【AEA卒業生の声】特許技術をもとに電力調整システム展開、世界の再エネ活用に貢献するエクセルギー

エクセルギー 代表取締役副社長CFO 大島俊氏

本稿は、アジア・アントレプレナーシップ・アワードのウェブサイト記事からの転載。アジア・アントレプレナーシップ・アワードでは現在、出場スタートアップを募集している(2024年8月19日まで)。詳しくはこちらから。

再生可能エネルギーの普及が世界的に加速する中、電力の安定供給を実現する技術の重要性が高まっている。この課題に革新的なソリューションで挑戦しているのが、東京大学発のExergy Power Systems(エクセルギー・パワー・システムズ、以下、エクセルギーと略す)だ。

2011年の創業以来、同社は独自の蓄電池技術とそれを活用したエネルギーの需給バランスを整えるバーチャルパワープラント(VPP)に活路を見出し、欧州市場での成功を足がかりにグローバルな展開を進めている。2019年にはアジア・アントレプレナーシップ・アワード(以下、AEA)に採択され、これが成長に向けた契機となった。

エクセルギーの技術的特徴、事業戦略、そして未来のエネルギー像について、エクセルギー代表取締役副社長CFO大島俊氏に話を聞いた。

再エネ促進で追い風のVPPと、それを可能にするパワー型電池

再生可能エネルギー(再エネ)の普及に伴い、VPP(Virtual Power Plant)の重要性が高まっている。VPPは、太陽光や風力発電など、天候や時間帯により出力が変動する再エネの管理に特に有効だ。

日本の再エネ比率は現在20%程度だが、40%程度のアイルランドでは安定化が困難で瞬間的な停電が発生している。日本も再エネ比率の上昇と火力発電所の退役により、電力安定化の課題が予想される。VPPはこの問題をエリア毎に解決する可能性がある。

分散型電源を個別に管理すると、電力系統の安定性維持が難しくなる。VPPは分散型電源を統合的に制御し、個々の変動を相互補完して出力を安定化させる。供給と需要の両面から柔軟に対応することで、再エネの導入率向上と電力系統の安定性確保を両立できるわけだ。

エクセルギーが開発するVPPサービスは、再生可能エネルギーの普及とともに注目を集めている。個々の電源を統合制御し、あたかも一つの発電所のように運用するこのサービスは、既存の発電資源を有効活用できることから、エネルギー管理の新たな可能性を開いている。大島氏は、エクセルギーのVPPの特徴を次のように説明してくれた。

エクセルギーのパワー型電池とVPPサービスを組み合わせれば、より高度な電力制御が可能になります。例えば、工場や病院が持つ自家発電設備にパワー型電池を後付けし、それを統合制御すれば、BCP(事業継続計画)対策や需給調整市場への参加など、多様な付加価値を生み出せます。 この『電池+制御』の組み合わせは、エクセルギーの大きな強みでユニークな点となっています。

大島氏の話に出てきた「パワー型電池」とは何なのだろうか。どうやら、エクセルギーの開発するVPP基盤となっているようだが、独自開発したこの電池について、大島氏は次のように説明してくれた。

我々のパワー型電池は、短時間の電力供給に特化しています。長時間の電力供給は苦手ですが、その代わり少ない電池容量から瞬時に大きな電力を効率的に供給できるのが特徴です。

この特性は、従来の蓄電池とは一線を画す。例えば、一般的なリチウムイオン電池は長時間の電力供給に適しているが、急な出力変動への対応は得意ではない。一方、エクセルギーのパワー型電池は、わずか0.02秒で最高出力に到達するという。

エクセルギーのパワー型電池が真価を発揮するのが、既存の発電設備とのハイブリッド運用だ。例えば、非常用発電機と組み合わせる場合を考えてみよう。

ディーゼル発電機は、起動から最高出力に達するまでに時間がかかります。その間の電力供給をパワー型電池が担うことで、1秒たりとも停電しないハイブリッド電源を実現できるんです。

この組み合わせは、特に工場や病院など、瞬間的な電力供給の途絶が許されない施設で重要な役割を果たす。

独自の電池構造がもたらす優れた放熱性能

エクセルギーのパワー型電池を支えているのが、独自の蓄電池構造だ。従来の大型蓄電池システムでは、発生する熱を制御するために大規模な冷却システムが必要だった。しかし、エクセルギーの技術では、空冷のみで十分な冷却が可能となる。

大島氏は、この技術的優位性についてこう説明する。

一般的な電池とは異なるタイプの構造を採用することで、放熱性を向上させています。この技術により、充放電を繰り返しても熱による性能低下や安全性の問題が生じにくくなります。我々の電池は放熱性が高いので、冷房などで冷やさなくても、換気ファンで熱を逃がすだけで安定的な運用ができます。

この技術の特徴は、材料ではなく構造にある点だ。エクセルギーは既存の電池材料を使用し、その構造を最適化することで、短期間での製品化を実現した。

大学発の電池スタートアップとしては、革新的な材料の開発から開始することが多いですが、製品化まで数十年単位の時間がかかるケースも珍しくないのが実態です。これは、スタートアップの時間軸とは合いません。そこで、我々は電池材料は既存の技術を活用し、放熱しやすい独自構造を採用することでイノベーションを生み出したんです。

独自の放熱技術により、エクセルギーの蓄電池システムは高い信頼性と安全性を実現している。これは、特に大規模な電力貯蔵システムや、高負荷環境下での使用において重要な利点となる。

