2015年の世界スタートアップ・エコシステム・ランキングが発表

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世界スタートアップ・エコシステム・ランキングへようこそ。前回のスタートアップ・エコシステム・レポート発表となった2012年11月から約3年の月日が流れたが、それ以降もスタートアップ・セクターは良いペースで成長を続けている。

2015年のランキングのポイントは、内容を刷新したコンポーネント・インデックスで、世界中の20のスタートアップ・エコシステムの情報をランキングしている。このインデックスは、パフォーマンス、ファンディング (資金調達)、タレント(人材)、マーケットリーチ、スタートアップ・エクスペリエンスの5つの主要なコン ポーネントでランキングしたものだ。

1. スタートアップ・エコシステムにおける、社会経済影響度の上昇

20年前、ほとんどのテック・スタートアップはシリコンバレーやボストンのようなスタートアップ・エコシステムで設立された。今日、テクノロジー起業は世界的な現象であり、シリコンバレーのようなスタートアップ・エ コシステムも世界中で急速に成長を見せている。互いにつながりあった、世界的なスタートアップ・コミュニ ティが形成されつつあり、この新しい経済の世界をナビゲートしてくれる術を誰も提供してくれない中で、我々は頼りになるようなデータや数字を集めた。

2011年9月、起業が活発化し、それが生じる背景についてブログを書いた。現在はその真っ只中にあって、起業家がスタートアップをスケールさせ、これまでにないスピードでユニコーンへと成長させるための、さまざまなツール、リソース、市場条件が整い、またとないタイミングと言ってよいだろう。

世界中のスタートアップ・エコシステムの隆盛は、現在起きている社会経済構造の変換の一つとして見られるべきだ。情報時代のビジネスは経済成長を支配する源となり、これまでの時代の多くの工業やサービスビジネスを自動化したり、別のものに取って代わったりしている。この構造変化の部分々々を別の表現で説明する人も少な くない。Marc Andreessen は Wall Street Journal のエッセイの中で「ソフトウェアが世界を飲み込む理由」と書き、Deloitte の Center for the Edge が半年に一度発表するレポート「Shift Index」、Richard Florida の Creative Class Group は「クリエイティブ・クラスの隆盛」など、このテーマに関して多くの書籍を出版している。

テクノロジー・スタートアップが情報経済で重要な役割を占めることを考えれば、健全なスタートアップ・エコシステムこそが、将来において重要性を増してくる。このレポートでは、起業家、投資家、立案者に対しては、我々が収集分析したデータ無しには回答が難しい重要な問題に答え、一般の人々に対しては、スタートアップ・エコシステムにおける社会経済の重要性が増していることを気づいてもらい、世界中のスタートアップ・エコシステムの発展を加速させたいと考えている。

このレポートの主な目標の一つは、さまざまな業界関係者が、以下のような質問に答えやすくすることだ。

a) 起業家に対して

「新しい会社を始めるとしたら、どこがよいか?」
「準備はできているが、私のスタートアップの2つ目のオフィスはどこに開設すればよいか?」

b) 投資家に対して

「ただ身近にあるというだけで、自分の地元のスタートアップ・エコシステムにのみ投資するのではなく、世界中に投資機会を見出すにはどうすればよいか?」

「新興のスタートアップ・エコシステムに関する情報が無いため、新しい投資機会を見出す上で、どの市場にフォーカスすべきかをどう判断すべきか。」

c) 立案者に対して

「自分の地域のスタートアップ・エコシステムの成長を最大化する上で、どのイニシアティブを優先すべきか?」
「このようなイニシアティブの進展をどのように計測すべきか?」

d) 他のすべての業界関係者に対して

「私のいるエコシステムで、全般的な活気や起業家精神を高めるための最良の方法は何か?」

2. 世界スタートアップ・エコシステム・ランキング2015

難しい話は抜きにして、ランキングと分析をご紹介しよう。

重要な事項として、このインデックスには中国、台湾、日本、韓国のスタートアップ・エコシステムは含まれていない。言語障壁の問題から、我々の力ではランキングに必要な情報を十分には集められなかったからだ。今年後半のランキングには、これらの国々のエコシステムの情報も含めたいと考えている。

