本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載
CESで多くのスタートアップがひしめき合うスタートアップ展示エリア「Eureka Park」で、特に存在感を示していた国の一つがオランダだろう。先に掲載したOneThirdもそうだが、今回紹介するCarbonXもオランダ出身だ。日本では、社会や環境改善のためのスタートアップは国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の括りで紹介されることが多いが、CESでは社会や環境に対して責任を果たす「ResponsibleTech」というブースが設置され、CarbonXはここで注目を集めていた。
CarbonXの創業者Rutger van Raalten氏はデルフト工科大学で15年間にわたり炭素構造を研究してきた化学エンジニアだ。この技術のライセンスを大学から受け、カーボンブラック材料を注入した新しいタイヤを作り出した。
CarbonXでは、電気自動車(EV)用のサステナブルなタイヤを製造しており、タイヤの転がり抵抗を10%改善することが可能だ。カーボン素材をゴムに混ぜて熱伝導を良くすることで、タイヤの摩擦を減らしつつ、路面に合わせて変形させ、トラクションを維持する能力を保つことができるのだ。
タイヤに関連するCO₂排出の80%以上は使用段階で発生している。しかし、グリップや耐久性を犠牲にすることなく燃費を向上させる方法は少なく、タイヤメーカーの多くは、生産段階や原材料の調達(つまり、CO₂排出の20%未満の部分)にのみ焦点が当てられてきた。
CarbonXでは、燃費、摩耗、グリップを最大化すべく、独自のトレッドコンパウンド(ゴムに、カーボンブラックやシリカなどの補強材を配合したもの)の開発に着手。カーボンブラックとシリカをCarbonXで置き換えたとき、効率を最大化できたという。
ヨーロッパでは複数社の高級タイヤメーカー、自転車部品メーカーなどがCarbonXと、この製品の生産を注文し供給してもらう契約を結んだ。また、ガソリン車と比べ、EVは一回の充電あたりの航続距離が短いことから導入を懸念する人も多いが、EVの航続距離はタイヤ性能に大きく関係することがわかっている。
タイヤメーカーのみならず、EVメーカーもCarbonXの技術に注目を始めている。同社はこれまでに500万ユーロ(約6.9億円)を調達しているが、注文に対応するための新たな資金調達を計画している。
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