シリコンバレーのトップ投資家が予見する、2017年のテックトレンド

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Image credit: Google StreetView

2016年はスタートアップにとって興味深い1年となった。高い評価額と栄光のユニコーン到達の狭間で、起業家たちは必死に、資金提供だけが目的でないような個人投資家を探し求めた。結果として、彼らの株式公開は遅くなった。また、VCファンディングは2015年と比較して大きく減少した。

ロンドンに拠点を置く監査法人 Ernst & Young(EY) は、米国企業が第3四半期現在で2,802のVC投資で413億米ドルを調達したとレポートしている。サンフランシスコのベイエリアだけで、916件、169億米ドルが投資されている。EY の米国 VC リーダー Jeffrey Grabow 氏は VentureBeat に e メールでこう語っている。

昨年の第3四半期と比較して、VC ファンディングは減少しています。

この減少にはいくつかの理由があります。その中で主なものは、すでに投下された資本をマーケットが吸収する必要があったということです。ベンチャーパイプラインの後期ステージに、資本が怒涛のように流れ込み、存在するほとんどすべての案件に投資されました。この賭けがどう転ぶかを見極めるときに来ています。

では、2017年には、スタートアップは何を選択できるのだろう? Grabow 氏は、全体的には、VC ファンディングは減少し続けると推測する。Silicon Valley Bank(SVB)はこの予測を裏付け、VCファンドレイジングはおよそ250億米ドルにとどまるとしている。これは2016年と比較しておよそ38%の減少である。SVB のその他の予測は以下の通りだ。

  • 大手のクラウドファンディングプラットフォーム(AngelList、Republic、OurCrowd など)は前年より大きく成長する。理由は、起業家がシード資金を調達する代替手段を探すため。
  • エクイティ(株式投資)を集めるにはより時間が必要になり、シードステージでの融資への需要がより高まる。

VentureBeat はまた、数社のVC企業にインタビューを行い、2017年の見通しを聞いた。

mg-siegler-300x336M.G. Siegler氏、GV(前 Google Ventures)ジェネラルパートナー

投資先:Medium、Slack、Stripe、Giphy、Periscope(2015年にTwitterにより買収)

2017年に注目を集める技術トレンドは何でしょうか?

人工知能とマシンラーニングは、明らかに2017年もスピードを上げ続けるトレンドでしょう。その一派として私が特に興味を持っているものがあります。話せる/聞けるコンピューティングはいずれも、2017年にさらに盛り上がるでしょう。

Amazon Echo や、もっと最近では Google Home のような製品がこの種をまいたことは間違いありません。

2017年にかけて、Apple の AirPods のような製品が、違った形でこのトレンドを広げていくと予想しています。

貴社は2017年、何か特定の分野に投資する予定ですか?

私自身の見方では、コンスーマ向けの技術は投資の面ではここ数年控えめでした。理由は明らかです。私たちは次の大きな新しいプラットフォームが生まれるのか、それがいつなのかを待ち構えていたのです。元来こういうことは周期的に起こりますので、2017年はその土台が整っています。

2016年、貴社はシリコンバレーに本拠を置くスタートアップに何%投資しましたか? 2017年その割合は増えますか、それとも減りますか?

シリコンバレーは中心的地位に留まりますが、当社はそれ以外の地域でも良好なポートフォリオを確立できたと思います。当社は米国では、ニューヨークやボストンといった、より伝統的な技術セクターにもとても積極的です。また、アトランタのような地域でも強力なポートフォリオを有しており、FullStory、Ionic Security、Luma、Pindrop Security などがあります。そして、ミシガンのアナーバー、「Go Blue(訳注:Go Blue はミシガン大学スポーツチーム Wolverines のテーマ)」、私の心の故郷でもありますが、Duo が拠点を置くここを忘れてはいけません。そしてもちろん、当社はヨーロッパにも多くのポートフォリオ企業を持っています。

このような地域の分散は、時とともに拡大しており、自然なことだと思います。2017年に興味深いもうひとつのトピックは、サンフランシスコと比較してオークランドにどれだけのスタートアップが根ざすかということです。

テックバブルは2017年はじけると思いますか?

2009年にも、10年、11年、12年、13年、14年、15年、そして16年にも予想されたように、ですか? いえ、私はそう思いません(笑)。

© 2013 Eric Millette
© 2013 Eric Millette

Jerry Chen氏(Greylock Partners パートナー)

投資先:Cloudera、Docker、Gladly

2017年に注目を集める技術トレンドは何でしょうか?