世界展開を見据えた戦略と、日本市場参入への課題

エクセルギーの事業戦略の特徴は、創業当初から海外市場を視野に入れていた点だ。大島氏は「日本国内には当時、我々の技術やソリューションに合うマーケットがなかった」と振り返る。そこで同社は、再生可能エネルギーの導入が進む欧州市場に着目した。その足がかりとなったのは、ハワイ・カウアイ島でのプロジェクトと、ドイツのアーヘン工科大学のプロジェクトだった。

世界で一番再生可能エネルギー、特に太陽光発電の導入が進んでたカウアイ島で実際に商用スケールでの製品・サービスを実証できたこと、そして欧州有数の重電分野の研究拠点であるアーヘン工科大学で実証ができたことが、アイルランドやイギリスでの商用参入につながりました。 欧州はマーケットを通じたサービスの調達を行う制度設計がうまくできています。様々な国の様々な技術・ソリューションをオープンマインドで採用する姿勢があり、我々のようなスタートアップが参入しやすい市場環境となっています。

エクセルギーの海外戦略は、ユニークだ。「我々は『島・半島戦略』を取っています」と大島氏。これは、電力系統の連携が弱い地域を重点的に攻略するという戦略だ。

例えばドイツは再エネ導入が進んでいますが、周辺国と電力網で繋がっているため、瞬間的な電力不足は周りから補完されてしまう。一方、島や半島は独立した需給バランス調整が必要なので、我々のソリューションの価値が高くなるんです。

この戦略に基づき、同社はまずアイルランドとイギリスで欧州市場に参入。今後は欧州の半島地域や、アジア、オーストラリアへの展開を目指している。

一方、日本市場については課題が多い。日本政府は2030年に向けて再生可能エネルギーの割合を36〜38%に引き上げる目標を掲げているものの、自然条件の変動により需給バランスの乱れを引き起す太陽光発電、風力発電については、一定の範囲内におさえられた目標となっている。

確かに現在の状況では、エクセルギーのようなスタートアップが日本市場に参入することは容易ではない。しかし、エクセルギーが得意とする「電池+制御」技術で需給バランスの問題を克服することができれば、時世は一気に追い風になる。ここで彼らが考えているのは、日本発のスタートアップでありながら、欧州で展開した足跡を元に、日本市場に参入する〝逆輸入〟戦略だ。

日本国内でも大規模な風力発電の入札も進んでおりますが、2028年くらいから、再エネ導入ももう一段階進むと考えています。日本での本格的な事業拡大が可能になるのは、おそらく、2028年から2030年頃になるのではないでしょうか。

AEA参加で得られた実証プロジェクトの重要性

ディープテックスタートアップにとって、実証プロジェクトの場を確保することは極めて重要だ。大島氏はこの課題に対し、エクセルギーは2019年から、AEAを共催する三井不動産の協力を得て、千葉・柏の葉スマートシティでの実証プロジェクトを実施、エクセルギーの蓄電池システムを使って、需要家側の電源管理や需給調整市場への参入準備を行っている。

エネルギー系のテックスタートアップにとって、実証フィールドの確保は非常に重要ですが、通常は難しい課題です。多くの場合、ラボや小規模な試験場しか利用できず、実際の商用環境に近い条件でのテストが困難です。

しかし、三井不動産がリスクを取って、柏の葉スマートシティという実際の都市環境を提供してくれたことで、実用レベルで検証することができました。また、我々は海外で実績を積んでいますが、日本市場への参入には国内での実績が求められます。この実証で国内での信頼性を高めることができました。

今後の展望とスタートアップへのアドバイス

エクセルギーの資金調達戦略も特徴的だ。一般的なベンチャーキャピタルではなく、インフラファイナンスや金融機関からの調達を中心としている。「エネルギー領域では事業会社も限られてくるので、我々が狙ってきたのはインフラファイナンスや金融機関、機関投資家です」と大島氏は説明する。

この戦略の背景には、投資家側のニーズも関係します。FIT(固定価格買取制度)切れなどで収益性の高い再生可能エネルギープロジェクトがどんどん減ってきているので、再エネプロジェクトの次としてバッテリープロジェクトに投資したいというニーズがあるんです。

エクセルギーの今後の展望について、日本への市場展開については前述した通りだが、独自のソフトウェアを活用し、各地域・制度に合わせた運用技術の展開を推進している。

我々の野望は、日本初の技術を海外で製品・サービスにして、最終的には日本に戻し、日本に貢献すること。そのためにも、これからさらなるグローバル展開を目指していきます。

エクセルギーの経験は、他のスタートアップにとっても示唆に富んでいる。大島氏は、海外展開を考えるスタートアップへのアドバイスをこう語った。

最初から海外を視野に入れた「グローバルスタンダード」で考えることが重要です。海外の先端事例にアクセスできることは、製品やソリューションの価値以上に大きな意味を持ちます。一方で、スタートアップ単独での海外展開には限界もあります。 我々も、欧州では自力で展開しましたが、アジアなどへの展開では日本の大企業のコネクションを活用しています。レピュテーションを重視するアジア市場では、大手企業の看板をいかに使えるかが、スタートアップの成長の鍵になるでしょう。

エクセルギーの挑戦は、単に一企業の物語ではない。それは、日本のエネルギー政策の課題、ディープテックスタートアップの可能性、国際市場での日本企業の競争力を考える上で、重要な示唆を与えてくれる。再生可能エネルギーの普及が進んでいく中で、電力の安定供給を実現する技術の重要性が見直される中、エクセルギーの名前を見聞きする機会は増えていくだろう。

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