激動するスタートアップ環境(3)クラウドワークスが科学したM&A:「道半ば」の今、彼らの成長はどこに向かう #bdashcamp

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クラウドワークス代表の吉田浩一郎さん

本稿は、5月22〜24日に開催されている B Dash Camp 2024 Spring in Sapporo の取材の一部。

B Dash Camp のレポート最終回です。

オープニングのセッションではここ数年、特にバブルと言われた2021年のピークアウトを転換点とする市場の変化により、PSR 重視の成長「いったれ」モデルから利益とのバランスを考えた株主提示が必要になった、という大まかな流れが語られました。とあるキャピタリストにもお聞きしたのですが、PSR の指標が踊ったのは2000年の IT バブルの時期に遡るそうで、利益はいらないからとにかく成長というお祭りは終わり「まあ、落ち着けよ」という冷静な状態に戻ったというのが肌感覚としてあるようです。

上場のタイミングについてはコロナ禍が追い風となった BASE と、ピークアウト後に上場を選択することになった note という、象徴的なケーススタディの裏話が語られました。

ということで最終回は具体的な成長戦略のひとつ、M&A についてまとめてみたいと思います。今回のカンファレンスでは M&A に関する話題が多く、さまざまなケースが語られていたのですが、特に注目したのがクラウドワークスの事例です。

M&A が成長戦略の柱になったクラウドワークス

クラウドワークスの中期計画「YOSHIDA300」4割はM&Aでの達成を掲げる/クラウドワークス2023年9月期決算資料より

B Dash Camp の「グロース企業の成長に M&A は必要か? ~ストロングバイヤーに迫る(AGS コンサルティングの廣渡嘉秀さんモデレート)」というセッションには今、大いに話題になっている GENDA を手がけたミダスキャピタルの寺田修輔さんが、短い時間でキャッチアップできる貴重な時間を共有されていました。ただ、この話題は各所で語られていることもあるので、機会があれば別稿にて触れたいと思います。

話を元に戻します。クラウドワークスでは上場後に株式交換など含め下記の企業をグループ入りさせています(2023年9月期通期決算説明資料より)。

  • Graviee – 2017年
  • 電縁 – 2017年(後の CrowdLog)
  • CODEAL – 2021年
  • Peaceful Morning – 2022年10月
  • グルト – 2022年
  • シューマツワーカー – 2023年4月
  • ユウクリ – 2023年10月

実はクラウドワークスでは、2021年にグループ入りした CODEAL 以降、毎年 M&A を発表しており、それぞれシナジーを活かしながらきちんと増収を果たしているそうです。例えば2017年にグループ入りした電縁(後にグループからは離脱)が残した事業「CrowdLog」は現在の SaaS の柱として記載されていますし、2022年にグループインした RPA 特化のエージェントマッチング「Peaceful Morning」ではトップライン成長を継続しつつ、23年度には黒字転換を果たします。

クラウドワークスの経営変遷。ここ数年はM&Aによる拡大を模索している

セッション前に代表の吉田浩一郎さんに話を聞く機会があったのですが、一番大きく変わったのは戦略の解像度です。現在、クラウドワークスでは「YOSHIDA300」という中期経営計画を2022年に掲げており、マッチング、SaaS、M&A を通じて2025年までに年間売上高300億円・EBITDA25億円を目指すとしています。そしてこの M&A で目標額の約4割を達成する計画なのです。この計画を達成するためにも、自社の強みを徹底的に言語化し、シナジーを生み出せる組み合わせがどのようなものになるか、実務に落とし込んだそうです。

クラウドソーシングスタートアップ、上場後の答え合わせ

スポットコンサルという文化を作ったビザスクもクラウドソーシングの一種。2021年には同業の Coleman を1億200万ドルという巨額で買収

では、どのあたりまで M&A 戦略の解像度をあげたのか、それが語られたセッションの詳細をお伝えする前に、上場していったクラウドソーシング各社の状況を簡単におさらいしてみたいと思います。対象になるのはクラウドワークス、ランサーズ、ビザスクの3社です。それぞれオーガニックの成長に加えて M&A を取り込んでいます。

クラウドソーシングにはざっくりとプラットフォーム型(クライアントと働き手を自由にマッチング)とエージェント型(クライアントとの間に事業者が入りアレンジ)に分かれます。前者は手数料モデルに対し、後者は高単価のフィーモデルになります。

2019年に上場したランサーズは、国内プラットフォーム型クラウドソーシングの元祖としてサービスを開始し、上場後初となる通期決算の売上が約34億円(2020年3月期)。最新の2024年3月期通期売上が約45億円です。

一方、2020年に上場したビザスクはスポットコンサル事業の「ビザスク interview」をコア事業とした事業を展開しています。クライアントはコンサルファームや PE などで単価も1口座(クライアント)あたり190万円(2023年通期実績)と高単価なのが特徴です。上場後初の通期決算は売上9.8億円(2020年2月期)ながら、最新の2024年2月期には売上約89億円にまで拡大しています(数値は全て2023年通期決算資料より)。

