激動するスタートアップ環境(2)BASE と note の上場:「道半ば」の今、彼らの成長はどこに向かう #bdashcamp

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noteは逆風の中、上場を選択した。写真/取締役CFOの鹿島幸裕さん

本稿は、5月22〜24日に開催されている B Dash Camp 2024 Spring in Sapporo の取材の一部。※会員限定記事ですが、カンファレンス開催期間中は無料公開いたします。

引き続き B Dash Camp のレポートをお送りします。オープニングのセッションでまとめたように、ここ数年、マーケットが経験した21年のピークと下落はスタートアップの成長、特に「国内の」レイターステージにおける経営戦略に少なからず影響を与えることになります。

顕著な例が IPO です。セッション「株式市場と向き合う経営戦略 〜グロース市場で成長を止めないためには?」に登壇した上場経験スタートアップたちの声は、その生々しい状況を共有するものでした。

ストアフロント型コマースの BASE が上場したのは2019年10月。時はまさにこれから巻き起こる未曾有のパンデミックを目前にしたタイミングでした。上場承認時の仮価格は評価額にしておよそ300億円規模。しかし、この後、BASE はとんでもない追い風を受けて空高く舞い上がることになります。

「(パンデミックで)海外でも Shopify などコマース関連の株価がすごいことになって。BASE も一時、時価総額で2,500億円ぐらいにまでいって」(BASE 代表取締役、鶴岡裕太さん)。

実はこの時、タイミングよく進めていたのがファイナンスでした。BASE は諸事情から上場時の公募では大きく調達せず、上場後のマーケットで150億円前後の資金を集めることに成功しているのですが、株高は当然、彼らにとって追い風になりました。

マーケットが味方になった BASE に対して、大きな逆風の中での出航となったのが note です。ピークと言われた21年の翌年、22年の年末に IPO を果たします。いわゆるダウンラウンドでの上場ということもあり、当時、この件はセンセーショナルな話題として様々な形で取り上げられます。「冬の時代のIPO」で当時の状況を公開している取締役 CFO の鹿島幸裕さんは、状況を次のように振り返ります。

「私は(IPOは)出れるときに出るっていうのが一番いいと思ってまして、もちろん状況がいい時に出たほうがいいに決まってるんですけども、じゃあよくなるまで1年ずらします2年ずらしますってのは個人的にはそうじゃない。もちろん延期するっていう選択肢もありました。ただ、私の思ったこととしては、そんなにマーケットは回復しないだろうなっていうものでした。1年待ってもダウンラウンドという状況も変わらないので、2年でもそこまで回復しないと思ってました」(鹿島さん)。

上場の顛末そのものは鹿島さんの note に詳しいのでそちらに譲るとして、印象に残ったのが鶴岡さんの言葉です。BASE は先に上場を果たした先輩企業であると同時に、note のレイターラウンドで出資をした株主でもありました。上場前のエピソードを次のように明かします。

BASEはnoteの株主として上場の選択を後押ししたひとり。写真/BASE 代表取締役、鶴岡裕太さん

「上場前に社長の加藤(貞顕)さんとご飯に行ったりしながら(上場に関する)相談をしていただいたりしたんですが、もうとにかくすごく大変そうだったんです。もちろん株主の立場としては(ダウンラウンドについて)いろんな意見を持つじゃないですか。ただ、加藤さんや鹿島さん、現場の状況の話をお聞きしてノールックで上場しましょう、という感じでしたね。合理的に考えると来年の方が業績も伸びてるし、株価いいんじゃないですかっていうアドバイスをいろいろな方からいただくわけですよ。けどそういう問題じゃない。メンタルが持つか持たないかの問題。そういう風景を note さんの上場で経験させてもらいました」(鶴岡さん)。

様々なストレスを乗り越えて上場を果たした note。上場の大きなメリットのひとつに公開市場におけるファイナンスがありますが、それ以外、このセッションのテーマでもある、上場後の成長戦略においてどのような効果があったのでしょうか。鹿島さんは打ち手に幅が出たと言います。

「コーポレートアクションがどんどん打てるようになったんです。まだ M&A はしてないんですけど、子会社の設立はしてます。note には膨大なテキストデータがあるので(設立した AI 関連の子会社は)相性いいんです。これは AI のトレンドが23年にあったので、よし作って投資をするぞとなったわけなんですが、もしこれが上場審査中で、さらに最後の方だったら多分できてなかったと思うんです。あと新規事業もこれぐらいの投資をしてというのがちゃんと IR で説明すれば決定できるし、本質的じゃない議論がなくなったりする効果がありましたね」(鹿島さん)。

上場には経営陣含め、社員や多数のステークホルダー、上場に関する関係者が関わることになります。上場というプロセスを経た方が本質的な経営ができる。そう理解しているからこそ、最後の鶴岡さんのような「ウェットな」ひと押しというのは大切な気がしました。

「本当にマーケットが悪いタイミングで上場しましたが、結果的にそれは正解だったと思ってます。もちろん上場するもしないも、延期するも、別に不正解というわけじゃないんですけども、自分の選択肢を正解にするというつもりで(やるべき)。あまり起業家の方が、いついつ上場ですとか何かタイミングを見計らって、というよりは、やはり自分のプロダクト・サービス、お客様とか、そういうところに集中して、本質を伸ばすのが世界を変える近道かなと思ってます」(鹿島さん)。

B Dash Camp のセッションレポート、最後はグロース企業の打ち手「M&A」に迫ります。

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