300人のアマチュア・イラストレータが、毎週100着の新作Tシャツを発売するFandora Shop

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(編注:Fandora は、7月に台北で開催された IDEAS Show に登壇している。ピッチの様子はこちらから。 )

筆者のように、Facebook 上で イラストレーター、グラフィック、美術系のファングループに「いいね」する人なら、台湾スタートアップ Fandora のことを気に入るだろう。

2011年に設立された Fandora は、5人のチームメンバーが台湾のイラストレータ・コミュニティにフォーカスし、カワイイ系、癒し系、美術系、アバンギャルド系など、約300人の台湾イラストレータの作品を集めている。

十数回に及ぶピボットの末、今年4月に iPhone ケースとTシャツを主力製品とする Fandora Shop を立ち上げた。このEコマースサイトは順調な滑り出しを見せ、毎月50万台湾元(約164万円)を売り上げ、週に100着以上の新作Tシャツを発売している。イラストレータを支援するだけでなく、プラットフォームで収益を出すこともできている。

同社の資本金は現在260万台湾元(約853万円)で、シリーズAラウンド資金調達の最終局面にあるが、毎月売上が前月の倍になるペースで増収傾向にあることから、ベンチャーキャピタルやエンジェルは同社の将来に楽観的だ。外国メディアは、Fandora が台湾の伝統的な美しさを扱っていると見るようだ。Tech in Asia はもとより、BBC までが Fandora の話を世界へと届けている。

アメリカのポップ画家 Andy Warhol は「将来、人は誰でも、15分だけ有名になることができる」と言ったが、Fandora では、台湾人イラストレータが15分間その瞬間を待ち、その後、16分でも17分でも18分でも、皆から愛され続けることができる。

「自分の絵が酷くても、人の絵を見るのが好きだった。」

創業者たちは、なぜイラストレータ・コミュニティ「Fandora」を作ったのだろうか。創業者の一人である陳俊穎(チェン・ジュンイン、英名:Adrian)が自らの経験になぞらえて語ってくれた。

私はイラストレータ協会の理事の一人です。協会活動への参加に際して、スピーチ文を準備したのですが、私の前の講演者が数名スピーチしたのを聞いて、ある思いにかられました。そこで準備していたスピーチは捨てて、その思いを聴衆に話したのです。

私は中学校の頃、最初の五学期の間、美術の成績は60点でした。落書きは好きですが、手が震えるので絵はとても酷い代物です。中学生の頃コックの仕事をしていて、常に包丁を握っていたからです。しかし、クラスメイトの作品を見るのは好きでした。

最後の学期で、美術の先生が学期成績に99点をくれました。彼は簡単に点数をくれる先生ではなかったので、私の99点はクラスで最高点でした。先生はこう言いました。

「陳君の絵は酷いが、彼はクラスの中で、他の人が描いた作品を最も鑑賞している。美術分野で、他の人の作品を鑑賞する能力を持てれば、一国の美術スキルを上げることにつながるでしょう。」

私はそう話し終えると、我にかえり、Fandora が必要だと考えました。最大の目標は、我々が台湾生まれの Disney や Sanrio になることです。

インタビュー中、彼が以前の記憶を振り返って、まるで幼い頃のもう一人の陳氏を見るかのようだった。中学時代の美術科で、自分が描いた絵は酷く、先生が与えた評価は低い点数だったが、彼は教室を歩き回り、自分のとは異なる色づかいで描かれたクラスメイトの作品を見ていた。そう、彼は決して卑屈ではなかった。むしろ、クラスメイトが描く作品を見て楽しまずにいられなかったのだ。

陳氏は成人してからも、絵画の楽しみを忘れることはなく、ルネッサンスの Leonardo da Vinci や Michelangelo、立体抽象画の Picasso や フランス国籍の華人画家・趙無極(Zao Wou-Ki)の作品を好んだ。絵画が好きであることを忘れず、著名な画家達と一体化し、それを職業にすることを誓ったのだ。

台湾の国立成功大学(以下、成大と略)の物理学科出身の陳氏、成大電気通信学科出身の友人・蘇晏良(スー・ヤンリァン)、台湾大学漁業科学学科出身の林揚瀚(リン・ヤンハン)、そして後に、成大工業デザイン学科出身の陳勁宇(チェン・チンウ)が組んで、イラストレータ・コミュニティ・プラットフォームを作ることになった。

2011年の創業から、デザイン商品の代理販売、イラストレータ作品の共有プラットフォームの経営など、多くの人に美しさの信念を伝えるべく十数回のピボットを経て、今年4月に Fandora Shop を立ち上げた。今回のピボットは、今のところうまく行っているようだ。現在は、iPhone カバーとTシャツを販売しており、毎月の売上は急速に成長し、月の売上は約50万台湾元(約164万円)、毎週100着の新作Tシャツを販売している。

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小ロットで多様な生産ができるしくみづくり

Fandora の実現したいことは極めてシンプル、台湾のイラストレータを世界に披露することだ。多くのイラストレータは自分の力をマーケティングすることができない。有名でない限り、ただ絵を描く能力だけに頼ってやっていくことはできないだろう。

