーエージェント出身で、2021年10月に YOUTRUST に参画した

社内カルチャー形成の変遷 …… ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)はいつ変えるか

TENTIAL 代表取締役 CEO の中西裕太郎氏
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TENTIAL は、チームの進むべき方向、追求すべき価値観を共有するために、ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)を掲げる。MVV をそれぞれ日本語で言い換えるなら、使命、理念、行動指針と訳されるが、MVV を初めて紹介したのは、現代の企業マネジメントの父とも称される経営学者のピーター・ドラッカー氏だ。彼が著書「ネクスト・ソサエティ(原書名:Managing in the Next Soceity)」で2002年に発表した概念を採用している企業は、大企業にもスタートアップにも多くみられる。

TENTIAL の MVV の変遷
Image credit: Masaru Ikeda

TENTIAL は自社サイトに MVV を掲載しているが、創業から5年を経て、これまでに MVV を2回改めていて、現在のものは3つ目ということになる。特にビジョンについてはファーストビジョンと位置付け、それを達成したら、また次のビジョンを目指す、という体制を敷いているそう。バリューがスタンス、スキル、カルチャーの3つに分かれているのは、スポーツから IT 界に飛び込んだ中西氏ならではの工夫だ。スタンスだけあってもスキルが無いと太刀打ちできないこと、皆を巻き込む力を重視して取り入れたという。

YOUTRUST 執行役員でキャリア事業責任者の金子彰洋氏
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一方、2017年12月に創業した YOUTRUST は創業4年目にしてバリューの改定を迎えた。金子氏は入社するかしないの端境期だっため、バリュー改定の詳しい経緯について語れることは多くないとしながらも、この時期に YOUTRUST の社員規模が15人規模を超え、人事担当がチーム内に設置されたのを受け、より社内カルチャー作りに注力しようという流れに繋がったという。現在使われているビジョン「日本のモメンタムを上げる偉大な会社を創る」は、昨年5月に定められたものだ

YOUTRUST の MVV の変遷(上半部が以前のバリュー、下半部が現在のバリュー)
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以前のビジョンは「人材領域で一番強くて優しいチーム」というものだった。社員規模も40名を超えてくる中で、ミッションやビジョンの捉え方が人によって違うこと、それに、手がける業務分野が、もはや HR や転職領域だけに閉じたものではなく、労働市場全体を変えていこうと意思決定したのを受け、それをビジョンの文言に反映したという。会社の規模や守備範囲が成長するにつれ、足かせになり始めていたビジョンを、より適した形に改めたというわけだ。

社内カルチャーの浸透 …… 日常的に使い続けることがカギ、ARRやチームのモチベ向上にも

左から:TENTIAL 代表取締役 CEO の中西裕太郎氏、YOUTRUST 執行役員でキャリア事業責任者の金子彰洋氏
Image credit: Masaru Ikeda

金子氏は YOUTRUST 入社直後にキャリア事業部の責任者に着任するが、明確な数値的営業目標が設定されていないことを知って、状況を改善する必要があると感じたという。社員に、ある目標を達成しようとか、数字を追おうとする意識を持ってもらうために、何らかの標語が必要だと考えた金子氏は、「押忍マン(オスマン)」という言葉を生み出した。この言葉はバリューよりも深く浸透し、入社半年で ARR を約2.4倍引き上げるまでに至った。

押忍マンの意味は、端的には「気合を出して頑張ろうぜ」ということ。金子氏の note によれば、「やり切ること。ストレッチな目標に対して、できるできないではなく、何をすれば達成するのか?に執着し、考えぬくこと!」とある。実はこの言葉は、金子氏らから言葉を受け止めたインターン生が、YOUTRUST の卒業エントリで投稿したものだという。今や、社内 Slack で押忍マンのスタンプが存在し、それをメッセージに付け合うことでチームの結束力を高める効果も生み出しているそうだ。

TENTIAL では、バリューを構成する「Essential(思考力)」「Dynamic(動的な活動)」「Buddy(信頼獲得)」の3つの要素について、影響範囲(グレード)に応じた要件を定義。これらをどれだけ満たせているかというバリュー評価と、ミッションとビジョンについての OKR による成果評価に基づき、半期に一度、最終評価を実施しているという。バリューを体現することは、個人のキャリアとってもポジティブに働くため、社員にとってバリューを大事にすべき理由がより明確になったと思う、と中西氏は語った。

また、中西氏は MVV を浸透させる上で、映像化することも重要では無いかと指摘した。ビジョンの語源はそもそも見ることであっ利、言葉にしてみても、社員が増えていったときに社員がその言葉で共通の理解をするのには限界があるだろう、と言う。映像化することで同じビジョンを共通理解できる可能性は高まるため、そのような挑戦にも取り組んでいきたいということだった。ビジョンを分かち合う際に、チームのメンバーが同じ映像を頭の中でイメージできるかどうかは、チームのその後の一体感を大きく左右するだろうとのことだった。

会場では、専門家を招き、スタートアップ界隈のさまざまなトピックに関するワークショップも開かれていた。
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