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3. 5つの重要な発見

1. エコシステムは互いにつながりあい、スタートアップ・チームはより国際的になっている。

a) スタートアップに対する投資において、地元からではなく世界から出資がなされる割合

トップ20のエコシステムのすべての資金調達のうち37%は、少なくとも一つ以上の他のエコシステムからの投資家を受け入れている。北米においては41%。

すべての投資ラウンドのうち27%は、少なくとも一つ以上の投資家を海外から受け入れている。(北米20%、ヨーロッパ38%、アジア太平洋地域29%)

b) 世界に散らばるスタートアップ・チーム

トップ20のエコシステムのうち、スタートアップの拠点を置くエコシステム以外に設置されたセカンド・オフィスの数(別の場所で設立され、移転してきたスタートアップ)は、2012〜2014年で8.4倍に増加している。

c) 国際チーム

スタートアップにおける外国人雇用者の数は、トップ20のエコシステムで平均29%(シリコンバレーでは45%)。

2. グジット・バリュー

トップ20のエコシステムでのイグジット・グロースの合計数は、2012〜2014年で年間78%増加している(40% は IPO、60% は買収)。

イグジット・バリューの成長率を見てみると、シリコンバレーではこの2年間で47%上昇しており、他のエコシステムではこの値はさらに著しいスピードで上昇している。

ロンドンは同じ期間で成長率が4倍、ベルリンは20倍に成長している(これは主に、Rocket Internet と Zalando による2つのIPOの影響を受けたもの)。

<イグジット・グロース一覧表>

平均より2倍以上の成長を見せたエコシステム
Berlin 20倍
Bangalore 5倍
Amsterdam 4倍
London 3倍
Tel Aviv 2倍
平均より1.5倍以上の成長を見せたエコシステム
Seattle 1.5倍
Austin 1.5倍
Boston 1.5倍
平均的な成長を見せたエコシステム
Singapore 1倍
Vancouver 1倍
比較的穏やかな成長を見せたエコシステム
Los Angeles 0.5倍
Silicon Valley 0.5倍
New York City 0.5倍
停滞気味のエコシステム
Paris 0倍
Moscow 0倍
Chicago 0倍
Sydney 0倍
Toronto 0倍

ヨーロッパ 対 アメリカ

アメリカの上位エコシステムよりも、ヨーロッパの上位エコシステムの方がイグジット・バリューの成長スピードは著しく速い。2012〜2014年で比べてみると、アメリカの1.5倍に対して、ヨーロッパの4.1倍だ。2014年で見てみると、イグジットの規模では、ヨーロッパよりもアメリカは平均34%大きい値となっている。

分析

他のエコシステムが短期的には速いペースで成長しながらも、従来からある8対2の力関係の均衡に向けた収束への期待から、今後数年間にわたり、シリコンバレーは現在の位置に君臨を続けると考えられる。つまり、シリコンバレーは全体のイグジットの30〜50%をつかみ、次なる3つのスタートアップ・エコシステムが全体の30〜50%をつかみ、さらに、次なる16のスタートアップ・エコシステムが残りの20%を分け合う、という図式だ。

3. スタートアップ・エコシステムにおける、VC投資のトレンド

トップ20のエコシステムにおけるVC投資は、2013〜2014年にかけて、全体で95%上昇している。

a) VC の成長

VC 投資の際立ったエコシステムは、ベルリンの12倍、インド・バンガロールの4倍、アメリカ・ボストンの3.7倍、オランダ・アムステルダムの2倍、アメリカ・シアトルの2倍だった。一方、シリコンバレーは2013〜2014年にかけて93%成長と概ね倍の成長を遂げており、CrunchBase によれば、シリコンバレーにおける VC の増加の多くは、アーリーステージよりも、レイトステージのシリーズ B からシリーズ C+ にかけてのものである。この傾向は比較的鈍化している。

b) シードラウンドの増加

この2年間で、シードラウンドの数において、最も年間成長の速かったスタートアップ・エコシステムは、インド・バンガロールの53%、オーストラリア・シドニーの33%、アメリカ・オースティンの30%だった。アメリカ・ボストンのほか、カナダのバンクーバーやモントリオールも、わずかながら値を伸ばしている。

