起業家精神のセレブ化は危険なものか?

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【原文】

テック起業そのものがセレブ化しつつあることは明らかである。以下は、アメリカ全体のレベルで見た実情を手早くまとめたものだ。

セレブによるスタートアップ投資が生み出したもの

Facebook 創業への道のりが、長編ハリウッド映画「ソーシャル・ネットワーク」の中で描写されている。Ashton Kutcher、Justin Timberlake、MC Hammer、Lady Gaga、Justin Bieberなど、ハリウッドのセレブたちがテック・スタートアップに投資、シリコンバレーでその名を定着させつつある。主要なテック・スタートアップによる雇用機会増大で、ホワイトハウス承認Startup America Partnershipなどのプログラムが増加。Bloombergがニューヨーク・バージョンのTechStarsと称されるアメリカンアイドル風のテレビ番組を制作し、Bravoも「Silicon Valley」という本格的なリアリティショーを制作している。そして、FacebookからZynga、Groupon、Pandora、LinkedInまで、株式上場する新たなテック企業が増えている。

このような注目の結果、TechCrunchが「役に立たない、新時代のシリコンバレー(The New Silicon Valley Douchebag)」と呼ぶ現象まで起きた。今は誰も彼もがエンジェル投資家で、起業家のセレブ化が進むばかりだと言っても過言ではない。

起業家精神のセレブ化は、諸刃の剣

さて、この諸刃の剣をどう扱うのかという話から始める必要がある。そうすれば、シリコンバレーの精神が注目の熱で消えてなくならずにすむからだ。

セレブ化がどうして諸刃の剣なのか? ある面で、セレブ化は世界中から才能のある人を新たに数多くシリコンバレーに惹き付け、多くの多感な若者にウォール街の銀行マンやハリウッドスターになるよりも起業家になりたいと思わせる。これは間違いなくとても良いことだ。シリコンバレーの気質は、ほとんどの若者が世界中で聞かされる話よりもはるかに力を与えるものだ。数ヶ月前、私たちのオフィスにはデンマークの起業家団体が訪れていた。彼らによれば、デンマークの若者が世界を変えたいと話をすると、ほとんどの人がその若者たちに「世界を変えようとするあなたは誰ですか? 座って机に向かいなさい。学校へ行き、仕事に就きなさい。まずは自分を知りなさい。」と言うらしい。

そんなよく聞かされる話を、完全になくしたいと私は思う。だが、社会の流れを逆方向に動かしたりせず、起業は誰にでもできて、すぐにお金持ちで有名人になれるという幻想を広めるのはやめよう。Eric Ries氏は最近、「起業はクールじゃない、魅力的でもないし、本当に厄介だ。退屈で疲れる。こういうことは絶対に映画のシーンにはない。」と好んで言うようになった。私も、そういうことがBravoのリアリティ番組で取り上げられるとは思わない。

セレブ化の影響によって、あるタイプの人たちが突如として急増している。私たちはその人たちを「スターに憧れる起業家」と呼んでいるのだが、こういう人たちが急増していことは、健全なスタートアップのエコシステムにとっては実に危険だ。数ヶ月前、College Humorが「スターに憧れる起業家」についての面白い風刺ビデオを発表した。悲しくも、少し痛いところを突いている。

スターに憧れる起業家

「スターに憧れる起業家」には2つのタイプがあるようで、1つめはハリウッドから来た何もしない「アイデアマン」で、次世代のソーシャルメディア・アナリティクス・プラットフォームでびっくりさせようとする。あるいは、MBAを取得したばかりの自称「ビジネスモデルとマネタイズのエキスパート」なのかもしれない。このタイプは嫌らしいほどほら吹きだが、害は比較的少ない。

