シャープが製造ノウハウを新興企業に「伝授」ーーさくら、ABBALabと共同で「モノづくり研修」11月から本格開始へ

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シャープは10月12日、Internet of Things(以下、IoT)などでスタートアップを目指す新興企業を対象にした合宿形式のモノづくり研修プログラム「SHARP IoT. make Bootcamp supported by さくらインターネット」11月から開始すると発表、参加者の募集を本日より開始した。

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奈良県天理市にあるシャープ総合開発センターで実施される合宿形式の研修プログラムで、1回のプログラムは10日間、約70時間かけて設計や品質などシャープが培ってきたメーカーとしての製造ノウハウを授業形式で伝える。講師となるのはシャープの現役技術者で、これに加えてさくらインターネットがIoT向けのクラウドプラットフォームについて、投資ファンドのABBALabがスタートアップ向けの資金調達についてそれぞれ情報を提供する。

参加には費用が必要で1社あたり2名まで参加が可能で85万円(別途消費税が必要)。10日間の受講料の他、宿泊や食事などの費用も含まれる。なお、1名あたりの費用は35万円で1名のみ参加の場合は50万円、追加の場合は35万円が加算されることになる。初回募集となる今回は4社ほどの参加を見込んでおり、同社広報によると年4回の開催で16社32名の参加を目指すとしている。

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さて、大手企業とスタートアップの連携話については今日もこんな話題を載せたばかりだが、ちょっと違った角度の話もやってきている。この「モノづくり」とか「IoT/Makers」といった話題はアプリ経済圏の話と同列で語られることも多いが、実際は仕入れの概念や設計、量産からカスタマーサポート、アフターケアに至るまで全く違う世界観が広がっている。

例えば書籍やノウハウ本一つとっても、アプリ経済圏であればどういう開発言語が必要で、そのサービスにはこういうベンチマークがあり、評価額はこれぐらい、なんていうリアルタイムな情報まで探し出せる一方で、モノづくりの世界では全体像を知ることのできる書籍すらないような状況になっている。

ABBALab代表取締役で、さくらインターネットのフェローも務める小笠原治氏に今回の取り組みのきっかけを聞いたところ、シャープが今後の事業戦略の一環で新興企業との連携を模索しているという話が持ち上がったことから始まったそうだ。そういった経緯なので、いわゆるオープンイノベーションのように共同で事業化を目指すようなモデルではなく、費用についても「適切な価格設定により参加者にご負担頂く方向」(同社広報)にしたということだった。

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具体的な内容だが、こちらのカリキュラムにある通り、10日間本当に隙間なく授業が実施される。驚くべきはこの各コマの講師は全て別の人が担当するのだそうだ。

「ものづくりの基本プロセスは企画から設計、試作、製造、出荷なんですけどこの一通りの流れを『全部』知り尽くしている人っていうのは実はいないんです。これは恐らくシャープさんの中の方でも、ですね」(小笠原氏)。

小笠原氏によれば、特に品質管理については昨今のIoT系スタートアップに見られる「クラウドファンディング・クランチ(資金集めに成功したけど出荷ができない)」という問題があるように、大手メーカーとスタートアップには大きな差があるという。

「シャープの品質がこれぐらいで、スタートアップの品質がこれぐらい(少し低め)だとするじゃないですか。これを同等にしようという話ではなくて、ちゃんとした品質管理の『目標設定』ができるようにしましょうという話が重要なんです。それ以外にも例えばハードウェアは全てゴミになりますから、そうなったらどうするんだっていう話とか」(小笠原氏)。

単にモノを作るだけでなく、部品の調達から資金管理、アフターサービスまでメーカーとして学ぶべきイロハを全て網羅してくれるのがプログラムの特徴になるのだという。

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パイロット版プログラムに参加したtsumug代表取締役の牧田恵里さん

では、どういう企業が参加対象になるのだろうか。実際にパイロット版プログラムに参加した、スマートロック開発中のtumug代表取締役、牧田恵里さんによると、ある程度試作などが終わって量産への道筋を模索しているような段階のスタートアップに適したプログラムになっているということだった。

「何に疑問があるかわかってる状態ですね。NDAもあるのでしゃべれることには限りがあるますがひとつの教室でそれぞれが質問をしまくっていました」(牧田さん)。

牧田さんによれば、このモノづくりの世界では前述の通り、ノウハウ本が少なく、多くは先輩の職人などから伝承される情報が多かったのだという。しかし、その伝承された情報で工場に見積もりを取っても上手くいかないケースもままあったそうだ。

「結果的に作りたいものとの作れるものがかけ離れちゃったり。こういう言葉で話せばこういう見積もりがもらえるんだっていうのがわかったのが大きな収穫でした。こういうコミュニケーションが取れればスケジュールがこれだけ短くなる、とか」(牧田さん)。

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tsumugで現在開発中のスマートロック

2人で85万円という金額も、直接現役のメーカー技術者に気兼ねなく聞けるということから特に高額とは感じなかったそうだ。なお、小笠原氏によれば、このプログラムを経て実際に事業化できるような対象企業に対しては、ABBALabとしてこの受講費用を含めた支援策も検討可能だということだった。ケースバイケースだとは思うが、事業化を急ぐ場合の資金ニーズに対しては有効な方法だろう。

メーカーを目指す牧田さんはこのプログラムを通じてしっかりとした品質の製品をエンドユーザーに届けたくなったと語る。

「ぐっときたキーワードがあるんです。とあるメーカーの方に『君、ガジェット作ってんの?鍵、作ってんの?』って。所詮、スタートアップってまだそういう風に見られているんだなぁと。でも実際には自分たちの品質基準がまだないので、それを作るためにもまだ時間もかかると思っています。こういった部分を大手のノウハウを活用して自分たちの品質基準作りに繋げることができればいいなと。安心して沢山の方々に使ってもらえる鍵にしたいと考えてます」(牧田さん)。

DMM.make AKIBAで3年間、ようやく製品の試作や少量の量産はできるようになったと振り返る小笠原氏。しかし、今回のプログラムを通じて数十万個レベルの量産に耐えられるスタートアップを多く輩出したいと未来を語っていた。

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