この2社の違いはクラウドソーシングと一言で括ってもこれだけの幅があることを対比させるものなのですが、もうひとつ、大きな特徴として M&A への取り組みがあります。詳細は割愛しますが、ランサーズはこれまで目立った買収としてパラフト(2017年買収、現在の Lancers Agent)や MENTA(2020年買収)がありますが、基本的な売上構造のほぼ全てが祖業のプラットフォーム事業で占められています。

一方のビザスクは大型買収を実行しました。海外版ビザスク(エキスパートネットワークサービス・ENS)の Coleman を1億200万ドル(当時のレートで約112億円)という巨額で買収したもので、国内だけだった同社の売上構造に「海外」を大きく加えることに成功しています。しかし買収直後の22年、23年とグローバル ENS 市場全体が停滞し、その煽りを受けて計画を大きく下回ることに。買収時の「のれん」を全損して約144億円の損失を計上、利益を大きく押し下げる結果となったのです。

本題から逸れるのでこれらの買収の詳細や評価には触れませんが、同じくクラウドソーシングという領域において象徴的なケーススタディとして挙げさせていただきました。その上でクラウドワークスの取り組みを眺めると、理解が進みやすいです。

クラウドワークスの M&A 戦略

個別取材に応じてくれた吉田さん

ではここから、吉田さんが実際にセッションで語った内容を元に、決算書に開示されているその戦略についてポイントをまとめてみたいと思います。

買収先企業がグループインする「価値」を指標化できているか

まず最初に失敗からです。クラウドワークスは、2017年に受託事業「電縁」を買収しましたが、経営統合(PMI)に失敗し、事業を売却するという苦い経験をしました。この経験から、同社は自社の強みを見直し、PMI 時、買収先の企業がグループインすることに対して「付加価値」を出せる5つの指標を定義したといいます。

「(M&A の)リードとしては今、350件を超えてきてまして、初回面談で139件、DD10件で完了直近2件というところを7名の体制でやってます。ひとつ我々のターニングポイントだったのは2017年の電縁という受託事業を買ったんですけど、結局売却したんですね。この時、全く PMI ができなかったんです。この撤退の経験から、我々自体の強みは何かっていうことを定義しました。

ひとつがプラットフォームによる年間60万人のワーカーのデータ提供、あるいは9万社のクライアントのデータを提供することによる PMI。二つ目がプラットフォームのビジネスとエージェントモデルを両方持っていること。三つ目が生産性向上のモデル、四つ目が営業効率の仕組み化(CW Sales Model)という営業のノウハウ。五つ目がアカウントセールスの1社あたりの契約単価を例えば1人契約だったのを10人にするみたいなモデルですね。これらのモデルをアセットとして持っていて、この五つの指標で何か PMI に対して付加価値が出せるっていう仮説があった場合のみ、買収をするという転換をこの2022年からしました。基本的には買った会社を全て伸ばしてます」(吉田さん)。

具体的な例として23年10月にグループインしたクリエイターの人材事業「ユウクリ」があります。1984年設立の同社が持つ常駐・派遣クライアントに対しフリーランスなどの新たな選択肢を提供することで23年度に赤字体質だった経営は24年度から黒字化の目処がついているそうです。

M&A によるケイパビリティの拡大

M&Aで議論の対象になる「のれん」。利益圧迫で市場から嫌われるが、クラウドワークスではそれを見込んでの計画を立てる

M&A による成長を計画の柱とすることで、意外な効果もあったようです。それがケイパビリティの拡大です。

その事例が今年3月に公表した、生成 AI ツール開発「AI tech」の株式交換によるグループインです。創業2022年で買収時に3名の小さな会社ながら、彼らの開発する生成 AI を活用した副業サポートツールは公表時点(3月26日)で11万人が利用し、ARR は1.9億円に到達しているそうです。同社をクラウドワークスは完全に株式交換の形で約18万株(想定の価格レンジは1,380円~1,660円)にて買収しています。

吉田さんに個別に話を聞いたのですが、当然、この売上規模と成長率であれば、価格的によい条件の話もあったそうです。ただ、ここは先に挙げた買収に関わる解像度の高さや、これまでの実績が彼らの心を射止めたという話でした。全株交換という取引からみても、今後の事業成長に期待したことは明らかです。

「ケイパビリティの拡大は起業家にとって勉強になると思うんですけど、ウチもこれまでどうやっても AI の会社じゃなかったんですね。人材の会社で AI が絶対必要だということで、去年はですね、どうにかして AI の事業を考えていろいろひねり出した結果、この AI tech という会社が(M&Aの)リードに上がってきたんです。それで向こうも一緒にやりたいと言ってくれて、1年で2億円近くの売り上げがある生成 AI の会社を3億円分の株式交換でグループ化できたんですよ。個のためのインフラを一緒に作ろうということでこれはとても意義のあること」(吉田さん)。

ということで B Dash Camp のラップアップいかがだったでしょうか。もちろん、この3つの記事は今回、全体として設定されたテーマの一部分にすぎません。個人的に興味があったのは規制の話(ライドシェア)と生成 AI による新たな市場創造でした。これらの話題はまた、機会があればまとめてみたいと思います。

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