2つめのタイプはさらに危険だ。このタイプにはテックプロダクトの構築に豊富な才能を持つエンジニアやデザイナーが含まれるのだが、彼らはセレブ化の熱に影響され、「こんにちは。私はXXアプリの創設者でCEOです。」と言おうとする野心を抑えている。だから、大きな問題を実際に解決し、将来ビッグになるような企業に彼らの才能を活かす代わりに、誰も欲しがらない退屈なiPhoneアプリをまた作ってしまう。その結果、ビッグになりうるスタートアップの多くが、雇用する人も見つからず、機能しないチームに悩まされている。

この「スターに憧れる起業家」ウィルスを、伝染する羞恥の病、もしくはもっと悪い状況になる前に、駆除する必要がある。このウィルスがなぜそんなに致命的なのかという理由は、うわさや混乱の高まり、モチベーションの低下、才能の不適切な活用によって、 アーリーステージのスタートアップ・エコシステムが起業家の経済的可能性および社会的影響を容赦なく制限してしまうからだ。

幸い、2つの「スターに憧れる起業家」タイプには同じような治療方法がある。私は、社会学的で方法論的という2重の長期的アプローチを勧める。(「スターに憧れる起業家」は経済的影響においても長期的な社会への影響においても何も達成していない。)

 

「スターに憧れる起業家」を撲滅する方法

「スターに憧れる起業家」ウィルスの撲滅に効くアプローチの1つは、その感染者を無視することだ。スターに憧れるという自己愛性人格障害者から活力、すなわち、「注目されるということ」を奪う。

もっと深刻な場合には、もっと強硬なアプローチを用いる方がいいかもしれない。妄想的な陰謀者のまねをして、「確認」「中傷」「無効」「消滅」という4段階のアプローチを通じて戦おう。「スターに憧れる起業家」からアイデアを聞くとき、微笑んだり、うなづいたり、(たとえ冗談でも)「すばらしいアイディアだ」と言ったりしてはいけない。彼らのアイデアはつまらないと言おう。もしくは、少しはっきり言い過ぎだと思うなら、少なくとも、取り組みの中でそれが本当に一番重要なことなのか、一生砂糖水を売りたいのか、それとも世界を変えたいのかと聞いてみる。

ハリウッドの栄光を忘れ、現実世界に戻って考えてみる

秩序立てて言えば、投資家も起業家も企業がスタートアップのライフサイクルのどこに位置するのかをよりよく認識し、結果を見守る必要がある。(Startup Genomeはスタートアップライフサイクルの成長段階を「発見」「承認」「効率」「拡大」と呼んでいる。)「発見」と「承認」の段階を通過する必要性を標準化すれば、特に、何ということもない新たな「to-do リスト」アプリを誰も欲しがっていないことが数ヶ月で明らかになるだろう。そして投資家は適切な額の投資をすることができ、起業家らもロープを隠し持って自分の首をつることもない。このアプローチは実践的で、人は起業する権利を持つべきではないという非現実的な権威主義を回避する。これは、「スターに憧れる起業家」に空想を追い求めるなと言っているのではない。力で素早く、彼らと彼らのハリウッドの栄光を現実の世界に引き戻し、実際に重要である仕事をさせるようとするだけだ。これによって、明日の経済を動かすスタートアップ・エコシステムのガラクタは片付く。

テック起業界は、継続的な経済繁栄につながる、世界で最良の道筋の1つとして、当然、多くのメディア、注目、お金を引き寄せている。だが、真に世界を変えるような企業を作っている人たちだけに、称賛が与えられるということを学ばなければならない。さもないと、「スターに憧れる起業家」ウィルスが蔓延してしまう。

起業家のパワーが高まるにつれ、私たちがどうして起業するのかという理由を、社会が必死で思い出そうとするのを見たいものだ。名声、称賛、お金のためではない。それは、世界を変え、人類を前進させるプロダクトを構築するためなのだ。

【via Startup Compass】 @startupcompass


著者紹介:マックス・マーマー

マックスは、Startup Genome の創業者で、イノベーションや経済成長の論客であり、スタートアップの失敗率の高さについて言及している。Startup Compass は、世界1万6千社以上のスタートアップに採用されている。 Twitter アカウントは @maxmarmer.