Fandora Shop のプラットフォームでは、イラストレータは自由に作品をアップロードできるようになっている。イラストレータの有名無名にかかわらず、作品の善し悪しは一般ユーザが決定する。イラストレータは、自分の作品をスマートフォン・カバーとして販売するか、Tシャツとして販売するかを選択でき、Fandora が商品として内容がふさわしくないかどうかを判断する。Fandora が商品を拒絶することはほぼなく、現在、このプラットフォーム上には、のべ300人のイラストレータが居て、麵包樹(Bread Tree)潘地耶(Pandiya)など有名イラストレータも抱える。

製造メーカーの確保は、Fandora のようなプラットフォームにおいて、重要な要素だ。

Fandora にとっても、イラストレータにとっても、大量生産し倉庫に保管する売り方は、絶対に不可能だ。在庫のリスクを排除し、1つ売れたら、また1つ作る方法が必要不可欠だ。そこで Fandora は、注意深く、価格、品質、スピード、カスタマイズ能力に長けた製造メーカーを台湾全土から探した。陳氏によれば、現在協力関係にある製造メーカーでは、Tシャツが1時間に6〜7着作れるという。少量多様が実現できる生産設備を持ち、大量生産と違うフローのオペレーションが作れる、Fandora の求めるようなメーカーは非常に少なかったが、ニーズに合いそうなメーカーを探し出し、相互信頼関係を築き、オペレーション・フローを確立した。チームは多くの時間を費やしたが、これをやり続けたために、Fandora は他に追随を許さない競争力を持つことになった。

Fandora Shop の純利益はゼロ、すべての資金をマーケティングに投入

美しいものを追求する人は、一つのことを追求する傾向がある。同時に彼らが創業者ならば、人に支持してもらわずにはいられないだろう。

Fandora の商品単価は500元(約1,700円)前後で、現在は毎月50万個程度が売れている。しかし、彼らは稼いだ金を、自分達の給料を除いて、すべてをマーケティングに投入し、より多くの人にイラストレータ作品を見てもらえるようにしたいと考えている。

このやり方は、非現実的というわけではない。陳氏は、Fandora のマーケティング戦略を、Facebook ファングループの運用、Facebook 広告、イラスト関連アプリ開発の協力に細分化した。いずれも、人々に Fandora を知ってもらう上で必要なことだ。Fandora のことを目にさえすれば、ウェブサイトを訪問し、紹介されている商品に心を動かされるだろう。かわいい挿絵風、芸術風に関わらず、ウェブサイトの中で感動するに違いない。

さらに説明すれば、Fandora の特長は画像にあり、彼らは最も多くの予算を Facebook 広告に使って、芸術、絵画、マンガ等を関心に上げている Facebook ユーザに照準を合わせている。1枚の絵、1行の文字によって、ネットユーザを動かすことができる。愛情、美しさ、友情、賞賛、シェアをもって。

ベンチャーキャピタルの評価

人は美しいもの、カワイイ絵が好きだ。壁に貼られたポスターに始まり、時を経て、それはブログ作家のMSN画像やエモーティコンの旋風を撒き起こし、現在はイラストレータの時代だ。

陳氏は、Facebook を使えば、イラストレータは自らのステージショーを演じられると言う。Facebook のインターフェースや写真共有機能を使えば、イラストレータは写真にストーリー性を持たせることができるからだ。素晴らしい演出で、人に愛してもらえる話を載せれば、アマチュアのイラストレータもすぐに多くのファンを持つことができる。Fandora はこのようなイラストレータと共に、インターネットに特化して、世界に台湾の美しいイラストを見てほしいと願っている。

Fandora は資金調達中で、名前を公表していない投資家の一人は、Fandora は実行力の高いチームで、「商品には独自性があり、クオリティが高く、売上成長もすばらしい。」と述べている。Fandora が持つユニークな点はビジネスの分析能力だ。団結してデジタルカルチャーの発展に取り組み、消費者行動のデータマイニングを研究して創造豊かな経営を行うことで、ライバルブランドの力を軟弱なものにし、Fandora Shop の売上を前月の倍になるペースで伸ばしている。スマートフォンカバーやTシャツに加え、2013年後半は長袖Tシャツや帽子、ノートや文房具に着手する。

陳氏は BBC のインタビューで次のように述べている。

この数十年は、消費者はブランドや大企業に洗脳され、彼らの広告に「あなたはこれを好きなはず」と教え込まれて来た。しかし、インターネットの時代、ブランド・マーケティングは以前とは違う。「小さなブランドが顔を出すことになるのだ。」

インターネットによって距離が関係なくなった今日、作品が好みで商品価値が高ければ、商品を購入する人が誰であっても構わない。Andy Warhol は「将来、人は誰でも、15分だけ有名になることができる」と述べたが、このことをアマチュア・イラストを扱う Fandora の状況に当てはめるなら、こう言えるだろう。

印刷工場、広告会社、ゲーム会社で、昼間は忙しく働くイラストレータが、Fandora のプラットフォーム上で、もう一つ自由に活躍できる舞台を手に入れることができるだろう。そこでは15分間待つだけで、その後、3,000万時間にわたってスポットライトを浴び続けることができる。

【原文】

【via TechOrange】 @TechOrange


著者紹介:鄒家彥(ゾウ・ジァヤン)

人々のため記事を書きたいと思っている。興味深い話、読んでほしい話、見逃せない話を執筆してきた。起きているときはリラックスし、寝ているときは夢を見るのが好き。最近見た印象的な夢は、俳優・余文楽(Shawn Yue Man-Lok)が TechOrange(科技報橘)で仕事していたシーン。

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