AI はどこにでもあり、したがって、どこにもないようにも見えます。

AI を実装したエンタープライズアプリケーションは、CRM(カスタマリテンションマーケティング)、IT ヘルプデスクといったホリゾンタル(一般的分野)でも、ヘルスケア、建設、フィンテックといったバーティカル(特定分野)でも、次世代のアプリを実現する隠れたブレイン(脳)となるでしょう。

セキュリティとデータの主権性(自国企業や、他国領土内の政府機関のデータを守る国家)が企業だけでなく国家的な優先事項になると思います。

貴社は2017年、何か特定の分野に投資する予定ですか?

新興テクノロジーが当社の注力分野です。自動運転車は何十億ドルもの機会をつくるでしょう。コンピュータビジョン、センサーやマッピング、そして運転システムといった自動運転技術の改善がみられると思います。個人的には、ヘルスケアや産業分野といった主要なバーティカルは、新規スタートアップにとって可能性の高い分野だとも思います。

2017年は、IPO に良い年になるでしょうか?

将来の評価額やIPOを予測することができませんが、自信をもって言えるのは、2017年には前年と比較してより多くの IPO が起こるだろうということです。

テックバブルは来年はじけると思いますか?

バブルがはじけるとは思いませんが、金利の上昇と、リスクをより吟味する投資家があいまって、新しい基準に移行していくと思います。今年の初めには大規模なマーケットの調整が起こり、今後は成長は難しく、バーンレートの高い企業も生き残りにくいでしょう。しかしそれでも、競争力のある参入障壁を作り、資金を戦略的に運用し、効果的な Go To Market(市場に出る)ビジネスモデルを実行するような企業の価値は、市場で認められるでしょう。

alex-ah-300x386Alex Rampell 氏(Andreessen Horowitz ジェネラルパートナー)

投資先:Point、Quantopian、PeerStreet

2017年に注目を集める技術トレンドは何でしょうか?

金融サービスは米国 GDP の10%近くを占め、市場資金は何兆ドルもあります。紙幣(実物の貨幣)はだんだん意味をなさなくなり、より多くの取引がオンライン化され、銀行、保険、投資マネジメントといった物理的な所在地に根差した業界はすべてまとめて、より軽量で使いやすいオンラインの競合に根底から揺さぶられるでしょう。

しかし、この動きは加速すると思います。Amazon はすべてのカテゴリーを制覇することはできません。なぜなら実店舗でのショッピングは即時性があり、商品を手に取ってみることができるからです。そして時には、ショッピングや商品を見て回ること自体が楽しみでもあります。しかしお金は究極のコモディティ商品であり、銀行に行くことは億劫なものです。ですので、オンラインファイナンスが市場の100%を占めることはあり得るでしょう。

将来のIPOについてと、いわゆるテックバブルについて、どう思われますか?

私たちはどの企業が公開されるとか、業績が良いかという予想はしません。また、自社が投資した資金を無駄にするようなことはしません。そして現在がテックバブルだとは思っていません(笑)

ravi_nea-300x375Ravi Viswanathan 氏(New Enterprise Associates ジェネラルパートナー)

投資先:Acquia、BloomReach、Boku

2017年に注目を集める技術トレンドは何でしょうか?

AI は5年前の『ビッグデータ』になるでしょう。当初の大層な誇張は、飛び交うだけのバズワードでなく、実在の問題を解決する真のユースケースに落ち着いていくと思います。AI技術に根差した広範囲のアプリケーションにおいて、アプリケーション層とインフラストラクチャー層の双方に当社は着目し続けます。

アプリケーション層では、セキュリティ、データアナリティクス、マーケティング等のホリゾンタル市場で引き続き資金が投資され拡大するでしょう。金融サービス、ヘルスケア、小売業などのバーティカル市場では、より多くの企業が AI を用いてソフトウェアを構築していくと思います。インフラストラクチャー層では、マシンインテリジェンスやディープラーニングといった新規領域が、投資額の面からも成長していくでしょう。

2017年は、IPO に良い年になるでしょうか?

2016年から始まったポジティブなトレンドは2017年も続くと思います。質の高いテック企業は株式公開に進み、過去のプライベートラウンドの評価額は気にしません。取引は引き続きとても慎重な価格となりますが、マーケットは拡大するでしょう。このトレンドは続き、テック企業の IPO 市場への良い先行材料となるでしょう。

2017年のテック業界では、バイヤーが引き続き慎重な姿勢を見せ、『ユニコーン』現象がより適正な価格に落ち着くのを待つでしょうから、M&A はまだ大きくは増えないはずです。とはいうものの、超優良企業は引き続きプレミアム価格で取引されるでしょう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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