4. 2012年からのランキング変化:勝者と敗者

大きな跳躍を見せたスタートアップ・エコシステムは、ニューヨーク、オースティン、バンガロール、シンガポール、シカゴだった。ニューヨーク市は、常連組の中でも著しい成長を見せ、5位から2位の座へと上昇。テキサスのオースティンは、3年前のランク外の状態から14位の座へと駆け上がった。バンガロールは19位から15位、シンガポールは17位から10位、ベルリンは15位から9位、シカゴは10位から7位へランクアップした。

大きなランク下降を見せたエコシステムは、バンクーバー、トロント、シドニー、シアトルだ。バンクーバーはトップ10位から脱落し、9位から18位へ。トロントは8位から17位へ、シドニーは12位から16位、シアトルは4位から8位にランクダウンした。これらのエコシステムは過去3年間成長はしているが、他のエコシステムほどスピードが速くないため、取り残されてしまう危険をはらんでいる。

2012年以降、完全にランク外に落ちてしまったエコシステムは、チリのサンチアゴ、オーストラリアのメルボルン、カナダのウォータールーだ。サンチアゴは当初は著しい成長を見せたが、すぐにそのピークを見せ始め、メルボルンやウォータールーの成長はそれぞれ、シドニーやトロントといった近接する大きなスタートアップ・エコシステムの影響を被った。性格の似通った小規模なエコシステムはしばしば、近接する大きなエコシステムに人材や資本が飲み込まれる傾向にあるため、成長を続ける上で難しいことがある。

5. スタートアップ創業者における、男女の共同参画

すべてのスタートアップ・エコシステムにおいて、男女の共同参画は不足傾向にある。心理学者や社会学者が 50/50 こそ求めるべきもの、として議論を続ける一方で、男性と女性の創業者割合が同じになりつつあるエコシステムは存在しない(フロリダ州立大学の心理学教授 Roy Baumeister 氏による、この記事を参照のこと)。

概して言えば、女性起業家のトレンドは上昇傾向にある。世界のスタートアップ・エコシステムにおける女性起業家の数は、この3年間で80%増加した。トップ20のエコシステムのスタートアップを見てみると、2012年にはスタートアップの10%に女性起業家がいたが、現在では世界平均で18%に伸びている。女性創業者が30%を占めるシカゴでは、トップ20のエコシステムの中でも女性起業家の割合が最大数を占めている。

4. 2012年から何が変わったか? その背景は?

CrunchBase や他のデータ供給元、60以上のローカル・パートナーの協力により、多くのデータをもとにして、2015年のレポートは利益をもたらした。このレポートは、それぞれのエコシステムに対して、より内容が濃く、より正確な評価を可能にするだろう。スタートアップ・エコシステムがどのように機能し、どのように発展しているか、専門家の視点を反映した、より適合性の高い数学的モデルの開発も実現できるだろう。この高品質なモデルは、より改善されたスコアリング・ランキング手法の礎となるものだ。

今回のレポートでは、(従来版に比べ)我々の計測・分析手法に以下のような変更を加えた。

a) エコシステム価値(イグジットや資金調達における、スタートアップ企業価値の合計金額)の追加

b) より改善された見積数の包含(エコシステムにおけるスタートアップの合計数)

c) パフォーマンス・インデックスから、「人口一人当たりに対するスタートアップの数(スタートアップ密度)」を削除

これらの変更は、テルアビブもそうであるし、カナダのウォータールー地域が55万人しかいないにもかかわらず、比較的高い成長率を保っているためだ。しかも、これらの地域は2012年版よりも2015年版において、ポジションを下げている。ニューヨーク市が高いポジションにつけていることにも説明がつく。

【via Compass】 @startupcompass

【原文】

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