スポーツデータはビジネスになるのか?——ユーフォリアの戦略と挑戦を聞く【KDDI推しスタ】

ユーフォリア 代表取締役Co-CEO 橋口寛氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

スポーツ界のデジタル化が進む中、いち早く独自のデータ分析技術を持ち込み、業界に新風を吹き込んだのが2008年創業のユーフォリアです。看板サービスとなった「ONE TAP SPORTS」はサッカーやラグビーなどメジャーな71の競技で活用が進んでいます。

また、近年では新たにM&Aで取得したスポーツ管理SaaS「Sgrum」が拡大しており、この二つの主力サービスを軸に、トップアスリートから一般のスポーツ愛好家まで幅広いユーザーをカバーし、さらにはスポーツ界の枠を超えた事業展開を図ろうとされています。本インタビューでは、代表取締役Co-CEOの橋口 寛氏に事業戦略と未来のビジョンについてお伺いしました。

スポーツデータをビジネスにできるのか

ユーフォリアの事業は、主に二つの柱で構成されています。一つは2012年に開発が始まった「ONE TAP SPORTS」で、もう一つは2023年3月にM&Aで取得した「Sgrum」です。 ONE TAP SPORTSは、主にトップアスリートや代表チームをターゲットとした選手のコンディション管理サービスで、ラグビーやバスケットボール、バレーボールなど現在26の競技のメジャースポーツ代表チームに使用されています。一方、Sgrumは小学生、中学生、未就学児を対象とした習い事スクールやチームの運営管理ツールとして機能しています。橋口氏は、この二つのサービスの位置づけについて次のように説明しています。

Sgrum(スグラム)

ONE TAP SPORTSは2012年から開発を始めた当社の歴史が最も長いサービスです。一方、Sgrumは昨年M&Aで取得しましたが、急速に成長しています。現在、ユーザー数は13万人を超え、今後さらなる拡大を見込んでいます。(橋口氏)

ユーフォリアの強みは、トップアスリートから一般のスポーツ愛好家まで、幅広いユーザーから日々大量のデータを収集できる点です。これらのデータを基に、スポーツ科学とコンピュータサイエンスの知見を組み合わせた独自のアルゴリズムを開発し、より精度の高い予測や分析を可能にしています。

では、具体的にどのような可能性があるのでしょうか?
橋口氏によると、同社が保有するトップアスリートのコンディショニングデータは他に類を見ないほど網羅的で、これが大きな競争優位性となっているそうです。

我々が持っているデータの特異性は非常に高く、トップアスリートのコンディショニングデータをここまで網羅的に持っている会社は他にありません。バイタルデータはもちろん、選手の主観と客観、プレー中の負荷、日々のリカバリー状況など、様々な切り口で大量のデータが揃っています。これらを基に(個人情報を除いた上で)、独自の予測アルゴリズムを開発しています。(橋口氏)

ONE TAP SPORTS

興味深いのは、ユーフォリアがこの結果をスポーツデータの分析にとどまらず、そのノウハウを他分野にも応用しようとしている点です。橋口氏は次のように語ります。我々は『インダストリアルアスリート』や『タクティカルアスリート』という概念を提唱しています。例えば、トラック運転手やパイロット、倉庫作業員、そして警察官や消防士など、身体を使う職業の方々です。

これらの方々にもトップアスリート向けのコンディショニングと同じようなサポートが有効だと考えています。 また、臨床試験や製品開発におけるエビデンス取得支援など、一般企業向けのデータマネジメントサービスも手がけています。これらの取り組みは、スポーツ界で培った知見を他分野に拡張し、新たな市場を開拓する戦略の一環と言えるでしょう。

橋口氏は事業拡大の方向性について、今後数年の足元となる成長ドライバーとしては、Sgrumを中心とするプラットフォームサービスに注力する一方、その先の成長エンジンとしては法人向けビジネスを視野に入れていると述べました。

我々はこれを『グレータースポーツマーケット』と呼んでいます。スポーツ発のソリューションを、スポーツに近しい分野に提供することで、市場を拡大していく戦略なんです。(橋口氏)

スポーツと決済の相性

もうひとつ、ユーフォリアの柱となるSgrumもまた意外な点で成長ドライバーとして貢献していることを明かしました。特に注目すべきは決済です。Sgrumは部活などの学校・市民スポーツの管理SaaSです。市民スポーツ活動に必要な会員管理やスケジュール、コミュニケーションなどをまとめたクラウドサービスですが、ここに月謝などを徴収するための決済管理機能がついています。一般的にこうしたツールを導入する際、課題となるのが「コストセンター」としての負担増大ですが、橋口氏はその逆、プロフィットセンターへの転換が可能になると語ります。

例えば、Sgrumを導入することで、会費徴収が効率化できるだけでなくオリジナルグッズや写真などの販売が可能になります。これにより、導入先の収益向上に貢献できます。我々はこれをコストセンターからプロフィットセンターへの転換と呼んでいます。月謝などの集金についても意外と手間もかかり苦労しているケースが多くあります。そこがDXされて未収率が下がるだけでもチームの収益は大きく改善します。(橋口氏)

橋口氏によれば、そこにオリジナルグッズの販売などを組み合わせることで、さらなる収益化が可能になっているそうです。

また、全国大会出場チームなどにある寄付金やスポンサー費などもアマチュアスポーツにとっては貴重な収益源になります。従来であれば銀行振込や場合によって手渡しのような状態だったものをデジタル化することで、資金集めを効率化・多様化できる可能性が高まるはずです。橋口氏のお話によれば、こうした形でスポーツ全体に流通する決済額は非公開ながらかなり大きな金額になっているとのことでした。

我々の目標は、スポーツを通じて社会全体に価値を提供することです。テクノロジーの力を借りて、スポーツの可能性を最大限に引き出し、より多くの人々がスポーツの恩恵を受けられる社会を作っていきたいと考えています。(橋口氏)

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